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122 バルマーという男

 おれは、ゆっくりと左腕のポケットから火炎石を取り出した。


 バルマーがこっちに歩いてくる。まったくの無防備だ。これは、どう見てもチャンス!


 火炎石をバルマーに向けて強く握った。火の玉がバルマーに飛ぶ。バルマーはステッキで火の玉をはたいた。


 ガレンガイルの身体が沈み、弾けるように飛び出す。特殊スキルの「神速の踏み込み」そこから上段に剣を構え振り下ろす。「一刀両断」だ。


 バルマーはそれを半歩ずらしてかわし、ステッキでガレンガイルの肩を叩いた。剣を振り下ろした体勢のまま、ガレンガイルは固まった。


 左からティアが飛ぶ。アゴを蹴り上げようとした。バルマーは上半身をのけぞらせ、それまでかわした。


 ティアが着地したと同時に背中をステッキで叩いた。


 その時、バルマーの動きも止まった。


 横を見るとマクラフ婦人がバルマーのほうに手をかざしている。こっちもマヒ呪文!


 おれとハウンドがバルマーに向かって走る。バルマーは首をひと振りしてマヒを解いた。じゃま臭そうにマクラフ婦人に向かってステッキを振る。おれは急停止した。


「待て!ハウンド」


 ハウンドはバルマーの目前まで駆けていた。ステッキを振られ、地面にこけた。そのまま固まる。

 胸ポケットのフタが開いたので「チック戻れ」と小声で言う。


「勇者、戦士、武闘家、魔法使い。それに犬ですか。なかなか良い組み合わせです。ここへは、総勢、何人で来られました?」


 おれは剣を鞘に戻した。


「いやー、強いっすねー」


 おれは噴水に歩いた。


「これ、ちょっと顔を洗ってもいいです? 暑くて」


 バルマーは興味深そうにおれを眺めた。形勢が不利になると、まったく違う話をする。これは交渉官のグレンギースがよく使う手。それを真似てみた。


 顔を洗い、リュックから布を取る。わからないように反射石と万能石をポケットに入れた。


 顔を拭きながら噴水の縁に腰掛ける。


「いやー、暑い」


 おれは布を噴水の水につけて絞り、首筋を拭いた。


「時間がたてば硬直が解けると思っているのなら、それほど短くありませんよ」


 やべ。バレバレだ。何か打開策を考えないといけない。


「バルマーさん、ひとつ、思い違いをしてますよ。ここへ来たのは、これで全部」

「ほう、では、城の守備兵は動きませんでしたか」


 そうか、この島の残りの兵力を倒すために、アンデッドの群れや洞窟の迷路があったのか。


「勇者カカカ、なかなか優秀ですね」

「そう! そうでしょう! どうです? お仲間として」

「もはや、私に配下は不要です」


 だろうね。言うと思った。


 バルマーはガウンのポケットから黄色い玉を出した。変異石だ。


「あなたには感謝しております。これを見つけてくれましたので。それまでは、この島をひっそりと裏で牛耳るつもりでしたが、予定変更です」


 バルマーがおれのほうに歩き出した。


「待った! 交換条件ってな、どうです?」

「交換?」


 バルマーが笑った。歩くのはやめない。


「私が欲しい物など、何もありません」

「そうですかね。その変異石、欠けてません?」


 バルマーの足が止まった。変異石を見る。そして、にたりと笑った。その笑顔が気持ち悪い。初めて、この男の本性を見た気がした。


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