47 二度目のヨーフォーク邸
「本日、あるじは出掛けております」
ヨーフォーク邸の執事は、玄関に出てきて、そう言った。
「では、あなたのサインでもいいので」
おれは執事に依頼書を渡す。
「ああ、案内はいいですよ。場所はわかっているので」
嫌味っぽく言ってみたが、執事は深々と頭を下げた。家の裏にまわる。もちろん、今回はバケツを持っていかない。
墓への階段を上がり、霊廟に着いた。
「ここ? なんか気持ち悪い」
ティアが不安そうな顔を見せ、おれに近づいた。
「君は、見とくだけでいいから」
おれは胸ポケットから、チックを出した。
「な、なにそれ?」
ティアが思わずおれから離れた。
「相棒のチックだ。人に危害は加えないから」
「やだ、気持ち悪い」
女子高生から言われる「キモイ」ほど、おじさんの心を傷つけるものはない。
おれはチックをどこに置くか考えた。ティアが左側にいるので、右側の地面に置いた。
霊廟の後ろから、黒い霧が立ち上がる。しかし、二度も死霊に居着かれるとは。なんか恨みでも買ってんじゃないかね。
集まってくる黒い霧の量が多い。もこもこと雨雲のような形になり始めた。なんだこれ?
「アナライザー・スコープ!」
名前:怨霊
体力:20
魔力:200
攻撃力:0
防御力:0(物理攻撃不可)
魔法:コールド・ブリーズ
ガーネット:1
嘘だろ! 依頼書と敵が違う!
「何あれ?」
「ティア! おれの後ろに隠れて!」
あっけに取られているティアの前に立つ。黒い雲は、頭と両腕のような形になった。頭の部分には目のような空洞がある。空洞の中は闇だ。
「オオオ」
低い男の声と共に、強烈な冷たい風が来た。身体が固まる。マヒが強い。指先も口も、まったく動かなかった。
「オオオ」
第二波が来た。
「きゃあ!」
背中に身を寄せたティアの叫び声が聞こえた。良かった。ティアには届いてない。魔法は単体に対してのようだ。
しかし今回はやばい。ギブスで固められたように、まったく動かなかった。どうにか口をモゴモゴすると、左の半分だけ動くようになった。
「チ、チック、撃て」
チックがぶるっと身を震わせ、針のような小さな光が飛んだ。黒い雲の頭にあたり、少し頭が動いた。まったく効いてない。
これは、これはヤバいぞ。





