81 迷子
ある日の事。
その日は憲兵隊長が不在のため、稽古がなく夕方には家に着いた。
家の扉を開ける手前で立ち止まった。氷屋は、まだ開いている。声をかけてみようか。そう思ったが、なんて言っていいかわからない。
また今度にしよう。店じまいの途中かもしれないし。自分で言い訳をしているのはわかったが、おれは家に入った。
「自分から、歩み寄ってみればどうだ?」と、おれはカリラに言った。まったく、偉そうに子供に向かって言う資格はない。
不貞腐れて葡萄酒を飲み、寝ようとした時だった。ミントワール校長のロードベルで目が覚めた。
「カカカ、すぐ来れますか?」
「どうしました?」
「幾人かの子供が、家に帰っていません」
「すぐ行きます」
おれは装備を急いでつけた。物音にハウンドとチックも起きてくる。
「すぐ出るぞ」
おれはチックを胸ポケットに入れ、ハウンドと夜の道を走った。
学校には、ランタンを手に持った大人たちが大勢いた。学校中を捜索しているようだ。
ミントワール校長を見つける。
「おお、カカカ、四人の子供が家に帰っていません。勇者の力を貸してくれますか?」
「もちろんです。どこかで遊んでいるのでは?」
「その四人は、友達というわけでもないのです。年齢やクラスはバラバラで」
校長は、いなくなった子供の名前と年齢をひとりずつ言った。最後に一年生のクラスで「カリラ」の名を言った。
「手がかりは?」
「今の所、まったくありません」
おれは黒犬を見た。こいつなら探すかもしれない。
教室に走っていった。カリラの私物を探そうと思った。しかし探すまでもなく見つかった。カリラの机の上には、裁縫道具が出たままだったからだ。あの歳で裁縫道具?
「カリラは居残って人形を作っていたのですよ」
息を切らして追いかけてきた校長が言った。机の上の裁縫道具から、黒い布を掴んだ。
「なんでも、黒い犬の人形を作るそうで。先生のひとりに教わっていたそうです」
「では、その先生が知ってるんじゃ」
「いえ、用を足しに席を外し、戻ってきた時にはいなかったそうです」
そんな事って起こるのか? おれは黒い布を持ち、ハウンドの前にしゃがんだ。
「カリラのだ。今日の匂いが辿れるか?」
ハウンドは布を嗅ぐと、次に地面を嗅ぎ始めた。教室を出ていく。いいぞ、おれも校長も、その後について行った。
ハウンドは廊下を少し進むと止まり、その場をぐるぐるまわると「ガウ」と吠えた。
「匂いが、ここでなくなった。おそらく、そう言ってると思いますが、そんな事ってあります?」
おれは校長に聞いたが、校長は青ざめた顔で答えた。
「ない、事はないです。ですが、ありえません。高度な結界呪文を使えば、見ることも声を聞くことも、匂いを嗅ぐこともできません。しかしそれでは……」
「なるほど。人がさらった、という事になる」
「ありえません! ここは学校ですよ!」
「これは」
言葉に詰まった。これは、一大事だ。どうする?





