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49 二度目の入院

 見知った部屋で目を覚ました。アドラダワーの治療院だ。今回も病室にはおれひとり。


 ベッドの右脇に院長が小さなイスに座っている。身体を起こそうとしたが、マヒして動かなかった。


 どう起きようか考えていると、ふいに身体が動いてびっくりした。左側に看護師がいて、おれの上半身を起こしてくれた。くの字の板をお尻に挟まれ、おれは座ることができた。


「一緒にいた娘さんに、だいたい聞いたわい。仲間のクリッターは、その子にまかせた。今回は、上級のマヒ呪文をずいぶん受けたのう」


 右手を上げてみる。ゆっくり動くが力は入らない。


「受け過ぎじゃ。何回も受けると、すぐには治らん。しばらく療養じゃな」

「回復魔法でも?」

「魔法は、万能ではない」


 怖くて確認したくなかったが、この際だ。聞いてみよう。


「蘇生魔法って、あります?」

「死は、避けられぬ自然の(ことわり)じゃ」


 まじか、ないのか。


「理を超えることはできん。それを越えようとすれば、お主が会ったような異形の物になるだけじゃ。いや、もしかすると、人間はすでに異形の物であり、それに対して自然が妖獣を放ったのかもしれん」


アドラダワーは苦々しい顔をした。


「院長」

「なんじゃ?」

「たぶん、すげえいい話なんだと思うんすけど、おれ、半分も意味がわかんないっす」


 アドラダワーが、イスからずり落ちそうになった。


「まあ、よく死ななかったものじゃ」

「ここ最近、死霊と戦いまくったんで、マヒ系に慣れてるのかも」

「ほう、なら、精神力はかなり上がっとるの」


 しまった。あの爆破以降、レベル上げをするのを忘れている。


「いえ、レベル上げは忙しくて、最近してないんですよ。前と同じです」

「レベル上げ? お主が壊したギルドの事か?」

「そうっす」

「あれは、数値をまとめて上書きするための道具じゃ。人間は日々、成長しておる」


 えー! とおどろいたが、それで納得できた事がある。チックが突然、違う魔法を使った事だ。


 待てよ、ということは、ティアのあれもか。特技が生まれた、そういう事か?


「もう、ここはいいぞ」


 院長が看護師に言った。看護師が出ていく。院長が身を乗り出し、おれを正面から見据えた。


「前も思ったがの、お主、何者じゃ?」


 おれは返答に詰まった。


「最近、来たばかりで。ここの国のことは、あまり」

「異国人どころではない。生まれたての赤ん坊ほど、常識を知らん」


 院長がおれを見つめる。これは困った。


 実は、この世界の人間ではないんです。ゲームしようと思ったら、ゲームの世界に入っちゃって。現実だったほうがゲームになったみたいです。ああ、そのゲーム? おれの家にありますよ。木の兜で見れます。びっくりですよね。


 なあんて事は、言えない。


「悪人か、善人か、災いを呼ぶ者か、わしから見ると、さっぱりわからん」


 院長の顔は、まじだ。


「き、そう! 記憶喪失です」


 ひねり出した! オカンが見てたドラマが、たしかそんな感じだった。記憶喪失の相手と結ばれたら、実は血が繋がってましたって。どんだけ運命の出会いやねん。


「記憶が無いと?」

「あっ! ほら、だから、こんな適当な名前なんです。普通、つけます?」

「たしかに。よほどの変わり者しか、つけんかもしれん」

「そうなんです」


 言いながら、自分で傷ついた。


「それは大変じゃのう。困る事はないのか?」

「まあ、今の所は。いや! あります! 魔法がどうやったら使えるのか、さっぱりわかりません。魔力はあるようなんですが」

「魔法か。魔法学校は行ったのか?」


 え、そんなのあんの?


「それも覚えておらんか」


 うんうんと、うなずいておく。いいように解釈してくれたみたい。


「古代文字は読めるんじゃろう?」


 古代文字?

 あの本棚にあった意味不明の文字か?


「わかりません」

「そこからか! 初等学校で習うじゃろう」


 おれは、「うーん」と首をひねった。院長も「うーん」と唸って考え始めた。


「ちょっと待っておれ」


 そう言って部屋を出ていった。


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