35 憲兵
殴られて倒れた。
顔を地面の砂利で擦りながら、考えた。いかに三人に囲まれないかだ。
必ず自分の正面に三人が来るように、誘導させながら動こう。
向こうの世界でも、へなちょこだったんだ。勝てるわけない。なら、せめてよけよう。強い三匹のモンスターに囲まれた。それと同じだ。
立ち上がる。武器屋の長男が突っ込んできた。こいつは猪みたいなもんだ。とにかく直線に突っ込んで来る。
次男の防具屋は左にいた。なら避けるのは右だ。三男は上の二人を補佐するように動く。おれの後ろを取ろうとするはずだ。
おれは振り返らずに、前へ走った。次男の右へまわり込んでから、振り返る。三人がすべて、おれの正面になった。
戦闘って、真面目にやると頭を使うんだな。
次男が踏み込んでくる。三人とも前方だ。後ろに下がればいい。後ろに下がった。
どん! と背中が壁にあたった。空き地の隣の家だ。次男に殴られる。痛え。
場所、地形、そんなことも考えなきゃいけないのか。
「貴様ら、朝から何をしている」
ドスの効いた声に、おれも含め四人が振り向いた。空き地の入り口に、黒い軍服のような服を着た男が立っていた。
「憲兵が来やがったか」
三男がぼそりと言った。憲兵? なら警察みたいなもんか。
その憲兵が空き地に入ってきた。ひとりずつ睨みつける。その迫力たるや、あっちの世界なら筋者だ。剣の柄に手をやってないが、いつでも斬る。そんな威圧がすごい。
「ネヴィス三兄弟か」
憲兵の男が言った。憲兵に名前が知られてるって事は、よくないヤツだ。
「お前は、勇者カカカだな。この前、ギルドを壊した」
やべ。おれもだった。
ギルド近くにある憲兵隊の詰所に連行された。詰所はそれほど大きくなく、街の交番といった感じ。
小さいが牢屋はあった。おれとネヴィス兄弟が、まとめて入れさせられる。
「おれは悪くねえよ!」と言ってみたが、憲兵にじろり、と睨まれただけだった。
「おい、やめとけ」
ネヴィス三兄弟の三男が、おれにささやいた。
「あれは、ガレンガイルってやつでな。がちがちの石頭で有名だ」
がちがちの石頭。そう呼ばれた男は、長身で引き締まった身体に、短く整えた短髪。たしかに真面目そうな印象を受ける。
「賄賂も受け取らない男だ。怒らすなよ。あとが面倒だ」
そうなのか。この時代だと、珍しい人種なんじゃないだろうか。昔の役人ってな賄賂次第、なんてイメージがある。
しかしおれは頭を抱えた。午前中に、依頼者の元へ行くつもりだった。あの依頼は「火急」とあった。ここから、いつ出れるのか。
「隊長!」
憲兵のひとりが入ってきた。
「港で馬車同士の衝突が」
「わかった。すぐ行く」
ガレンガイルはおれたちに振り返った。
「ここなら、いくらでも喧嘩していいぞ」
そう言って駆け去って行った。
「待ってくれ! ギルドに連絡してくれ!」
あわてて言ったが、それより早く出ていった。ギルドに連絡できれば、他の者が行けるはずだ。ところが詰所には誰もいなくなった。ひとりぐらい残っとけよ!





