100 もうひとり
ガレンガイルをどうやって断ろうかと考えていると、玄関の扉が開いた。
入ってきた人影を見て、おれだけでなくガレンガイルも目を見開く。
「間に合った! あたし今日、寝坊して」
「ティア!」
うら若き乙女。そんな雰囲気は微塵もなかった。両手には鉄板付き穴あきのグローブ。半袖、半パンツの服は丈夫そうな帆布だ。
「ダンの野郎」
おれは歯ぎしりした。こんなオリジナル装備を作るのは、あのムッツリスケベ、それ以外にない。
「お父さん! 間に合ったみたい!」
ティアは玄関に向かって言った。
お父さん?
その声を受けて入ってきたのは、氷屋オヤジ、その人だ。なんだか、バツが悪そうな顔をしている。
「オヤジさん、これっていったい?」
もじもじしながら氷屋のオヤジは、おれたちの元に来た。
「反対しても、おれの言うことなんか聞きゃしねえ」
おれはティアの全身を見た。ダンのようなスケベな眼差しではない。ティアの変わりようにおどろいた。使い込まれた装備、発達して引き締まった筋肉。
「オヤジさん、この子、いつから?」
けっ!と横を向いて、オヤジが答えた。
「おめえさんが、魔獣にやられた次の日からだ」
「えー! だって、あの後、氷屋に行ったらおれと話してくれなかったじゃん!」
「そりゃあ、おめえ、あんだけ怒っといて、こっちは見せる顔がねえ!」
もう、全身の力が抜ける。
「待って。あたしね、二度も見たのよ。あたしを助けて倒れるカカカ、道具屋さんを助けて倒れていたカカカ。もう嫌よ、助けられる側なのは」
いや、それも違うぞ。四つ目のカラスを蹴り上げておれを助けたのは君だ。そして魔獣からおれを助けたのはダネルだ。
しかし、まいった。おれは目眩を覚えて、長椅子に座った。
なんで、一番組みたくない人と組まなきゃいけない? この二人には、おれは責任を感じて、ちょっと会いたくなかったぐらいだ。
「勇者、戦士、武道家。一通りに揃ってきたのう。後は魔術師じゃ」
新たに入って来た人の姿を見て、もはや天を仰いだ。アドラダワーのじじいだ。
さらに、その後ろの人影を見て、誰がこの人たちに連絡したのかもわかった。グレンギースだ。交渉官め。朝からいないと思ったら、これか。
「交渉官。剣の達人と、ジジイはわかる。なんでまた女学生のティアを?」
おれの言葉にグレンギースのほうが、おどろいだ顔をする。
「女学生ですか! 現在このギルドで受注数が一番のお方が!」
えっ? まじで?
おれは窓口のマクラフ婦人を見た。婦人はうなずいて、職員側から出てきた。
「学校が始まるまでの早朝に一件。放課後に一件。休みの日には三件ほど、こなすわね」
あきれた。若者の無尽蔵な体力って、すごい。
「それにしても、よく、おれと会わなかったな!」
おれはだいたい毎日、このギルドに出入りしている。すれ違わない偶然もすごい。
「あたし、時間が限られてるんで、マクラフさんからロード・ベルで依頼をもらうの! すごく助かります!」
ティアが、きゃっきゃと喜ぶように言う。
開いた口が塞がらないとは、この事だ。おれは冷たい目で婦人を見た。これは贔屓だ。女子のエコ贔屓だ。
ため息をついて、かたわらに座ったハウンドを見つめた。ハウンドも見つめ返してくる。
「仲間に入れていいか?」
黒犬は「ガウ」と吠えた。
「ぎゃあ! 忘れてた! あたしコレ苦手!」
ティアが、いきなり何を絶叫するかと思ったら、チックが足元で動きまわっている。おそらく「オレも忘れるなー!」という意味だろう。
ガレンガイルがチックをつまみ上げ、手のひらに乗せる。
「我が名はガレンガイル。仲間にしてくれるか?」
チックはハサミを振り上げた。「おう、まかせとけ!」とでも言ってるみたいだ。
ガレンガイルはおれの元に歩み寄り、チックをおれの肩に乗せた。
「チック殿も異論はないようだ」
ガレンガイルの言葉におれは苦笑した。仲間に入れるしかなさそうだ。
100まで読んでいただき、ありがとうございます!話的には、だいぶ佳境になってきました。最後までお付き合いいただければと願いますっ。
相変わらず、人気はありません。ぶはっ(吐血)どこかオモロイと感じる所がちこっとありましたら、評価をポチっとお願い致します。





