124 バルマーのスキル
バルマーは中央の階段をのぼり始めた。
「あのー、椅子とかないですかね。みんなを立たせたままってのも」
ふいに振り向きざま、ステッキを振られた。しまった! 身体が硬直する。
「少し、おしゃべりはやめましょう」
そう言って、また階段をのぼる。
右手の万能石に意識を集中した。指先がなんとか動くが、握るまでいかない。
おれの前方にいたハウンドが、ピクッと動いた。まずい。前に、霊廟の地下でもハウンドは自力で解いた。今は動いてほしくない。
ハウンドの唸り声が聞こえてきた。まずいまずい! 右手に精一杯の力を込める。
おれの願いは届かず、ハウンドがゆっくりと立ち上がった。
「ほう、その犬は、もう硬直を解きましたか。低級な妖獣と見ておりましたが、どうやら違うようですね」
バルマーはステッキを振ると思ったが、ハウンドに向けてゆっくり構えた。
「しかし、あいにく犬は嫌いで」
長い呪文を唱え始めた。杖の先端に、何か黒い霧のような物が吸い込まれる。死人使いであるネクロマンサーが唱える魔法と言えば、ぜったい即死呪文だ!
「うぬぬ!」
死にものぐるいで右手に力を込める。万能石を握れた。硬直が取れたと同時に駆け出す。
バルマーのステッキから大きな黒い玉が放たれた。ぜったい止める!
走りながら左ポケットの反射石を握った。
黒い玉がハウンドの目前に迫る。おれはハウンドの上に飛んだ。飛んで握った反射石を突き出す。黒い玉が揺れる空気にぶつかる。飛び散った。
黒い玉の破片が身体をかする。間違いなく即死呪文だ。かすっただけで身体が恐怖を感じている。怨霊と戦った時の恐怖と同じだ。そして、その中になぜか甘美な匂いがした。
バルマーは次に短く呪文を唱えた。今度は燃え上がる火の玉。
リュックを急いで下ろすが、反射石を出すのは間に合わない。ぶつかる!
思わず顔をそむけた時、おれの数歩前で火の玉は四散した。光る線で描かれた長方形に幾何学模様。魔法陣の扉だ。マクラフ婦人、間に合った!
バルマーは、おどろきの表情を見せ、次にガレンガイルに向けて火の玉を放った。
「ガレンガイル!」
ガレンガイルの身体が少し沈み、信じられない速度でその場を離れた。火の玉が空を切る。
ガレンガイルはそのまま駆けてティアを担ぎ、おれの後ろへと滑り込んだ。
「師匠! 硬直が解けてたんですか!」
「以前に、カカカが解くのを目の前で見たからな。まねて気合を入れてみた。解けたが、次にどう動くか迷っていてな」
ギルドでおれがグレンギースに迫った時か!
なんて学習意欲の高い男!
ガレンガイルはポケットから万能石を出し、ティアの硬直を解いた。
おれは自分のポケットから火炎石を出す。
魔法陣の扉から半歩出て石を使おうとしたが、バルマーがステッキを振った。あわてて戻る。
「パシッ」と扉に何か当たった音がした。あのマヒ呪文も扉は防ぐらしい。
石をポケットに戻し、両手で輪っかを作って交差させる。
「アナライザー・スコープ!」
名前:バルマー
職業:ネクロマンサー
レベル:48
体力:140
魔力:1360
えー! 魔力が千! 嘘でしょ。
その魔法欄を見る。
魔法:ファイア・ショット ファイア・バレット ファイア・シェル スラッシュ・ショット……
すごい数があるな。
アースヴァル・ヴェーダ サーマ・ウパニ・ジャド……
なんだこの、見たこともない言葉の響きは。即死呪文や、魂を引き剥がす呪文かもしれない。
しかし、なるほど。こいつは、とにかく成長の全てを魔法に注いだんだろう。さっきガレンガイルの剣をかわしたのは、素早さを魔法で強化したのかもしれない。
特殊スキル:カチンコチン
あのステッキを振るマヒ呪文は、スキルだったのか! どうりで素早いはずだ。
しかし「カチンコチン」って、ダセー!





