46 ティアを待たせてギルドへ
オリーブン城から西の港街に移動した。
ギルドに向かうが、すぐ中には入らない。近くのベンチに座った。
「ちょっと依頼を取ってくるから、待っててくれる?」
「えー! あたしもギルド見たいです」
近くに葡萄の絞り汁を売っている露店を見つけた。ひとつ買う。木のカップに入ったそれをティアに渡した。
「これでも飲んでて。すぐ戻るから」
ティアは残念そうにうなずいた。でも依頼を見たら、帰られちゃう可能性がある。
おれはギルドに走った。しかしまあ、なんだこれ? という状況だ。遊園地のデートかよという、のほほんさ。
ギルドに入ると依頼書の壁には行かず、交渉官のグレンギースを探した。職員側で誰かと立ち話をしている。手を振るとおれに気づいた。カウンターを挟んで手短に言う。
「死霊の依頼、あります?」
「お急ぎですか?」
「ええ、ちょっと人を待たせてて」
「わかりました。おあつらえ向きがあります」
交渉官はそう言って、自分の机に戻ると、一枚の依頼書を差し出した。
依頼内容:死霊退治
報酬:500G
敵:死霊1体
緊急度:至急
依頼人:ヨーフォーク三世
依頼人に覚えがあった。ロバート・デニーロが演じたアル・カポネみたいなヤツだ。
「あそこ、また出たんですか?」
「今度は、ごまかさずに依頼してきたようです」
これはいい。なんせ、どんな場所か知っている。
「これ、片づけて来ます!」
おれは依頼書を受け取って、駆け出した。
ティアは葡萄汁を飲み終えたようで、ベンチで足をブラブラさせていた。やっぱり、どう見ても十五ぐらいだ。デートというより保護者の気分。
「おまたせ。じゃあ行こう」
「よう、えらく若い子を連れてるな」
聞き覚えのある声に振り返ると、道具屋の三男坊、ダネルだ。
「勘違いするなよ、氷屋の娘さんだ」
「はー! あそこの! お父さんの料理は絶品だ」
「ありがとうございます」
ティアは元気に頭を下げた。
「母が若くして亡くなったので、それから、すごい熱心に料理始めちゃったんです」
「そうか」そう言ってダネルは、ちょっと空を眺めた。
わかるぞダネル。おじさんになると涙腺が弱い。ふいをつかれて聞く苦労話は危険だ。特に、明るくて健気な女子が言おうものなら、破壊力は絶大。
ダネルは、ごまかすようにおれに向いた。
「時間がある時に、また来い」
おれは首をかしげた。
「何か買えって話じゃねえ。道具の揃え方を教えてやるからよ」
「ずいぶん上からだな」
「おめえよりは専門家だろう?」
「まあな」
最近、このダネルの店には行ってない。兄弟に会うと面倒だからだ。
ダネルと別れてギルド近くの店に入る。ここは、一階から三階まで冒険者のための店だ。武器から防具まで揃う。三階の道具関係が置かれたカウンターに行った。
「魔力石を五つ」
「かしこまりました。1000Gになります」
「千? 一個百でしょ?」
「最近、値上がりしまして」
ここ数日、この店でばかり買ったので、ぼったくるつもりか。
「じゃあ、三つで」
おれは600Gを払い、店を出た。
思えば、そろそろ武器を買い直さないと。いつまでも短剣や革の装備では心もとない。
金に少し余裕もできた。この依頼が終わったら、買いに来よう。
「じゃあ、行こうか?」
「はい!」
ティアは目を輝かせて返事した。これから死霊に合わせると思うと、ちょっと心が痛んだ。





