77 一番うしろの席
「カカカ、カカカよ、起きなさい」
天からの声に目が覚めた。まわりを見る。牢屋だった。
おれのほかに憲兵隊員が三人ほど寝っ転がっていた。どうやら酔い潰れて、ここで寝たらしい。
ハウンドは牢屋の隅で寝ていた。その横に置いたリュックの上にチックもいる。
「カカカよ、起きなさい」
「はい。どちらさまでしょう」
おれは二日酔いの頭を叩いた。
「今日は学校に登校する日ですよ。今、どちらです?」
「ああっ!」
声の主がわかった。ミントワール校長だ。
しまった! 初等学校の授業に参加する日だった。
おれは、荷物と装備をあわてて身につけ、乗り合い馬車の停車場へ走った。
「こちらは、今日から、いくつかの授業に参加する勇者カカカさんです。皆さん、仲良くしてくださいね」
子供たちの前で、おれは苦笑いを浮かべた。おれは多分、酒臭い。そして、硬い床で寝て髪はボサボサだ。
第一印象として最悪。典型的にダメな大人だろう。教室には一二人の生徒がいた。二四の小さな視線が冷たい。
おれを紹介したのはミントワール校長だ。参加するのは「古代文字の初歩」と「魔法の初歩」というカリキュラム。校長が直々に授業をするらしい。
「先生!」
小さな少女が手を上げた。
「なんでしょう、カリラ」
「学校に生き物は持ってきちゃいけないって、言われました」
おれは足元のハウンドを見た。よし、あの子のアダ名をハーマイオニーにしよう。ハリーポッターの優等生と同じだ。きっと口うるさい。
「この犬は、カカカさんの仲間です。冒険者のパーティーは知っていますね?」
教室の子供たちがうなずいた。
「このように、人間以外とも信頼を深めれば、仲間になる事ができます。珍しいですが、危険はありませんので、皆さんは気にしないようにしましょう」
校長がおれのほうを向いた。
「それでは、一番うしろの席へ」
おれはうなずいて、一つだけ空いていた最後尾の小さな席に座る。
この日、おれは一時間目と二時間目だけ受けて帰るという日程だ。
おれは二日酔いの眠い目をこすり、ため息をついた。おじさんになって小学一年生と授業を受ける身になるとは。
これは人生で未だかつてない「努力」が必要だ。一刻も早くマスターして、この教室から退散しよう。





