73 試合
「物乞いを始めたのか?」
真面目な憲兵隊長がおれを見て、最初に言った言葉がこれだ。薄汚れた灰色のコートは、たしかに物乞いに見えなくもない。
「この島にない武器は見せておこうと思いまして」
おれは剣と盾を外し、ガレンガイルの机に置いた。
「短いな」
隊長もおれと同じ感想をもらし、立ち上がって剣を持った。
「仲間に当たるから、短いのを持てと」
「仲間?」
おれは黒犬を指差した。
「番犬ではないのか?」
「いえ、仲間のモンスター、ええと、この国の言い方では妖獣です」
奇異な目で見られるかと思ったが、隊長は意外な感想を言った。
「理にかなってるな」
「かなってますか」
「だが、盾との相性がわからんな。試合をしてみるか」
「ええ。そうなんです。木ですからね。は? 試合って言いました?」
憲兵本部の裏にある練兵場に案内された。ガレンガイルは、倉庫から木の模造刀を持ち出し構えた。
「よし、いいぞ、来てみろ」
「あのー、おれの木刀は?」
「かまわん、その剣で来い」
おいおい、余裕だな。
妙な成り行きになった。だが憲兵隊長という地位の者が、どれほどの剣の腕か? それはちょっと気になる。
リュックとチックを地面に置き、その横で黒犬に待つように伝えた。もらったばかりの木の盾とショートソードを構える。
ガレンガイルは、木刀を無造作に身体の前に構えているだけだ。
踏み込んで突く。木刀で払われた。なら三連続、上、中、下。それもいなされる。
ムキになって突きまくってみる。それでも落ちてきたイチョウの葉でも払うかのように、軽く払われた。
「やはり、短いのは突くには向かんな」
そう言いながら、おれの攻撃をかわす。
なら、切ってみる。おれはやたらめったらショートソードを振り回した。
これも、少し後ろに下がりながら、払ったりかわしたりと、余裕だ。
それなら戦い方を変える。突進して、まず木の盾をぶつけた。そこから首筋へ剣を。
と、振りかぶった瞬間、ガレンガイルが木刀でおれの腕を叩いた。
「アイテッ!」
おれは思わず剣を放した。
「おお、すまんな。つい」
おれはかっとなった。腹が立った。ガレンガイルにじゃない。これほど剣の腕に差があるのかという事に。
しびれた腕で剣を握り、一度、距離を取る。そこから全力で突進した。数歩前で盾を投げ、同時に振りかぶる。ガレンガイルは右に避けた。予想通りだ。上段へ。
ガレンガイルの身体が少し沈んだと思ったら、弾けた。おれの横を駆け抜け、駆け抜けると同時に腹を打たれた。
前のめりに倒れる。息ができなかった。





