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113 洞窟の部屋

 洞窟を進むと、もっとも見たくない物に遭遇して立ち止まる。


 分かれ道だ。


「こういうのって、どちらかの壁づたいに行くのが定石だと思うんすけど、合ってます?」


 この中で一番のベテラン、マクラフ婦人に聞いてみる。婦人はうなずいた。


 とりあえず、右の壁に沿って進んでみる。しばらく進むと行き止まりになり、小さな木の扉があった。


 いやーな予感。おれは松明をガレンガイルに預け、剣を抜いた。


 扉をゆっくり開ける。何も飛び出してはこなかった。松明をもらい、中をのぞく。


 中は少し広めの部屋になっていた。特に変わったものはない。用心のため、オヤジさんは扉の前に残して入る。


「何もないわね」

「抜け道もなさそうだ。カカカ、引き返すか」

「そうだな」

「あっ、宝箱!」


 ティアが部屋の隅にあった大きな宝箱に手をかける。待った! と言う前に開けた。


 バサバサ! と出てきたのは、一匹の小さな蝙蝠、いやデスモダスか。おれたちの松明をよけるように周りを飛ぶ。


 ほっとした。ゲームだと洞窟は「ダンジョン」と言う。こういうダンジョンにある宝箱は、ほぼ罠であることが多い。ティアが開けた時、かなり焦った。


 デスモダスはくるくる回りながら、天井に登っていく。ここの天井はかなり高い。松明の灯りが届かない所まで飛んでいった。


 その瞬間、ギラリと天井を埋め尽くす赤い目が光った。


「上だ!」


 おれは叫んで盾を構えた。デスモダスの群れが一斉に飛び立つ。


 ティアは松明を床に置き、拳を構えた。ガレンガイルも背負った松明を下ろし剣を抜く。


 こんな時こそ、さっきの魔法だ! オリーブの樹を焼いたように、ハウンドの炎を上に吐かせればいい!


「ハウンド!」


 おれが呼ぶとハウンドが振り向いた。


「キラーン!」とでもいうように。


 こちらに向かって一目散に駆けてくる。いや、これは違うぞ。こいつ、思いつきやがった。


「うおおお! よせ、ハウンド!」


 おれは逃げた。ハウンドは牙を見せて追いかけてくる。ケツを噛む気まんまんだ。


「カカカ! 遊ばないでよ!」


 ティアが怒っている。一匹のデスモダスが上空からティアに向かった。その羽音に気づき、二段蹴りの要領で蹴り落とそうとした。デスモダスはするりとよける。


 ガレンガイルのほうを見ると、まわりに数匹落ちている。下から剣を振るうが、デスモダスが急な方向転換でかわすのを目撃した。蝙蝠もどき、すげえ。師匠の剣をかわすのかよ。


 マクラフ婦人は部屋の隅にしゃがみ、デスモダスの群れをさけていた。


「カカカ!」


 だって、こいつが! そう思った時、ついに追いつかれケツを噛まれた。


「あいたー!」


 またゲロが出そうな気分になる。あわてて革手袋を脱いだ。


 うっ、だめだ、出る。


 両手を上げ、手のひらをデスモダスの群れに向けた。青白い火柱が吹き出す。


「熱っちい!」


 両手を振ると、火柱は消えた。


「ハウンド! やめろよ!」


 黒犬は「はぁ?」とでも言うように首をひねった。ダメだこりゃ。


 ボトボトと、青い炎に焼かれたデスモダスが落ちてくる。炎が当たらなかったやつは扉から逃げた。


「ごめん、ティア、こいつがさ」


 ティアが一歩下がった。


 んん? ガレンガイルとマクラフ婦人も、おれをじっと見ていた。


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