76 武勇伝
魔獣が現れた冒頭から、憲兵たちは熱心に聞き入った。
ハウンドが仲間になった経緯などは適当に省いた。この世界で一般的でない事は言わないほうがいい。
真剣に聞かれると、しゃべるこっちも熱を帯びていく。ダネルがおれをかばって馬に轢かれた時には、全員が息をのんだ。
そして、話は終盤だ。おれが馬の口を引っ掴み、魔法で頭を黒焦げにしてやったと言った。
「おお!」と雄叫びが上がり、拍手された。それから乾杯が始まる。
おれにもエールが差し出された。長舌をふるい、喉はカラカラだ。一気に飲み干す。
元いた席に戻り「ふう」と一息ついた。
「なかなかに聞かせるのが上手い。語り部か吟遊詩人が務まりそうだ」
部下と乾杯していたガレンガイルが戻ってきた。
「おれとしては、もう、隊長とは飲みたくないですね」
そう悪態をついたが、拍手喝采をもらい気分は高揚していた。
「そう言うな。憲兵だと、街の者が集まる酒場には馴染めん。白けさせるからな。すると身内ばかりで飲む事になる。刺激は少なくてな」
なるほど、面白い話に飢えている、といった所か。
「まあ、おれで良ければ、いつでも誘って下さい」
「そう言われると、心が弾むな。もう少し飲もう。いいか?」
憲兵ってそんなに嫌われてんのかな? そう思うほど、隊長は素直に喜んでいる。
「こんなにウケるなら、怨霊の話のほうが良かったかな」
「怨霊! そんな物とも戦うのか」
隊長が前のめりになった。ここでおれは、ふとグレンギース交渉官を思い出した。なんでも交渉材料にはなるものだと。
「憲兵隊長殿、減るものでもなし、話すのは良いのですが、おれの願いも聞いてもらませんか?」
「ほう、仕事柄、できる事と、できぬ事は明確だが言ってみてくれ」
「たまに、でいいんですが、おれに稽古をつけてくれませんか?」
この隊長と剣を合わせてわかった。あまりにおれは素人だ。それなら師匠が必要だ。ルーク・スカイウォーカーにマスター・ヨーダが必要だったように。
「お安い御用だ。俺の指南で良ければ、それこそ減るものではない。いつでも」
「いえいえ、たまに。隊長が、ひどく暇な時でいいんです」
「それは良くないな。毎日の修練が飛躍的に腕を上げる。そうだな、夕刻五時に仕事は上がる。それから日没までがいいだろう。そうなると、どこから手をつけるかだが」
そう言ってアゴに手をやり考え始めた。この男が、クソがつくほど真面目、というのを忘れていた。
それからおれは、ガレンガイルや彼の部下たちと、夜遅くまでしこたま飲んだ。





