86 三者会議
「それでは、明朝に三つ同時、という事でよろしいな」
会議室の上座に座り、そう言っているのは憲兵隊の総隊長、ブレアソールという男だ。
「我らが当たる東の教団は、もっとも修道騎士が多い。そちらの二隊は終わり次第、加勢していただきたい」
会議室の空中から声がする。この声の主はダリバーディンというらしい。オリーブン城の守備隊長だ。
ロード・ベルを利用した遠方との会議をしている。教団と事を構えるというのは、それほど大きな事態らしい。
だが、明朝とは。子供がさらわれているのだ。間に合うのか。
部外者のおれは会議には参加できず、壁際のイスに座り会議を見ていた。そっと立ちが上がり出口に向かう。
「勇者カカカ殿、どちらに行かれる?」
ぎくりとして、振り返った。ブレアソール総隊長が鋭い目でおれを見ていた。
「いえね、もう、帰って寝ようかと」
「勝手に動かれては、合同作戦に支障が出る。作戦が終わるまでは、ここで待機していただきたい」
「いやもう、そちらにお任せします。おれのような下の者には、出る幕はないです。それでは」
そう言って、すばやく部屋を出た。黒犬は廊下に待機させていた。黒犬がついてくる。廊下を足早に進むと、向こうから憲兵の二人組が来た。
まわれ右して反対に急ぐ。階段があったので駆け下りると、下に憲兵が数人待っていた。
うしろを振り返ると、さきほどの二人も来ている。お手上げだ。
おれは憲兵に捕まり、牢屋に閉じ込められた。
「おい、ミントワール校長に連絡してくれ!」
おれを連行した憲兵に言ったが、何も答えず部屋を出て行った。くそっ。
「カカカ殿、どうなりましたか? 局長の救出はできそうですか?」
空中から声がした。グレンギースからのロード・ベルか!
「グレンギース、だめだ。おれは捕まった。憲兵隊が動くのは明日の朝だ!」
グレンギースは言葉を詰まらせた。そう、それでは遅い。バルマー局長の身を案じるグレンギースも、そう思うだろう。
「私にできる事はありますか?」
考えても、打つ手なし。いや! それでも足掻いてやる!
「防具屋のダネル・ネヴィス、それから治療院のアドラダワー院長に連絡してくれ」
ダネルに言っておけば、何か策を思いつくかもしれない。それから院長は顔が広い。これを聞けば、何か動いてくれるかもしれない。
部屋の外から足音がした。
「誰か来る。頼んだぞ」
返事はない。ロード・ベルを切ったようだ。
部屋に入ってきたのは三番隊の隊長、ガレンガイルだ。
「我が三番隊の役割は、街の守備と、あの離れ島の封鎖だ」
ガレンガイルがおれを見た。おれは何も言わなかった。ここで隊長を責めても何も始まらない。役所勤めの人間には、どうしようもない事は多い。
「すまんな」
ガレンガイルはそう言うと、おれの私物を部屋にある机の上に置いた。
「貴様の私物をここに置いておく。俺はこれから詰所に行く」
貴様? 口調が前に戻っている。おれと仲良くするつもりはないってか。
「明日の朝まで、大人しくしておくように」
そう言って部屋を出ていった。まいったな。完全に嫌われたようだ。いや、待てよ。そうか!
おれは自分のリュックに近づいた。
「チック! チック!」
チックが、カサカサと出てきた。
ガレンガイルのやつ、なかなか味のある事をする。





