74 間合い
四つん這いなって、なんとか息をする。
ガレンガイルが正面の地べたに座り、あぐらをかいた。
「すまん、大丈夫か? 意表をついた攻撃に、つい動いてしまった」
おれもガレンガイルのほうを向き、あぐらをかいた。
ふと空が色づき始めたのに気づいた。もう夕方か。
「ええ。しかし、イヤになりますね。弱っちくて」
「そうでもない。憲兵隊で言えば下の上、といった所だろう」
それ、弱いじゃねえか。
「どうやったら強くなると思います?」
ガレンガイルは、アゴに手をやって考え込んだ。こういう所がクソ真面目だ。やっぱりおれは、この憲兵隊長が気に入っているのかも。
地べたに座っているのもそうだ。服が汚れるのに、負けた相手を見下ろさないよう気を配っている。
「その剣の長さは、やはり近接戦闘に向いている。やり方は間違ってない。ぶつかって切る」
なるほど。
「しかし、正面からでないほうがいいだろう。それでは相手が崩れない。横からでもいいが、相手の方が高ければ、かちあげる。低ければ乗っかる。そういうのもあるのではないか?」
そうか。考えると、動きは細かくある。
「あとはな、その上着なら、最後まで剣を抜かないというのも手だ」
おれは立ち上がり、剣を鞘にしまった。
「こう?」
「そうだ。上着に隠れて鞘が見えないだろう? 対峙するものは、お前の剣の長さが見えない。間合いが掴めないのだ」
そこまで見るのか!
剣の技術を磨くやつを「剣士」ってたしか言う。剣士と戦う時は、剣で挑むのはやめよう。うしろから石でも投げる。
そんな卑劣な事を考えていると、隊長は、まじまじとおれの服を眺めた。
「その服は、意外に効果が高い。足さばきや身体の動きが見えにくくてな。それも、ダンの店か?」
「いえ、次男の防具屋です」
「黒く塗れば、憲兵でも使えそうだ」
「相談してみればどうです? 武器も含めて」
おれは広告塔になる。ダネルはそう言ってたから、少しは売上に貢献すべきだろう。だが、ガレンガイルは「ううむ」と眉を寄せた。
「あいつら、犯罪者か何か?」
「いや、そうではない。そうではないが、ああいう輩は苦手でな」
「それはわかります。なんせ長男の人相が悪い」
ガレンガイルが笑いをこらえた。隊長もそう思うのね。
「でも、三男はいいやつですよ。この間、この命をもらいました」
「それはひょっとして、魔獣と戦ったという、あれか?」
ここまで噂が広まってんのか。おれはダネルを心のなかで罵った。
「ええまあ。噂はおれがダネルを助けたとなってますが、実は」
「待て」
ガレンガイルが立ち上がった。
「面白そうな武勇伝だな。どうだ? 飲まんか?」
空はすっかり赤くなっていた。なるほど。もう上がりなんだろう。おれも立ち上がった。
「安いとこなら。何を隠そう、この武器はツケです」
ガレンガイルが笑った。
「冒険者家業も楽ではないか。安心しろ。憲兵隊もそう変わらん」





