68 オリーブ畑
白い風車に行くと、老人の男性が待っていた。
「おお、聞いたとおり、早い」
おれへの指名依頼だったようだ。林檎畑のじいさんから聞いたそうで、おれに言えば早く来てくれると。
「他の人は遅いんですか?」
「報酬が高ければ、駆けつけてくれるが、わしらのような農家ではとても」
たしかに、おれも依頼書を見る時は、報酬を一番に見る。これからも火急案件は受け続けないとダメだな。
「か、肩にサソリが」
じいさんが、おれの肩に乗ったチックを指差した。
「こう見えて仲間なんです」
おれはチックをつまみ上げ、胸ポケットに入れた。それを見たじいさんは安心したようで、おれの先に立って山道を登り始めた。
案内されて、オリーブ畑に着く。
依頼人のじいさんには、白い風車で待っているように注意した。上空に注意しながらオリーブ畑に入っていく。
モンスターについては、マクラフ婦人から聞いている。「デスモダス」という名前は恐ろしいが、小さな鳥らしい。攻撃力は低いが何羽かの群れでいるそうだ。
オリーブの木には、小さな緑の実が無数に実っていた。酢漬けにしたら美味そうだ。
そんなオリーブの木の一つに、緑ではなく黒い果実が実っていた。
足を止めて目を凝らす。うへえ。ぶら下がっているのが何かわかった。蝙蝠だ。たくさんの蝙蝠が木の枝にぶら下がっている。
しかし間違いなくモンスターだ。こんな真っ昼間に蝙蝠はいない。
おれは一旦ナイフと盾を地面に置いた。指で輪を作り交差させる。なんかスキルを使うの久々だな。
「アナライザー・スコープ!」
名前:デスモダス
体力:10
魔力:0
攻撃力:10
防御力:10
水晶:2
特殊スキル:超音波
これは弱いな。ただし、数が多い。二十匹はいそうだ。おれはナイフと盾を拾い、そろりそろりと近づいた。
パキッ。
木を踏む音。ええ、おれ? と思って下を見たら、木は踏んでない。隣を見ると、黒犬が踏んでいた。
おれが見つめたので、黒犬もこっちを向いて「ハッハッ」と尻尾を振る。
おいハウンド。そう注意しようとした瞬間、蝙蝠もどきがいっせいに飛んだ。集団で固まったまま、空高く舞い上がり、おれめがけて急降下してくる!
黒犬をまたぎ、その上で盾を上に構えた。カンカンカン! と連続で盾にぶつかってくる。
おれの盾はタワーシールドなので、楕円形で大きい。このぐらいの小さい敵は防ぎやすいが、大きい分、横からナイフを出しても届かない。
デスモダスの群れが、もう一度、空に舞い上がった。攻撃に来る瞬間に盾をぶつけてみよう。
おれは盾を持った左手を引いて待った。来る。盾を勢いよく上げる。
ぶつけた、と思ったら最初の一羽、二羽ぐらいで、あとは急に方向転換して横から来た!
「アイテテテテ」
小さな爪で引っかかれた。ナイフを振り回す。まったく当たらない。
「アイター!」
髪の毛に一匹食いついた。引っ張られて痛い。あわてて盾を放し、手で払う。
群れはおれの周りを飛び回りながら引っ掻いたり、噛みついたり。猫に引っかかれる程度で大怪我にはならないが、うっすら血はにじむ。
おれは頭の上でナイフを振り回しながら走った。髪の毛をむしられるのが一番痛い。中途半端に長くなったおれの髪が、これ以上むしられたら落武者みたいになりそうだ。





