55 三番隊長室
「鉄の拳」と言えそうなティアの武器をガレンガイルがじっと見た。
「この島では、見た事がない装備だ。どこの誰から買った武器なのか聞いているのだが、閉じた貝のように黙ったままだ」
なるほど。ティアの気持ちがわかったぞ。武器屋に迷惑になると思って、何もしゃべらないんだろう。優しいが、無駄とも言える。あの三兄弟は、とっくに憲兵隊からロクデナシと見られている。
「貴様、親御さんを知っているなら、連れてきてくれんか?」
「てめえで行けよ」
「てめえ? 憲兵隊長に向かって、随分な口の利き方だな」
「そっちも、一般市民に物を頼むのに、随分だな」
隊長は、ちょっと上を見て考えた。
「それは言えるな。すまん、俺はガレンガイルだ。憲兵隊第三番隊の隊長をしている」
ほんとに真面目だ。こいつ、嫌いじゃないかも。
「ガレンガイル殿、この子の親を呼ぶほどでもありません。売った奴は想像できますから。売った? いや、貸した、ですね」
「誰だ?」
「ダン・ネヴィス」
「ネヴィス三兄弟の長男か。あの店に、こんな物があるとは思えんがな」
「いえ、あの店、意外にあなどれません」
おれは腰に差していたメイルを抜いた。ガレンガイルが身構える。おれは刃の方を持って隊長に渡した。
「おれが今使っている、メイル、という剣です。あの店で買いました」
隊長は珍しそうにメイルの柄を握った。
「細いな。これで切れるのか?」
「切りません。突く専用です。いや、突くっていうより刺すかな」
「軽い。それが何よりの利点だな」
隊長は自分の剣を抜いた。青銅の剣だ。幅があり、両刃、つまり剣の両側に刃がついている。ギルドでも、戦士が持っているのをよく見かけた。
「比べると青銅の剣が三倍、いや五倍は重いか」
「青銅の剣の、使い心地はどうです?」
「良くもなく、悪くもなく、だな。ただ、憲兵は慣例として防具をつけん。ある程度、剣は頑丈でないと」
「ああ、相手の剣を受けるのに?」
「そうだ。かと言って、青銅の剣が頑丈というわけでもないがな」
「片刃はどうです?」
「それだ。今までも考えないでもないが、剣筋が変わるのでな。慣れるまでを考えると億劫になる」
剣筋、そういう言葉が出てくるあたり、剣の腕はかなりだろう。
あきれたティアの視線に気づいて、おれも隊長も剣をしまった。
「男の子って、そういう感じよね」と言われているような、冷めた視線。
「ダン・ネヴィスを呼び寄せる。すまんがしばらく待ってくれ」
「それほど大げさな事には思えませんが、何か問題が?」
「うむ。見た事がない、という事は密輸の可能性がある」
しまった! そういう側面があるのか。島に入ってくる武器には検品、または税金、それは考えられる事だった。
オヤジさんにティアが怒られるのは避けたかった。だが、余計に事を大きくしたのかもしれない。





