84 エンジェルロード
砂浜に着くと、潮は完全に引いていた。
今日は月も明るい。離れ島までの細い道がくっきりと浮かび上がっていた。
浜辺に漁師小屋があった。そこへ馬をつないだ。
離れ島まで走る。人間二人と一匹。砂を踏む足音が夜の海に響いた。
離れ島に着くと、まわりを一周した。特に変わった様子はない。草をかき分け島の中に入る。
島のおよそ真ん中まで進むと、空き地になった。そこに小屋が立っている。そのあたりの木で作ったような、隙間の空いた粗末な小屋だった。
隙間からのぞくが中は暗くて見えない。
小さな戸があった。ガレンガイルが手を掛け振り向いた。おれはうなずいて下がった。剣を握り直す。ハウンドが低い唸り声を上げ始めた。
ガレンガイルが戸を開けた。おれは飛び込もうとしたが止まった。死体だ。
十体ほどが折り重なり、小屋の真ん中に積み上げられている。カリラ!
おれは、あの子を探そうとしたが、死体は全て大人の大きさだ。簡素な服装から見ると、このあたりの村人だろう。
ハウンドは唸り声をやめない。これはおかしいぞ。
「ガレンガイル!」
小屋に入ろうとした隊長を呼び止めた。手で輪を作り交差させる。
「アナライザー・スコープ!」
名前:アンデッド
体力:300
魔力:0
攻撃力:80
防御力:0
魔法:なし
特殊スキル:なし
ガーネット:1
モンスターになってんのかよ!おれはガレンガイルに「下がれ!」と叫んだ。隊長は不思議そうにおれの元に歩いてくる。
「中は他に誰もおらぬぞ?」
「妖獣、アンデッドだ。来るぞ」
ドタッと、上から三つ目、男の腕が動いた。
ガレンガイルは、ぎゅうと剣を握り、怒りの顔で小屋を振り返った。
「妖獣なのか!」
「剣は通用する。魔法はない。だが、攻撃力はあるぞ!」
ガタッガタッと、それぞれの死体が動き始めた。人の形をしているが、皮膚は土気色で顔の肉は垂れ下がっている。目は閉じているか、または空洞かだ。
ふらふらとアンデットの一体が戸口から出てきた。他は柱にぶつかったり、反対方向に歩き、壁にぶつかったりと様々だ。
ガレンガイルは斬れるのか?
この男はクソ真面目だ。元は村人に見えるアンデットを剣で斬る事ができるのか。
不安に思った時、憲兵隊長が一閃を放った。同時に首が飛ぶ。アンデットは一歩、二歩あるき、そして倒れた。
ガレンガイルは、次に戸口の柱にぶつかっていた女のアンデッドに向かった。そのアンデッドが腕をぶん! と振ると、柱が吹き飛んだ! 柱の破片がぶつかり、ガレンガイルが倒れる。
ガタンと小屋が傾いた。
小屋から出てきた女のアンデットに向かって走る。腕を振ってきた。その腕に剣を振り下ろす。ゴリッという音がして腕は下に落ちた。
次の瞬間、反対の腕。おれは盾をとっさに出したが盾ごと吹き飛ばされた!
地面を転がり、立ち上がる。近くに落ちた盾は割れていた。なんて力だ! 女の力じゃない。
おれはもう一度、女のアンデットに向かって駆け出す。腕のないほうの脇をすり抜け、すり抜けざまに足を叩き切った。女のアンデットが倒れる。
そのまま小屋まで走り、折れた柱をさらに蹴った。小屋がガラガラ! と崩れる。
「隊長、逃げよう!」
憲兵隊長と海にできた道を引き返す。潮が満ち始めていて、くるぶしが浸かるほどの深さになっていた。
靴は濡れるが、それどころではない。じゃばじゃばと進んだ。途中で膝ぐらいの深さになったので、ハウンドを抱えて海を渡った。





