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59 トカゲ馬

 馬が、もう一度いななく。


 おれは盾を前にして踏ん張った。衝撃が来る。耐えた。まわりの悲鳴。


 おれは馬の黄色い目を睨みつけたまま、さらに後ろに下がった。腰を抜かしている者が多い。この場から離さないと。


 トカゲ馬がおれについてきた。隣の空き地に誘導する。後ろから唸り声。黒犬だ。一緒に戦おうってか? いい根性してる。


 いいだろう、そう思った瞬間、おれの身体から小さな光の粒が出た。それとは違う光の粒がおれの中に入る。嘘だろう! 仲間になっちゃうのかよ!


 じりじり空き地を後ろにさがり、黒犬の横まで来た。黒犬は身をかがめ、いつでも飛びつく態勢だ。右と左、まわり込んで挟み撃ち。そう思ったとたん、犬が左に駆け出した。考えることは一緒かよ!


 右から弧を描くように走った。


 馬がこちらを向く。盾を前に出した。馬が大きく口を開ける。盾をぶつけた。サメのような歯が盾表面の皮を削る。


 馬の背に影が飛んだ。黒犬。馬の臀部に噛み付いた。馬が後ろ足を激しく振り、黒犬を引き剥がした。馬を見据えたまま、おれも下がる。


 雲から月が出てきた。辺り一面がくっきりと照らされる。近所の人は逃げたようだ。


 視界の右端に人の姿。ダネルだ。家の前で、そろりそろりと何かをしている。わかった。リュックの道具を順に並べている。おれに何があるのかを見せるためだ。ただ、ここからはハッキリ見えない。


 馬がおれに突進してきた。左に逃げる。馬も曲がった。噛み付いてこようとする頭。盾で防ぎ、足の付根にメイルを刺した。深く刺さり馬が竿立ちになる。


 メイルが手から離れた。トカゲ馬は突き刺さったメイルを外そうと暴れる。


 おれは家に走った。ダネルの元に駆けていく。あの野郎、ほんとにありとあらゆる道具がある。


「ナイフ!」


 ダネルがナイフを地面に置いた。この緊迫した状況で手渡しをしないのは正しい。


 拾いながらダネルが並べた道具を見る。ダネルの横に、カサカサとチックが出てきたのが見えた。


「ダネル、チック!」


 横のチックを指差した。ダネルはぎょっとしたが、うなずいて魔力石を手に持つ。これまでの戦闘を話していたのが良かった。


「おれが叫んだら、なんでもかんでも打ち続けてくれ!」


 おれはナイフを口に咥え、空いた手で火炎石を一つ持った。


 くそっ! おれにどうにできんのか?

 それでもやるしかねえか!


 おれは空き地に向かって駆け出した。


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