34 いざこざ
三方向に男。これは、ヤバそうな感じ。
武器屋が最初に話すって事は、武器屋が長男かな。
「おめえ、最近、黄色い石って見たことあるか?」
変異石! なるほど! 院長が言う通りだ。こういう事になるのか。
「いえ、見てないですね」
おれは、しらばっくれてみた。
「兄貴、俺が話をつける」
そう言って道具屋が出てきた。
「おめえが怪しい。魔力石を気軽に何個も買うやつはいねえからな」
気軽には買ってないんだけどな。でも、いい読みだ。
「持ってるなら、俺に売ってくれ。もう売ったのなら、売ったやつを教えてくれ」
こういう時、どうすればいいんだろう。逃げたいんだけど、三方から囲まれている。ヤンキーって、いっつもこうなんだよなぁ。
自分が、腰に短剣を下げているのを思いだした。そうか、おれは冒険者だ。村人ではない。ハッタリかけてみるか。
「何も話さねえ、って言ったら、どうする?」
にやりと笑って剣の鞘に手を置いた。道具屋が身構える。いいね。一度、言ってみたかったセリフ。
「おい、やろうってえのか?」
ヒゲ男、武器屋の長男の目が燃えている。やべえ。冒険者でもレベル3のおれが言っても効果なかった。
おれは考えた。あたりを見まわす。人通りはない。助けは呼べない。
武器屋が一歩、踏み出した。
「あせるな、若えの」
おれは、父親がいつも見ていた時代劇チャンネルのセリフを引っ張り出した。たしか、こんな感じ。
ここで一番の心配は、この世界の法律を知らない事だ。何が罪になって、何が罪にならないのか。この世界は無法地帯ではない。かなり社会として機能している。ぜったい警察みたいなのはいるはず。
剣を抜いていいのか。そこが問題だ。剣道やってたやつが木刀で人を殴ると、めっちゃ罪が重い。そんな噂は向こうの世界でよく聞いた。おれは「冒険者」という、ある意味で資格を持っている。一般市民に武器を使っていいのだろうか?
それにチックだ。チックが参戦したらどうなる。仲間のモンスターが村人に怪我をさしたら、おれの責任になるのか? なると思ったほうが懸命だろう。
よし! チックをまず逃がす。それからおれも逃げよう。
おれは空き地に移動した。
「衣が汚れちまう。ちょっと待っとけ」
セリフは決まったが、足はガクブル(ガクガクブルブル)だ。リュックを外すついでに、胸ポケットからチックを出した。
「チック、ぜったい出てくるなよ」
伝わっているのを祈って、チックをリュックに入れる。背中に背負った盾も置く。逃げる時に邪魔だ。捨てていけばいい。
計画は、隙を突いて、リュックを拾い、全力ダッシュ! これしかない。
「俺の店の防具、使わねえのか、なめられたもんだな」
防具屋が言った。えー! そこでそんな怒り買う?
よし、こうなりゃヤケだ。怒らすだけ怒らして、判断を鈍らせてみるか。腰のベルトを外し、短剣も地面に捨てた。
「俺の店の武器も、要らねえってか」
武器屋のこめかみに、青筋が浮いた。
「なまくら刀なんぞ、いるかよ」
嘘です! 必需品です。でも喧嘩で使えないから、これも置いて逃げてやろう。
そんな事を考えていると、右から武器屋が踏み込んできた。左に逃げる。左は防具屋。なら、後ろだ。振り返ったら道具屋がいた。拳が飛んでくる。殴られた。痛え。
昔のアニメを思い出した。「父さんにも殴られた事ないのに」みたいな事を、ガンダムのアムロは言ったが、そんな事を言える余裕がないほど痛かった。





