91 ヨーフォーク邸の二階
ガレンガイル隊長が即座に集めた隊員は十名。
二台の馬車に乗り込み、ヨーフォーク邸を目指す。
憲兵の馬車は乗り合い馬車と変わらないボロさだったが、馬の良さは違った。憲兵隊が使う馬らしく、後ろから見ても筋骨隆々の馬体だ。
馬車は土煙を上げて走った。
途中に、ガレンガイルが空中を見つめて独り言を言った。ロード・ベルだ。
「ああ、わかった」とか、「伝えてくれ」とか話している。
終わったようでおれのほうを向いた。
「二番隊の連絡係と繋がった。西の教団と交戦中だ」
「交戦! 連絡がつくのが遅かったか!」
「いや、おそらく、連絡がついても戦いになっただろう。教団が持つ大聖堂の地下から、子供がひとり見つかった」
「女か! 男か?」
「男の子だ」
カリラではない。残念に思ったが、子供が見つかったのはいい事だ。
「教団もグルだったのか」
おれの言葉にガレンガイルが反論した。
「いや、バルマーの手の者が仕込んだ可能性もある」
それって、そうなるとバルマーの組織は相当な人数がいる事になる。おれは自分たちの人数に不安を覚えて、馬車上の顔ぶれを見まわした。
「西の街の警備もある。すまん、これ以上は連れてこれない」
おれが考えたことがわかったらしい。ガレンガイル隊長が詫びた。
考えたら無理もない。三番隊は一番小さく、昼夜問わず街の警備を交替であたる。今日出ているのは二十人程度だろう。
「カカカよ」
空中から気取った老人の声がした。アドラダワー院長のロードベルだ。
「城の幾人かと連絡は取れた。城は全て崩落した」
おれは思わず頭をのけぞらした。たかが一個の石のために、そこまでするか!
あの時、城の見張り台が崩れた時にバルマー局長はいた。あれは予行練習だったのか。
「院長、小さい女の子がいたとか、人質にされてたとか、そういう話はありませんか?」
「誰が犯人で、何がどうなっているのかも、現地の人間にはわからん。城下街は今、大混乱じゃ」
いなくなった子供は四人。三つの教団にひとりずつ仕込み、残りひとりは人質。そう考えたけど、違うのか。
考えていると、ヨーフォーク邸についた。馬車から飛び降り、玄関の扉を開けようとしたが、鍵がかかっている。
「カカカ殿」
ガレンガイルが横へよけろとジェスチャーするので扉の前から退く。
ガレンガイルは力任せに扉を蹴った。ライオンの輪っかがついた高級そうな扉が弾け飛ぶ。
剣を構え、憲兵隊と共に屋敷に入った。
中に人はいない。物音も聞こえない。二階に上がってみるが、そこも同じだった。
「ここが根城ではなかったか」
ガレンガイルがつぶやいた。だが、他のあてもない。
おれは、はっと思いついた。リュックの中を探る。あった。バルマー局長から貰った三枚の依頼書。
依頼書を黒犬の鼻先に近づけた。
「ハウンド、これを持ってたロンゲ、わかるか?」
言った瞬間に「ロンゲ」と言って通じるわけないと思ったが、黒犬は理解したらしい。すぐに床を嗅ぎ始めた。
このハウンドといい、チックといい、会話がわかるというレベルではない。この二匹とは心が繋がっているのかもしれない。おれがわかってないだけで、こいつらにはダダ漏れ。そんなパターンはありそうだ。
黒犬が屋敷を出たので、おれたちもついていく。
黒犬は家の裏にまわり、山へ登る階段へと向かった。霊廟だ!





