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57 オヤジの怒り

 氷屋で夕飯を食い、おれの家で寝ればいい。そう言ってダネルを誘った。


「いいぜ。店に寄ってくんねえか? 荷物を取って来る」


 ダネルは一旦、店に寄り、なんだか大きなリュックを背負って出てきた。


「おいおい、自分の枕がないと寝れないってか?」

「バカか。おれは長男みたいな腕っぷしはねえんだ。これが俺のいつもの私物さ」


 なるほど、防衛のための道具がいっぱいってわけか。



 乗り合い馬車に揺られ、三人で氷屋に帰る。


 そろそろ日が傾いてきた。夕暮れを見ながらエールを飲むのに、いい時間になりそうだ。


 ティアが装備を外そうとしたのを見て、止めた。


「いや、そのまま行こう。そのほうがわかりやすい」

「兄貴の店のだからな。物はいいぜ」


 いや、ダネル、お前多分、状況わかってないぞ。



 三人で氷屋につくと、おれとダネルを見たオヤジは笑顔を見せた。だが、ティアの装備を見て眉を吊り上げた。


「なんでえ、それは」

「武器屋のご主人に借りてるの。自分に合った武器を探せって」

「なんで、お前がつけてる」


 おれは二人に割って入った。怨霊との戦い、ティアのスキルから考えられる武闘家の資質などを説明した。


「カカカさんは、娘が冒険者をやめさせるように頼んだはずだ。なんで焚き付けてる?」

「父さん違うの。カカカさんは、知らないの。あたしがこっそり練習してただけ」

「見学に行っただけと、言ったのも嘘か」

「カカカさん、守ってくれたのよ! 命がけで」


 じろり、とオヤジさんに睨まれた。弁解の余地はない。この場合。


「学校の帰りが遅えと思ったら、妙なもんつけやがって」

「ご主人、これはですね」


 言いかけたダネルをおれは止めた。


「人様を殴るために育てたんじゃねえ!」


 オヤジの大声が響いた。


「もう、店じまいだ。帰ってくれ」


 そう言って、オヤジは厨房に戻った。


「あのー、ご主人、羊肉パンは」


 おい、ダネル、と止める前に、オヤジは肉の塊をカウンターに叩きつけた。


「自分らで焼け!」



 ダネルを連れて、とぼとぼ家へ帰った。


「すげえ、怒らしちまったなあ」


 ダネルが手にした肉の塊を見て言う。おれはあきれた。


「お前が状況見ないからだろ」

「だってよ、今晩、何も食うもんがねえぞ」

「家に干し肉とイチヂク、それに葡萄酒がある」

「おお、豪勢だな!」


 農家の依頼をよく受けるので、もらい物が多くなった。じいさんばあさんって、食べ物を何かとくれる。


 家の前まで来ると、ダネルに肩を叩かれた。


「なんか、あそこの茂み、動いてるぞ」


 ダネルが隣の空き地に向かう。


「おい、ダネル、ちょっと待て」


 茂みから出てきたのは、久しぶりに見る黒犬だった。ダネルは「うおおお!」と叫んで尻餅をついた。リュックから道具を出そうとする。おれはその肩を掴んだ。


「あいつは知ってる。大丈夫。攻撃してこないから」


 黒犬は、おれのほうを真っ直ぐに見つめてくる。


「どうした?」


 聞いて答えるわけでもないが、何か言いたそうだ。腹減ってんのかな?


「ダネル、その肉、貰っていいか?」


 ダネルが青ざめた顔でうなずく。おれは肉の塊を投げた。きれいに飛んで口で受ける。


「おめえの犬か!」

「おれのじゃねえよ! このへんに居着いて困ってんだ」


 黒犬は茂みに消えていった。


「サソリに犬、おめえ、付き合いは考えたほうがいいぞ」

「それ、憲兵隊長が言ったセリフだろ」


 黒犬の様子が気になったが、おれとダネルは家に帰った。


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