120 魔法使い
「はー! おまたせ!」
元気な声でティアが立った。
「じゃあ、行くか」
行き先は決まっている。この部屋から出る扉があるからだ。
その前にハシゴを登り、チックとハウンドを降ろした。
オヤジさんも降りてきて、ティアに「大丈夫か」と聞いている。オヤジさん、ごめんなさい。もう、この子、普通の女子には戻せません。
おれは気を取り直し、扉に向かう。
ガレンガイルと一緒に剣を構え、扉をゆっくり開けた。
開けた先の光景に、思わず互いを見合った。
今までの道と違う。整備されていて、所々にランタンまで灯されていた。
慎重に進んでいると、分かれ道になった。
どっちに行くか? これにハウンドの能力は必要なかった。片方の道には、赤の絨毯が引かれていたからだ。バルマーは王様でも気取るつもりか。
絨毯の道を進むと、直角の曲がり角に来た。足元のハウンドが低く唸った。敵か?
「ハウンド、待てよ」
ハウンドをその場で待たせ、曲がり角から首を出してのぞく。すぐに引っ込めた。
おれは頭を抱えた。おれの表情を見て、ガレンガイルも角からのぞく。同じように、すぐ引っ込めた。
「あれか。酒場で聞いたとおりの見た目だな」
「ああ。まいった」
曲がり角の先は直線があり、その先には、さらに大きな空間がある。そこには大きな扉も見えた。
問題は、その扉の前で寝ている者がいる。それは、一番会いたくないと言ってもいい。トカゲのような目をした馬。おれが死にかけた魔獣だ。
おれはトカゲ馬の特徴を話した。斬撃のような魔法が特にやばいと。できれば避けて通りたいが、どう見ても、後ろにそびえる大きな扉が最終目的地だ。
「なんとかなるかも」
マクラフ婦人が、ふらっと立った。
「婦人、むちゃです!」
押し殺した声で言ったが止まらない。婦人は、羽ペンを取り出すと、空中に何かを描き始めた。
信じられないことに、空中に光の線が残る。大きな長方形を書き、その中に五芒星のような幾何学模様を描く。これは、魔法陣?
あれか、特殊スキルにあったやつ。「魔法陣の扉」か!
婦人は書き終えると、背中の弓を取った。扉の前からずれて弓を引き絞る。
「婦人!」
トカゲ馬、起きちゃう!
おれは背筋が寒くなったが、婦人は弓を引くのをやめた。おれの前に来る。
「ちょっと遠いわ。お仲間の力、借りていいかしら?」
「えっ? ああ、チックですか!」
マクラフ婦人は、チックの前に手を出した。
「手を借してもらえる? 勇敢なサソリくん」
チックは「おー!」とでも言うようにハサミを振り上げ、婦人の手のひらに乗った。
マクラフ婦人は、さきほど空中に描いた扉の横に立った。
バシュ! とニードル・バレットが飛ぶ。
細い光の線がトカゲ馬に刺さると、いなないて飛び起きた!
トカゲ馬は婦人を見つけ、足を一度大きく上げると駆け出した。婦人は扉の前に立っている。馬が迫ってきた。婦人が数歩、うしろに下がる。
「婦人!」
おれは陰から叫んだ。婦人が微笑む。
ぶつかる! そう思った瞬間、空中に描いた扉とともにトカゲ馬は飛び散った!
「やっぱり、馬ってバカね」
婦人はそう言って、おれの肩にチックを戻した。そして魔力を渡すため、ちょんと触る。
婦人以外のみんなは、目を見開き口をぽかんと開けている。もちろんおれもだ。
「ふ、婦人、あれって」
「魔法でも、攻撃でも、相殺するの。ぶつかると、こっちは魔力が少し減るだけね」
うわっ。チート(最強)に近い特技だ。彼女が盾を持たず、弓しか持ってないのがわかった。あの扉に隠れて、あとは弓で狙えばいい。
「あのー、その扉って」
おれが聞く前に婦人はにっこり笑った。
「複数出せるわ。仲間の分も。ただし、時間がかかる」
おお、彼女は最強の後方支援だ!
第6章が終わります。お付き合いいただいてる方、心から感謝を。いよいよ7章よりバルマーとの最終決戦に移りたいと思います。もうしばらく、お付き合い下さいませ。
ちょっとでも面白いところがございましたら、評価、ブックマーク、感想などいただけましたら励みになります!





