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54 思わぬ再会

 三兄弟の見立てた装備は正しかった。戦闘が今までになくスムーズだ。やることがハッキリしている。


 まず防御、次に防御。相手の動きをしっかり見る。それからメイルの攻撃。魔法が効果的な場合は、火炎石で攻撃する。


 思ったより強い相手には、チックの毒針か、ニードル・ブリーズだ。これでだいたい、カタはつく。


 一ヶ月もすると、回復石や魔力石はあまり使わなくなった。計算建てて戦闘ができるようになってくる。それに星ひとつの依頼は、相手が弱い。


 依頼はバンバン来た。


「じいさんばあさんの火急案件は受ける」と言ったので、その依頼はすぐに連絡をよこす。連絡係は、もちろんマクラフ婦人だ。「わたしだけど」と、そっけない言葉から始まるホットラインは、三日に一度は来る。


 林檎畑のじいさんから聞いた、という依頼も来た。これぞ、本当の指名依頼だ。いつにも増して気合を入れて対応する。


 忙しさの中で、あまり氷屋に行ってなかったが、ティアと思いもしない場面で再会した。


 いつものように西の港町でギルドに寄り、港を散歩している時だった。憲兵隊長のガレンガイルが女学生を連れている。からかってやろうと、後ろから近づいた。


「よう、隊長。うら若き乙女を悪漢から救ったか?」


 隊長と女学生が振り返り、おどろいた。ティアだったからだ。


 ティアの茶色い髪は、短い髪型ではなく、少し伸びていた。


「貴様か。何の用だ?」

「それはこっちのセリフだ。その娘さんは、おれの知り合いだ。何の用だ?」

「知り合いか。なら説明しろ。この娘は何者だ?」


 何者とは? 意味がわからなくて首をかしげた。


「悪漢を倒したのは、俺ではなく、この子だ。それも三人まとめてな」

「おい、ティア」

「ほう、名前も知っているのか。貴様も来い」



 ガレンガイルに連れてこられたのは、詰所ではなかった。港近くの憲兵隊本部だ。憲兵隊らしく、建物は重厚なレンガ作りの三階建て。


 三階に上がり「三番隊長室」と書かれた部屋に入った。ガレンガイルは三番隊なのか。


 部屋の中は、濃い木目の書斎机があるだけだった。隊長は壁際のイスを二つ、机の前に置き、自分は書斎机のイスに座った。


 憲兵本部に連れてこられて、どきっとしたが、イスを勧められるぐらいだ。大した事にならないだろう。おれはイスに座った。


「憲兵隊は、いくつか隊があるんだな」

「この西の港町を守っているのが三番隊だ。それぞれ担う地域がある」

「東の街は?」

「あそこは城の直轄で守備兵がいる。憲兵の管轄ではない」


 なるほど。城の兵が甲冑をつけているのに、憲兵は黒い軍服だ。違う理由がわかった。


「そんな事より、この娘。どこの娘だ?」


 おれは言っていいものなのか、ティアを見た。イスに座らず、ふて腐れて立っている。


「本人に聞いたらどうだ?」

「何もしゃべらん」

「この子は何か罪を犯したのか?」

「いや、よそから来た男三人と、女学生との揉め事に首を突っ込んだだけだ。罪ではないが、男三人を療養所送りだ」


 武闘家。その資質が、めきめきと出てきているのか。おれは適当にごまかそうと思った。


「まあ、なにかのはずみだろう。そいつらが弱いだけじゃないのか? ただの女学生だ」

「ただの? 娘、右手を出せ」


 ティアが嫌そうに右手を上げる。手につけられていたのは、革製の手袋だ。手の甲と拳の部分に、鋼の板がつけられている。なんだこりゃ?


「靴も触ってみろ、鋼入りだ」


 靴を見た。あの靴だ。


 この「鋼の拳」とも言える武器、誰が用意したのかわかった。ネヴィス三兄弟の長男、武器屋のダン・ネヴィスだ。あのむっつりスケベめ、こんなもん渡してたのか。


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