42 久しぶりの氷屋
それから一週間は、ひたすらギルドの仕事をしまくった。
星一つの簡単な依頼を片っ端から取る。多い時には一日三件こなした。
星一つの依頼は報酬が安く、10Gから50Gにしかならなかった。だが、三回に一回は死霊退治が入る。こっちは500G以上の高額案件だ。所持金は順調に増えた。
カネに余裕ができたので、干し肉や干し芋などの非常食を買った。身の回りの物も揃えることができた。夢にまで見たケツ拭き紙もだ。トイレットペーパーは、この世界にはない。
新世界の新生活は、やっと順調にまわり始めた。慣れてくると、この世界は悪くない。不便さはあるが、爽快さもある。
夜明けとともに起き、小川で顔を洗うのは気持ちいい。そのあと西の港町に行き、露店で朝飯を買い、街路樹の木陰にあるベンチで食べる。それからギルドに行き仕事だ。
生活はシンプルで、それでいて自由だ。仕事をしたくない時は、やらなければいい。腹が減ったら何か食えばいい。
自由ってのは、いいもんだな。ムーミン谷のスナフキンが自由を愛した意味がよくわかるぜ。
夕方、一週間ぶりに氷屋に寄った。最近は、買った食料を家で食べてばかりだ。人の作った温かいメシが恋しい。
「こんちわ、オヤジさん」
「おう、ちょっと久しぶりだな」
「忙しくて」
「そりゃ、いいことだ。食べてくかい?」
「もちろん。羊肉パン二つにエール」
「あいよ」
おれはテーブルにつき、チックをテーブルの上に置いた。
ゆるい風が吹く。
「ああ、夕凪だ」と、おれはちょっと目を閉じて、その風に意識を集中してみた。
「なんでえ、その奇っ怪な生き物は」
皿とジョッキを手にしたオヤジが、びっくりして立っている。
「おれの仲間なんです。一緒にいていいですか?」
「そりゃ、危なくないならいいが、初めて見るな」
オヤジはそう言って皿とジョッキを置いた。おれは、羊肉パンから葉野菜をつまみ出し、チックに渡す。
「このなりで、野菜食うのか?」
おれは笑いながら、うなずいた。オヤジもおれと同意見らしい。
「ソースがねえほうが、いんじゃねえか? ちょっと待ってな」
オヤジはそう言うと、小さな皿に葉野菜をちょこんと乗せて持ってきた。チックの前に置く。
チックが小皿をハサミで掴んだ。ひっくり返すかと思ったら、器用に引きずってテーブルの端に移動する。
「おれのだ、誰も取るんじゃねえ。たぶん、そう言ってます」
「はー! 賢え!」
オヤジは感心したようだったが、ふと何かを思いついた。
「ちょっと、相談があるんだがな」





