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115 マクラフ婦人の隠し事

「婦人、あのハゲだったら別に」


 おれは神官の事だと思ったが、婦人は首を振った。


「マクラフさんも? 聞きたい!」


 ティアの言葉に婦人は嫌そうな顔をしたが、話し始めた。


「何回目だったかしら。墓掃除の依頼だと思ったら、死霊が出た事件があってね」

「ヨーフォークの屋敷か?」


 ガレンガイルが聞く。婦人はうなずいた。


「窓口でそれを聞いた時に、これは揉めると身構えたの。だってそうでしょ? 死霊退治なら、星三つの危険な案件。ギルド側は命に関わる失態だわ。怒鳴られて当然」


 ガレンガイルがうなずく。


「ところがね、この人、それはどうでもいいみたいに、次の案件を探すの。それで、そのあとにアレ」


 婦人は手で爆発のジェスチャーをした。


「ギルドの爆破事故か!」


 ガレンガイルがおどろく。おお、一応、事故になってんのか。事件じゃなくて良かった。


「わたしは二階に駆けつけたわ。瓦礫の中に血だらけで倒れている人がいてね」


 それ、おれのことだ。


「何で爆発したかは、すぐにわかった。その足元に変異石が転がっていたから」


 えー! 婦人、知ってたのか。


「正直に言うとね、誘惑されたわ。その変異石を持ち逃げするかどうか」

「いかん!それはいかん!」


 婦人は笑った。


「憲兵なら、そう言うかもしれないけど、見たことない大きさよ。おそらく金貨十枚は超える。しばらく遊んで暮らせるわ」


 金貨十枚! おれの世界だと一千万だ!


 彼女は冒険者の経験が豊富だ。こんな田舎の相場より正しいだろう。


 一千万、おれも取る。絶対取る。取らないのは、ガレンガイルと二宮金次郎ぐらいだ。


「では、なぜ」


 そのガレン金次郎が不思議な顔をして聞く。


「それがさっきのよ。こっちの大失態を気にも止めなかったでしょ。妙に借りがあるような気分だったの」

「よくぞ、思い留められた」

「危なかったわ。取っていれば、一連の騒動がわたしに降りかかっていた。考えるとぞっとするわね」


 ほんとだ。婦人はおれより強いと思うが、それでも危険だ。


「それが廻りに廻って、バルマーの手に、というわけか」

「そう。あの時、カカカの胸ポケットに入れたのが、こうなるとはね」


「あっ!」


 思わず声が出た。なんで、あの石がポケットに入っていたのか不思議だった。マクラフ婦人だったのか。


 いや、待てよ。それなら助けられたのはおれなんじゃ? 


 あれがなかったら、おれは借金がそのまま残ってた。


「わー! みんな仲間!」


 ティアが無邪気に言う。よくわからんが、なんとなく信用は得たみたいだ。


 嬉しいと言うより、なんだろ? 「日頃の行い」って大事なんだなって、反省の気分に近い。


 マクラフ婦人がおれの手を取り、回復魔法をかけた。火傷が治っていく。


「それで、次はどうするわけ?」


 婦人が笑った。おお、ダネル、お前は正しいかもしれない。笑った顔は美人だ。


「こういう事もあろうかと、思いまして」


 おれはにやりと笑い、リュックから三枚の依頼書を出した。バルマーからもらった人探しの依頼書だ。


「ハウンド、あの長髪男の通った道、わかるか?」


 黒犬の鼻先に嗅がす。漂う匂いを探すかのように、ハウンドは首をあちこちに振った。それから、ゆっくりと歩き出す。


 五人は荷物を持ち直し、そのあとを追った。


「さすが、カカカ殿。用意周到だ」

「そのわりに、マッチは忘れてたわ」


 前を歩く戦士と魔法使いの会話に、首をすくめた。隣で武道家の娘が笑っている。


 ふいに肩を叩かれ水筒を差し出された。おっと、そう、料理人もいる。


 特に理由はないが、この戦い、いけそうな気がしてきた。


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