114 第一印象
「ははっ。変な空気になってやがるな」
笑いながらオヤジが入ってくる。
オヤジは宝箱をのぞき、何も入ってなかったのかフタを閉めた。その上に腰を掛ける。
「いったいぜんたい、こいつぁなにもんだ? 三人とも、そんな顔してやがるな」
言われた三人が、互いを見合った。
しまった! そうか。事前に言っておけば良かった。立て続けに非常識な物を見せてしまった。それも洞窟内という、たたでさえ薄気味悪いところでだ。どう説明しよう。
オヤジがポケットから紙巻き煙草を出した。松明でつけようとしたが、火が強すぎるらしい。足元でぶすぶすと焼けているデスモダスの死骸をつまみ、煙草に火をつけた。おお、すげえワイルド。
「カカカが変わりもんなのは、とっくの昔、始めからだ」
えっ、そうかな? おれはオヤジに会った最初を思い出そうとした。いつだっけ。
「こいつは、俺の店に、ある日ふらりと現れた。食い物を水晶で買えるか? そう聞いてくる。買えるわけねえ。そんな事は、そこらのガキでも知ってる」
そうだっけ、そんな事を言ったっけ? すっかり忘れてる。
「次に、娘の名前を呼んだ。まだ誰もその名を言ってねえのにな」
「彼の特技、アナライザー・スコープね」
横からマクラフ婦人が言った。
「特技だったか。なるほどな」
オヤジはそう言って、旨そうに煙草のケムリを吐いた。
「初めて会った時がこれだ。怪しいなんてもんじゃねえ。しかも名前がカカカ? こいつは頭がどうかしてるのかと思ったぜ」
うっ。言い返せない。
「ちょうどその時、裏畑の妖獣駆除をギルドに出してたとこだった。勇者だって言うから、試しに頼んでみた。店から外に出したいのもあったしな」
うーん、なるほど。強盗だったり、店で暴れられても困るか。あの時って、そういう風に思われたのね。反省。
「意外なことに、依頼は受けると言う。剣も持ってねえのに」
ほんとだ。はたから見れば、おかしなやつだ。
「見るからに、変なやつ。そこでだ、人ってのは、ふいをつかれた時に、そいつの人間性が出る。俺はな、試しに手を握ってみたぜ。それも、氷をさわったあとで、俺の手はキンキンに冷えてた」
ティアがはっとした。
「ああ、あの時!」
思い出したようだ。
「彼は、それでどうしたの?」
マクラフ婦人が聞く。オヤジは婦人の目を見つめ、答えた。
「笑ったぜ。嬉しそうにな。その時から、俺はこの男を信用している」
「あたし」
ティアが口を開いた。
「あたしは、カカカに一度、命を救われてるから、信用してる。さっきはちょっと、おどろいたけど」
だからそれ、逆なんだけどな。
ガレンガイルがおれの前に立った。
「すまぬ、カカカ。一瞬でも友に恐怖を感じた。俺の不徳を許せ」
おれは視線を外した。怒ったわけじゃない。そんなストレートに言う? 産まれて始めて、面と向かって「友」と言われた。
「思えば、カカカと出会ってなければ、さきほどの総長と同じになっていたのかもしれない」
総長? ああ、アンデッドになってたブレアソール総隊長か。なるほど、憲兵にいたら戦闘に参加してただろう。わおっ。人生、何に左右されるか、わかんないもんだな。
ガレンガイルとティアが、マクラフ婦人を見た。婦人は、ため息を一つついた。
「みんな、同じような境遇ってわけね。何かしら、この勇者に助けられている」
んんん? 婦人も?





