表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/1700

第79話 松葉班の狩り

 松葉班と日影ヒカゲは、息を潜めながらモンゴルの森を往く。


 草原のイメージが強いモンゴルだが、森林も各所に存在する。とくにロシアとの国境に近い森林には、トナカイも生息すると言われている。とはいえ、現在日影たちがいる森林は、比較的国の内側の方なのだが。


(松葉班の装備は、中国のマモノ討伐チームとあまり変わらないんだな)


 日影が思うとおり、松葉班の装備は中国のマモノ討伐チームとほぼ同じである。対マモノ用のアサルトライフルに、『星の牙』対策と思われる重火器がいくつか。

 腰には数個の手榴弾とバックパックをぶら下げている。決定的な違いは、隊員のうちの二名、上原と雨宮が狙撃銃を持っているところだ。


「……む、止まれ」


 隊長の松葉が皆に声をかける。

 前方に角の生えた馬のマモノがいる。ツノウマだ。

 合わせて六体のツノウマがたむろしている。


(あれだけいたら、一体を仕留める間に、他の個体に気づかれちまうな)


 日影がそう考えていると、松葉が声をかけてきた。


「ツノウマは『星の牙』じゃない。脳天に銃弾をぶち込めば楽に倒せる。日影くんはここで見ているといい」


「ん、分かった」


 日影が下がると、松葉班の隊員たちが気配を殺しながら前に出る。

 木の陰に隠れ、地面に伏せ、全員が前方にいるツノウマにアサルトライフルで狙いを定める。


「配置完了しました」

「こちらも完了。いつでもいけます」


「よし。カウントを始める。3、2、1、撃て(ファイア)


 松葉の合図と共に、隊員全員のアサルトライフルが火を吹いた。

 それと同時に、六体全てのツノウマが地に倒れた。


(……ははぁ、なるほど。ひとり一体を狙ったワケか)


 隊員の一人ひとりが、それぞれ別のツノウマを狙い、合図と同時に全員がヘッドショットを決めた。これにより、複数の敵が相手でも、銃声に気づかれる前に全員黙らせることができる。


 次なる獲物を求めて森を練り歩く一行。ツノウマの群れを見つければ、先ほどと同じ方法で次々とツノウマを暗殺していく。


 合わせて21頭目のツノウマが地に倒れた、その時。


「ガアアアアアアアッ!!」

「うお!? コイツは!」


 木陰から何者かが飛び出してきて、近くにいた日影に襲い掛かった。

 しかし日影はギリギリのところでこの襲撃に気づき、前方に飛び込んで回避した。


 日影に襲い掛かったのは、灰色のまとまった体毛、そして虎を思わせる凶悪な面構え。


 日影は、このマモノを中国で見たことがあった。


「……トウテツか!」

「ガルル……」


 それは、中国に生息すると言われていたマモノ、トウテツだ。灰色の体毛からはバチバチと電撃が発生しており、戦闘態勢を取っている。


「確かに中国とモンゴルは陸続きだけどよ、こんなところまではぐれてきたのか?」


「分からん。だがマモノと言うのは存外賢い。それぞれ別種のマモノでありながら、我々人間を倒すために連携してくるくらいにはな。コイツも、件のグラキエスに雇われた用心棒か何かかもしれん」


 日影は剣を構え、松葉はアサルトライフルを構える。

 その後ろで他の隊員たちも銃を構える。

 トウテツは、今にも襲い掛からんと身構えている。


「コイツはちょいと、まともに戦うのは骨かもしれんな。上原、雨宮。狙撃しろ」


「了解!」

「アイサー!」


 松葉の指示を受け、上原と雨宮は背負っていたセミオートライフルを手に取り、トウテツに向かって弾丸を撃ち込んだ。


 弾丸はトウテツの体毛に吸い込まれるように命中した。

 その次の瞬間、トウテツの身体がグラリと倒れた。


「……は? なんだ今の。あれで死んだのか?」


「まだ死んではいないよ。眠っただけだ。これから死ぬがね」


 そう言って松葉は眠っているトウテツに近づき、その頭部にアサルトライフルの銃口を向け、マガジンにあるだけの弾丸全てを撃ち込んだ。


 トウテツが起き上がることは、二度となかった。


「『ゾウを一撃で殺す弾丸』はそうそう無いが、『ゾウを一撃で昏倒させる麻酔銃』というのは結構あるものだ。手こずりそうなマモノや『星の牙』は、こうやって眠らせてから仕留める。さすがの『星の牙』も、麻酔に対する抵抗力は他のマモノとそう変わらない」


「はぁー、思ったよりエグい戦法を使うんだな」


「すべてのマモノをこうやって仕留めたワケではないが、主力の戦法の一つではあるな」


 言いながらアサルトライフルのマガジンを取り換える松葉。

 他の隊員たちは周囲を警戒している。

 だが、この辺りのマモノの気配はほとんど無くなったようだ。


「……これで取り巻きのマモノは、大体一掃出来ましたかね?」


 雨宮隊員が呟く。

 しかし、これに対して隊長の松葉は……。


「……いや、まだ残っていたようだ」


 そう言って、三時の方向を指差した。

 その先の丘の上に、十体以上ツノウマの群れがいる。


「……いや、ツノウマだけじゃないみたいだぜ?」


 日影が口を開き、指差す。


 その先に居るのは、銀のたてがみを持った雄々しい白馬のマモノだ。額には氷で出来たような角を持ち、体格は周りのツノウマより頭一つ抜けて大きい。

 その姿は、真っ直ぐ立っているだけでも、周りのツノウマとは格が違うというオーラが漂っているようだ。


「アイツが、グラキエスか……!」


 日影が『太陽の牙』を構える。

 松葉班も、揃ってアサルトライフルを構える。



「ヒヒイイィィィィン!!」


 グラキエスのいななきがこだまする。

 それを合図に、彼の周囲にいるツノウマたちが一斉に突撃してきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ツノウマ、ビジュアルが好きです! でもマモノですからね( ;∀;) 合図の時、撃てはファイア!って言うのですか? めちゃくちゃカッコいい……!!
2022/09/24 23:03 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ