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108 ギルドで待ち合わせ

 空は夕焼けで赤くなっていた。もうすぐ日が暮れる。


 ギルドまで来ると、玄関前に馬車が停められていた。たくましい馬にボロい荷台。憲兵の馬車だ。


 ギルドに入ると、もう三人が揃っていた。


 マクラフ婦人は前に見た鎧。背中に弓を装備している。腰には短剣が下げられていた。


 ティアは、鉄板付き穴あきグローブは変わらないが、左腕に籠手。それに胸当てが加わっていた。


 靴は編み上げのブーツ。少し変わっていて、ひもが後ろ側だ。おそらく足の甲やスネにまで、薄い鉄板が入っているのだろう。


 ティアのすべての装備には、赤い布が装飾として使われていた。頭にかぶった赤い布とマッチしている。かっちょええやん!


 ダンの野郎、ティアの装備には見た目まで凝ってやがる。


 ガレンガイルの見た目も変わった。黒いロングコートに黒い革手袋、それに黒い革のブーツ。


 鎧を装備するかと思ったら、あの兄弟の見立ては違うらしい。俺と同じチェーンメイルを中に着ていた。剣は腰に差さず、背中に背負っている。


「師匠、その剣」

「ロングソードだ」


 ガレンガイルは、背中に掛けていた剣を鞘ごと外した。けっこう長い。80か90cmぐらいはありそうだ。


「それに片刃だ」


 そう言ってガレンガイルは剣を抜いた。重そうな両手持ちの鉄の剣。


「盾は要らないの?」

「ああ、すべて剣でさばいたほうがいいと言われた」


 ダンの見立てでも、この男は戦士というより、やっぱり剣士なんだな。


「使ってみて、どう?」

「それがな、意外としっくりくる」


 ちょっと持たしてもらおうかと、荷物をおいた。


 いや、やめよう。女性陣二人の目線が冷たい。


「男ってね、すぐ自分のものを見せたがるの」


 マクラフ婦人がティアに言っている。ティアがうなずいた。やめて、そういう意味深な言葉を乙女に教えるのは。


 魔力石の入った袋をそれぞれに渡す。何が入っているかも説明した。


 ガレンガイルとティアは、それぞれの石を服のあちこちに隠されたポケットに忍ばせた。そうか、二人の服もメイド・イン・ネヴィス兄弟だ。


 それを見た婦人が「やあね、わたしだけ、お古みたいで」と言うので笑ってしまった。


 ガレンガイルはロングソートを背中に戻すと思いきや、それは手に持った。松明を乗せた背負子を背負う。


 おれが頼んでいないのに、これは自分の荷物だと思ったらしい。師匠って、やっぱり男前。


 松明を背負うガレンガイルを見て、気づいた。マッチを忘れてる。行きがけにダネルの道具屋に寄ろう。


「じゃあ、行こうか」


 玄関に歩き出した時に入ってきた者がいた。若き憲兵、ニーンストンだ。手には盾と剣を持っている。


「カカカ殿」


 おれは首を振った。


「悪いね。今日は大人だけのダンス・パーティーなんだ」


 そう格好つけたが、ニーンストンはティアを見た。しまった。また格好つけ損なった。


「それぞれ自分の持ち場があるだろう。今宵は、そこをしっかり守るのが務めだ」


 ガレンガイルが言う。ちぇっ。腐っても元隊長。言葉がしっかりしている。


「でも隊長! こんなギルドランクSSS級の事件! 僕だって!」

「ふえ? そんな大層なことになんの?」


 冒険者というのは、ギルドで達成した仕事によってランク付けがあるのは知っていた。


 Eで始まり、最上位がAだ。さらに、その上に「S」があると噂されるが「SSS」なんてのがあるのか?


 おれはマクラフ婦人を見た。


「そうね。こんな島だから、ランク上がってもそれほど意味ないけど、今回はSSS級が取れる条件の一つ『国の危機を救う』に該当するわね」

「ちなみに、おれのランクって何ですか?」

「カカカ? カカカは『C』ね」


 ぶはっ。めっちゃ低い。


「ちなみにSSS級が取れたら、どういう風に変わるんですか?」

「難易度の最高位、星10まで受けれるし、国から直接依頼が来たりするわね」


 あれ10まであるんだ。怖っ。あと国からって……メンドくさそう。


「ランクアップしない方法ないのかなぁ」

「ええっ? SSS級よ!」

「だって、メンドそうで……」

「カカカ殿らしいな」


 ガレンガイルが笑う。おれは若者の肩を叩いた。


「まっ! それより帰ったら飲もうぜ」


 若者の目が少し明るくなった。


「はい! ぜひ、その時は僕のおごりで」

「それは二杯目にして下さい。一杯目をゆずる気はありません」


 そう言って出てきたのは、交渉官グレンギースだ。グレンギースの前に、おれは手を差し出した。


「ゲンは担ぐほうなんでね」


 グレンギースは窓口を振り返った。


 マクラフ婦人がハンコを押した依頼書が、山のように積んである。おれがまとめて受けた死霊退治の依頼だ。


「そこだけじゃないですよ、おれのゲン担ぎは」


 グレンギースがはっとする。最初に握手したのを思い出したようだ。強く、おれの手を握った。


「お気をつけて」


 おれはうなずいて、ギルドを出ていった。


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