表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

95/132

94 炎の噛みつき

 カリラの首筋に短剣をつきつけたヨーフォーク。なまじ硬直しているので、隙がない。


 唸り声。ヨーフォークが眼球を動かしておれの足元を見た。おれも見る。


 黒犬が唸り声を上げ、獲物を狩るように低い重心で歩いてくる。マヒを自力で解いたか。


「ハウンド、動くな」


 おれがそう言った時、後ろからドタドタと複数の足音が聞こえた。


「カカカ殿!」


 ガレンガイルの声。ヨーフォークの視線が動く。黒犬の体が弾けたように飛び出した!


「よせ!」


 おれも飛び出した。左から回り込むように駆ける黒犬を直線で追う。


 黒犬はヨーフォークの数メートル前から鋭く跳ねた。おれも黒犬に飛びつく。


 うしろ足に触れた瞬間、黒犬から怒涛の怒りがおれに伝わってきた。炎だ。黒犬の怒りに燃える炎が見えた。黒犬はヨーフォークの首筋に噛み付く。


 おれはカリラを抱き上げ、ヨーフォークから引き離した。


「あああ!」


 ヨーフォークの叫び声が聞こえた。硬直したまま、首から上が赤い炎に包まれている。


 それがカリラに見えないように腕に包んだ。そのまま立ち上がり駆け出す。部屋になだれ込んで来た憲兵たちの脇をくぐり、霊廟の出口へと走った。


 霊廟から出ると、カリラを地面にゆっくり降ろす。


 出口を見張っていた憲兵から声をかけられた。悪いが無視だ。


 リュックから万能石を取り出す。マヒでも毒でも消すので「万能石」と呼ばれている魔法石だ。


 片方の手に握り、もう片方はカリラの額に置いた。石が鈍く光る。バターが溶けるように、硬直した身体がすっと柔らかくなった。


 それと同時に、カリラが失神した。あわてて息を確認する。大丈夫だ。呼吸は寝ているように穏やかだ。


 おれは、ほっとしてへたり込んだ。四つ足の足音に振り返ると、ハウンドが頭にチックを乗せて近寄ってくる。


 いけね、飛びついた時に、チックを振り飛ばしてしまった。というか、お前ら、いつから仲良しなんだ?


 へたり込んだおれの横にハウンドが座る。おれはチックを自分の肩に移し、ハウンドの頭をなでた。


 あの時、ヨーフォークの頭を燃やしたのは、赤い炎だった。こいつの怒りに呼応して、おれの魔法が出てしまった。


 ハウンドの特殊スキルに「かみつき」とあったから、あれはさしずめ「炎のかみつき」だな。


 しかし、眠い。


 夜通しダネルを治療して、この戦闘だ。チックを地面に置いて、おれは大の字に寝転がった。


 憲兵隊が何か言っているが、ほっとけばいいだろう。それよりカリラを治療院に連れて行きたい。


 そう考えていると、霊廟に上がってくる人が見えた。


 マクラフ婦人?


 銀色の鎧に身を包み、背中には弓を背負っている。カールのかかった長い赤毛は、うしろで一つに結ばれていた。


 まじか、あの格好。魔法戦士だ。


 魔法使いと戦士、両方の特性を持つ上級者。よし、彼女が来たのなら、カリラはまかせよう。


 安心したら、またどっと眠気が来た。もう寝ちゃおう。おれは眠気に身を任せ、目を閉じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ