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外伝8話 影に集る黒い蟲

 夜。

 きっともう、みんな寝静まっているくらいの真夜中。


 オレは川から少し移動し、大きめの木の下に腰かけ、眠っていた。

 ここならきっと怪物にも見つかりにくいだろう。


 ふと、ブーンという、虫の羽音のような音が聞こえた。

 その音はこちらからまったく離れず、周囲を飛び回っている。


「なんだ? ハエか? うるっせぇなぁ……」


 オレは耳を塞ぎながら横になる。

 その時、オレの首の後ろに何かが止まったような感触を感じた。


「ッ!?」


 慌ててオレはその感触を振り払う。

 感触の主はオレの首から離れ、再びブーンと、オレの周りを飛び始める。


「……いや、待て。この音、一つだけじゃねぇぞ……?」


 耳をすませば、今度は同じ羽音が三つか四つ、ブーンブーンと周りを飛び交っている。

 音は、こちらに近づいたり遠ざかったりしながら、オレを囲むように鳴り響く。


「何がいやがる……? 暗くてよく見えないな。火をつけるか」


 オレは側に置いていた剣を手に取り、刀身に火を灯す。

 周りが一気に明るくなり、オレの周囲を飛び交う蟲の群れを照らし出した。


「なにっ!?」


 宙を飛んでいる蟲に囲まれている。

 蟲はあちこちからどんどん集まってきて、既に何十匹という大群になりつつある。


 しかもこの蟲たち、いやに大きい。

 甲殻は漆黒に染まり、造形はハチに似ている。

 見た目だけでもその凶暴さが伝わってくるようだ。


 明らかに普通の蟲じゃない。怪物だ。

 オレは今、黒いハチの怪物に取り囲まれている。


「クソ、このままじゃなぶり殺しだ」


 燃え盛る剣をやたらめったらに振り回しながら、ハチの怪物たちを追い払う。

 しかしハチどもは、オレから少し距離を取るだけで、すぐにまたオレを取り囲む。


「はぁ……はぁ……クソ、コイツら、あっち行けよ……!」


 オレの剣は、こちらの身の丈ほどあるのではないかというくらい長く、厚身だ。その剣を何度も振ったせいで、オレは息が上がってしまう。


 そんなオレの隙を突き、一匹のハチがオレの太ももあたりに止まる。それと同時に、焼けた針を突き刺されたような痛みが太ももに走った。


「う、ぐぁぁ!?」

 

 恐らく、あのハチの針に刺されたのだろう。しかし、親指二本分ほどの体躯のクセしてなんて威力の針だ……。

 

 痛みのあまり、地面に転倒してしまう。

 それを見たハチどもは、オレ目掛けて一斉に飛びかかってきた。


「ぐ、おおおおおおおお!?」


 ハチどもはオレにまとわりつき、腕を、脚を、体中を、刺して刺して刺しまくる。服の上からだろうとお構いなしだ。体のあちこちが針串刺しにされる。


「ぬ……ぐ……ッ!」


 細く貫くような激痛が、全身に襲い掛かる。

 オレは、痛みでのたうち回ることしかできない。今は、な。

 


 身体が、少しずつ熱くなってくる。

 飛んで火にいる夏の虫、とはよく言ったモンだ。


 普通の人間ならとっくに終わってるのだろうが、相手が悪かったな。反撃開始だ。蟲野郎ども。いい加減に……


「しやがれぇッ!!」


 怒号と同時に、オレの身体から勢いよく炎が噴き出る。まるでちょっとした爆発だ。ほとんどのハチどもはそれに巻き込まれ、燃え尽きたようだ。


 炎が収まると、オレの傷もきれいさっぱり消えた。


「クソが、人がせっかく寝てたのに、起こしやがって。ハチの餌場にでも迷い込んだか……?」


 オレは炎を上げる剣を掲げ、松明代わりにして周囲の探索を開始する。あんな凶悪な蟲がいては、おちおち眠ってもいられない。それにどの道、あんな怪物、放っておけない。登山客が襲われでもしたら大変だ。


 黒いハチどもを殲滅するため、オレは歩き始めた。



◆     ◆     ◆



「うわぁ」


 オレは思わず声を上げた。

 目の前に広がる、広大なハチの住宅街を眺めながら。


 オレが寝ていた場所からしばらく進むと、その先の木々の上に大量のハチの巣が作られていた。

 それもただのハチの巣ではない。先ほどの黒いハチたちを思わせるような、巨大で真っ黒なハチの巣だ。

 通常、ハチの巣は枯れ葉などを集めて作られるという。だからハチの巣は茶色なのだが、あの巣は何で出来てるんだ?


 そして、その黒いハチの巣に、先ほどのハチたちが出入りしている。

 材質はともかく、あれが連中のハウスで間違いない。


「んじゃ、燃やすか」


 この山にお前らみたいな凶悪な生き物は要らない。居てはいけない。不法入居者には、速やかにご退去願おうか。


 オレは近くの木に近寄ると、その上に作られたハチの巣に向かって、燃え盛る剣を投げつけた。剣はハチの巣に命中し、深々と突き刺さる。


 ハチの巣が、あっという間に火事になる。

 ハチの巣から黒いハチたちが出てきて、オレに襲い掛かってくる。


「おっと、来た来た!」


 オレは剣を手元に呼び戻し、きびすを返してハチから逃げる。

 そして、その先にあるハチの巣に向かって再び剣を投げつける。

 それを繰り返す。

 ハチに追いかけられながらも、何度も、何度も。


 ときどきハチに追いつかれ、身体を刺されることもあったが、そんな時は先ほどのように、身体を治す炎を利用して撃退した。


 気が付けば、辺りは炎に包まれていた。

 ハチの巣を焼いた炎が木に燃え移ったのだろう。

 それでいい。それが狙いだ。


 周囲は炎によってすっかり明るくなり、猛烈な熱気と煙に包まれる。

 それを受けて、ハチどもはみるみるうちに弱っていった。

 パタパタと地面に落ちていくヤツもいる。

 ブンブンと飛び回った末に、勝手に炎に飛び込んだヤツもいる。

 ハチどもにとっては、まさに地獄絵図だ。


 蟲には火と相場が決まってる。

 ハチの巣は除去できたし、ハチどもも一網打尽にできたし、一石二鳥だ。

 あとは生き残りをプチプチ潰していくか。

 そう思った瞬間。


「ギギギギギギギギ………」


 赤黒く染まった空の上から、巨大な黒いハチが舞い降りてきた。

 あれがきっと、このハチどものボスなのだろう。



「よう、お邪魔してるぜ。ちょうど今、お前の家でキャンプファイアーしていたところだ。お前も参加するか?」


「ギィィィィィィッ!!」


 オレの挑発を受けてか、ハチのボスが耳障りな金切り声を上げた。

 つまり、宣戦布告というワケだ!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ギャー!!蜂は痛いですよね(>_<) まだ刺されたことないですが想像したら((((;゜Д゜))))))) 日影くんも再生できるから良かったですけど、一般人なら完全にアウトですよね……。 可…
2022/04/06 22:05 退会済み
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