52 ティアとお買い物
「あっ! そうだ」
ティアが自分の手提げから、宝石を二つ取り出した。
「この前の戦闘で拾ってたの。これ、お金に変わるよね」
おれは目を見開いた。
「でかした! これで食いつなげる!」
ティアを連れ、すぐに両替所に走る。
「ご確認下さい」
おれたちの前に銀貨が並んだ。ずらり、十五枚。サファイアが1000G、ガーネットが500Gになった。うきうきで両替所を出た。
「氷屋に寄って、二つに分けよう」
当たり前のことを言ったのだが、ぶんぶん首を振られた。
「あたしは、もらえないよ!」
「一匹を倒したのはティアだ」
「無理無理! もらえるわけない。そんな大金、お父さんに何したんだと思われちゃう」
氷屋のオヤジ、けっこう厳しいんだな。
「じゃあ、おれから説明しとくよ」
「それもダメ! お父さんから大人しく見学するように、口酸っぱく言われたんだから」
ありゃりゃ。思いっきり戦闘に参加させちゃったよ。
「もらえるわけない。カカカはずっと、あたしをかばって。そうじゃなきゃ、あたし死んでた」
戦闘を思い出したようで目が潤んだ。おじさん、焦る。
「わかった! じゃあ、こうしよう。せめて何か欲しい物は?」
「なんでもいい?」
「ああ、いいよ」
「ほんとに?」
「男に二言はなしだ」
「じゃあ、その武闘家の武器!」
えっ? おじさんの言葉、聞いてなかった?
おれが顔をしかめたのを見て、ティアが反論する。
「だって、スキルを試してみたいんだもん!」
うーん、なるほど。こりゃ、オヤジさんにおれが怒られるな。でも大見得切ったしなあ。
どこに買いに行くか。最近よく行く「冒険者デパート」みたいな店は、品揃えが良くない。武闘家の武器はなかった気がする。行きたくないが、あの店に行ってみるか。
「おめえ、よく来れたな」
ヒゲの生えた強面で、武器屋の主人は言った。ネヴィス三兄弟の長男だ。
おれに近寄ろうとして、次に入ったティアを見て唖然とする。
「だ、脱獄の次は誘拐か! とんでもねえ悪党だな!」
「むちゃくちゃ言うなよ、おれは帰ったから脱獄になってないし、この子は知り合いの娘さん」
「こんにちは! あたしティアって言います」
「お、おお、俺はダン・ネヴィスだ。まだ三十九だ」
年齢言う必要ないだろ、とツッコミ入れたかったが、やめとく。
「武闘家の武器、あるかな?」
「おめえ、勇者だろ?」
「おれのじゃなくて、この子。素質は武闘家なんだ」
「これ、この、お嬢さんが?」
信じられない! といった目で頭から爪先まで見る。
「こっちがナックル型、こっちが爪型だ」
おれをそっちのけで、ダンはティアに説明している。
「どっちがいいんですか?」
「打撃が得意なら、ナックル型だ。爪は引っ掻いたり刺したりする」
「おい武器屋、蹴りは? 蹴りに関して武器ってあんの?」
おれが聞くと「うるせえな」と言った顔で、ダンが振り返る。
「お嬢さんが、蹴りなんてしねえだろう」
「それがするんだ。クリティカル・ストライクってスキル知ってるか?」
ダンが腕を組んで考え込む。知らないらしい。
「この子が、蹴りを出した時に出たんだ」
ダンはびっくりして、しゃがんでティアの足を見た。おいおい、そろそろ変態って思われるぞ。
「あるには、あるが」
そう言って、ダンは店の奥からバレエ・シューズのような物を出した。
「なんだ、踊るのか?」
「違う。爪先をさわってみろ」
おれに靴を渡してくる。さわってみると、かちかちだ。
「普通の靴に見えるが、爪先と踵の中に薄い鉄板が入っている。名づけて、カチカチの靴だ」
名前、そのままじゃねえか。ティアに渡す。ティアが靴を脱いで履いてみた。
「ぴったり!」
「おれは、人を見れば身体の各大きさは、ぴたりと当てる」
お前、それ、完全に変態だぞ。とは思ったが、言わないでおく。
「これ、買ってもいい?」
ティアがおれを見る。おれはうなずいたが、ダンが横から入った。
「いや、試してからのほうがいい。武闘家ってのは身体のキレが全てだ。ナックルも爪も、試してから決めたほうがいい」
「え、じゃあ、貸してくれるの?」
「おう。色々試してみてくれ」
「ありがとう、おじさん」
ダンは、もじもじ笑った。はにかむなよ!
この長男の弱点がわかった。サソリと若い女。
「さっそく試してみる! ありがとう!」
そう言って、ティアは帰っていった。





