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60 ハウンド

 黒犬とトカゲ馬がにらみ合っている。


 黒犬が首筋に噛みつこうと飛びついた!それを馬は頭をぶつけて防いだ。


 馬はさらに、地面に落ちた黒犬を踏みつけようと前足を上げた。おれは盾を捨てた。口にくわえたナイフを取る。


「撃て!」


 うしろから光の線が飛んだ。チックのニードル・ブリーズ。続けて火の玉。ダネルの火炎石だ。トカゲ馬はよろけるが、あまり効いてない。


 続けざまに火炎石の炎が当たった。そのあとにチックのニードル・ブリーズ。おれも手にした火炎石を馬に向けた。


 馬がおれを見定め、今までと違う鳴き方をした。するどい突風のような物が身体を通過する。


 自分の胸を見た。麻の服に血が滲み出した。斬撃の魔法?


 手で胸を押さえた。血は止まらない。またチックの魔法が飛んだ。おれは、力が抜けて思わず膝をついた。視界が白くなる。


 肩を誰かが掴んだ。ダネルだ。片手に回復石があった。力が少し戻ってくる。


 馬がダネルに向かっていなないた。斬撃の魔法が来る! しかしダネルには効いていない。


「バカが。こっちは反射石を使ってんだ。効くかよ」


 ダネルがつぶやいた。


 馬がこちらに向かって駆け出す。おれの力は戻ってきている。もう少しで立てる。


「ダネル、逃げろ」

「まだだ。もう少しかかる」


 馬は一直線に走ってくる。


 立つ。絶対立つ。立ってナイフを刺す。馬が目の前まで迫った。あと少しで立てそうだった。


「逃げろ! ダネル!」


 ダネルが青ざめた顔で口元だけ笑っているのが見えた。


 当たる。その瞬間、ダネルはおれを突き飛ばした。ダネルと馬がぶつかり、馬蹄の下でダネルがもみくちゃにされる。


 力が戻った。駆け出す。


 馬は足元に転がるダネルの匂いを嗅いだ。一度いなないて、大きく口を開ける。噛まれる!


 ダネルの上に飛び込み、噛もうとした口を両手で掴んだ。手のひらに馬の歯が食い込んでくる。押し返した。馬は口を閉じようと力を入れてきた。負けねえぞ! くそっ!


 視界の端、黒犬が走ってくるのが見えた。よせ、こっちは人の敷地、入って来れない。そう思ったが、苦もなく敷地に入った。そうか仲間になっていた。


 こいつの首筋、かみつけ!


 逃さないように、馬の口を掴んだ手に力を込めた。


「痛え!」


 黒犬はおれの尻に噛み付いた。


 なんで? と思った瞬間、身体の中から何かが湧いた。


 ゲロが出そうな気分になった。


 身体は燃えるように熱くなり、その熱さは両手に集まった。


 気分の悪さが頂点に達した時、おれの両手から青い炎が出た!


 青い炎は、そのまま馬の頭を焼いていく。どうなってんだ、これ。


 そのまま、ダネルの上に倒れ込んだ。黒犬がのぞき込んでくる。黒犬の目は赤くなかった。目の奥に青い炎が燃えている。


「オレノ名ハ」


 おい、ノラ、今、なんて言った?


「オレノ名ハ」


 視界が白くなってきた。


 犬、犬、犬の名前、ドッグか? それだとそのまま。


 ホットドッグ、アメリカンドッグ。オヤジの車にあったCD、何ドッグだっけ?


「ハウンド!」

「ワカッタ」


 おい、犬よ、待て。そして視界は一度、真っ白になった。


 叫び声、どこかで聞いた声。あの馬、まだ生きているのか。近所の人が危ない。目を開けた。なんだ、ティアか。なら夢だな。


 そしておれは、気を失った。


第三章が終わり、だいたい前半戦が終わりました。読んでいただいた方、まことにありがとうございます。

少し変わった異世界物、という感じで始めたんですが、前半は展開が地味になっちゃいました。後半はもう少しテンポアップすると思います。

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― 新着の感想 ―
[一言] IKZOの旧パクリタイトル、俺は好きでした。脳内で歌っちゃいますもん「はぁーチートもねえ!ハレムもねえ!」
[気になる点] 元ネタはバビル二世でしょうか?
[良い点] IKZOパクリのタイトルでギャグ系に走るかと思いきや、少年誌系?、血がたぎりますわ。後半戦楽しみにしております。
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