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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第3章 予知夢に集う者たち
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第66話 その剣の名は

 ブラックマウントとの戦い、そして星の巫女との問答を終えた日向たちは、峨眉山の中腹に戻ってきていた。


 周りではマモノ討伐チームの人たちが撤収の準備をしている。

 しばらくしたら日向たちもヘリで空港まで送ってもらい、今日の夜、日本に帰る予定である。


 日向たちを護衛してくれていた実働部隊の人たちは皆、あのゼムリアいう大狼にやられてしまった。しかし全員、一命は取り留めており、一か月も休めば問題なく復帰できるとのことだ。


 日向たちは狭山に、星の巫女とのやり取りについて報告した。

 あれだけの情報量、ちゃんと伝えられるか心配だったが、本堂が星の巫女との会話をスマホでこっそり録音していた。こういう時に機転が利くのは、さすが英才といったところか。


 ちなみに道中で本堂の全身放電を受けて、なぜ彼のスマホは無事だったのかというと、スマホのカバーがちゃっかりゴム製だったのだ。


 撤収作業が行われている端で、日向は近くの木に背中を預け、腰かけていた。

 傍らには例の剣を地面に刺している。


「この剣が、『星の牙』ね……」


 この剣は、炎を宿し、身体の傷を焼き尽くし、呼べば手元に現れ、影を勝手に切り離す。


 思えば、この星の『星の牙』はどれもこれも凄まじい力を持っていた。尋常ではないほどの生命力を持ち、天候や災害をも操ってみせた。それらと比較した場合、この剣も『星の牙』として申し分ない能力を持っていると言えるだろう。


(とは言え、こちらにダメージを与える機能が多すぎだろ。確かに、”再生の炎”にはよく助けられている。けど、傷を焼いてくるのはマジでつらい。オマケにあと一年ほどで日影を倒さないと消えちゃうんだよ? 俺。この剣は俺に何か恨みでもあるのか)

 

 そんなことを考え、悩んでいると……。


「日向。何してるんだ?」


 そう言って声をかけてきたのは、本堂だ。


「ああ、本堂さん。見てのとおり、休んでるんですよ。本堂さんは何を?」


「俺も今は暇を持て余しているところだ。さっきまでは狭山さんに、星の巫女について質問攻めを喰らっていたんだがね」


 そう言って本堂さんは、日向がもたれかかる木の横側に背中を預ける。構図としては、木の正面に日向が座っていて、本堂がその右後ろで立っている。


 北園の治癒能力ヒーリングのおかげで、マグマに焼かれた足はすっかり治っているようだ。


「……今さらだが、俺たち、大変なことに巻き込まれたな」


「ははは……なんか、スミマセン」


「別にお前は悪くないさ。むしろ俺が、好きでお前たちに協力してるんだからな。……それと、一つ、話しておきたいことがあった」


 本堂が、真剣な面持ちで続ける。


「もうすぐセンター試験だ。その次が二次試験。この日のために、俺は一年間勉強してきた」


「そっか、もうすぐでしたね、センター試験」


「ああ。それで相談なんだが、受験が終わるまではマモノ退治から外れていいか? 受かる自信はもちろんあるが、それでも念には念を入れたいんだ」


 本堂の頼みはもっともだ。

 彼らは皆、マモノと戦う戦士である以前に、一人の学生なのだから。

 本堂は学生というか、浪人生だが。


「もちろん、大丈夫ですよ。……たぶん、北園さんも同じことを言うと思います」


「そうか? 俺たちを中国ここまで引っ張りまわしたような子だぞ? 『受験もマモノ退治も頑張ってください!』と言ってきてもおかしくなさそうだがな?」

 

「うーん、言いかねない。北園さんなら言いかねない」


 本堂の言葉に、日向は思わず呆れたような表情を見せてしまう。


「けど、その時くらいは俺が食い止めて見せますよ。本堂さんは、この時のために一年間頑張って来たんでしょう? その努力を台無しにはできませんよ」


「……そうだな。ありがとう、日向」


 日向を見下ろしながら、しかし真っ直ぐと、本堂が礼を言ってきた。


(やっぱり、こう真っ直ぐ他人からお礼を言われるのは、なんかこそばゆいなぁ。……けど、悪い気持ちはしないかな)


「では、俺は先にヘリに戻る。中で勉強でもしておくかな」


 そう言って本堂は去っていった。

 日向は、再び一人になる。




「……あ、ヒューガ!」


 すると今度はシャオランがこちらへやってきた。

 やってくるなり、日向の正面に座る。


「シャオラン、お疲れ。怪我とかはもう大丈夫?」


「まぁ、大丈夫だよ、一応……」


「一応って」


「体の傷は治っても、心の傷は消えないの! ブラックマウントの身体、本当に熱かったんだからね!」


 シャオランは、素手でブラックマウントを攻撃してきた。

 その際、ブラックマウントの高い体熱によって火傷を受けていたが、既に北園から治癒能力ヒーリングを受けているようだ。


「そういえば聞きそびれていたけど、シャオランの日本行きについて、両親は何て言ってた?」


「誠に残念だけど、オーケーだって……」


「何が残念なものかい。歓迎するよ。盛大にな」


「はぁぁぁぁぁ……。『痛い目に合わないように、怖い目に合わないように』と思って武道を始めたのに、そのせいでマモノとの戦いなんかに巻き込まれるなんて……今ほど武道を習い始めて後悔した日はないよ……」


「まぁ確かに『あなたはいずれ世界を救う、という夢を見たので日本に来て化け物と戦ってください』とか、傍から聞いたら理不尽以外の何物でもないよなぁ……」


「まったくだよ……。けど、それを乗り越えたら、ボクも臆病な性格を治せるかもしれない。それに、ヒューガにもお世話になったし、その恩返しもしないといけないし……」


「シャオランって、やっぱりいい奴だなぁ」


「自分を誤魔化してるだけだよ。そうでもしないと、心不全で死にそうだよぉ……」


「ははは……」


 すると討伐チームの隊員の一人がシャオランを呼ぶ。

 あの隊員は、シャオランを町まで送ってくれる役目の人だ。


「ああ、そろそろ時間かぁ。じゃあヒューガ、またニホンでね」


「うん。待ってるよ、シャオラン」


「……ニホンに行く時は、やっぱり飛行機なんだろうなぁ。また空飛ぶ乗り物酔いするんだろうなぁ。もうやだぁ……」


 げんなりした様子で、シャオランは去っていった。

 再び、一人の時間がやってくる。




「あ、日向くん発見!」


 今度は北園がやって来た。

 こちらを見つけるなり、日向の隣にちょこんと座る。


「北園さん。もうお手伝いは終わったの?」


 念動力サイコキネシスが使える北園は、討伐チームの撤収作業に大いに重宝されていた。車一台持ち上げる力が出せるというのだから、大抵の物資は軽々と運べる。さっきまで彼女は、その手伝いをしていたはずだが。


「うん。もうあらかた終わったよ。後は自分たちでやるからゆっくりしてくれって、チームの皆さんが」


「そっか、お疲れ様」


「うん! ありがと!」


 笑顔で応える北園。

 しかし、唐突に真剣な顔になって、日向に向き直る。


「ねぇ、日向くん」


「ん? なに?」


「……どう思う?」


「え? 何が?」


「あの子。星の巫女ちゃん。……あの子が、私たちの倒すべき敵、なのかなって……」


 北園の予知夢、その最後の登場人物。

 五人と対峙する『何者か』。

 その力で、思うがままに嵐を呼び、大地を割ってみせたという。


「……現状、あの子しかいないよなぁ。あの子は星の力の完全適合者だ。あの子の言うことを信じるなら、彼女は嵐だって操れるし、大地だって簡単に割ってみせると思う」


「……そうだよね。きっと、あの子だよね……」


 北園の顔色が優れない。

 星の巫女と戦いたくないのだろうか。

   

(……正直に言って、俺もゴメンだ。幼い女の子を傷つけたくないというのもある……けど、やっぱり一番の理由は……)


 日向は、ため息交じりに空を見上げ、呟く。


「……どうやって勝てば良いんだろうなぁ、あんな化け物……」


「あはは……そこだよね……」


 ガトリングガンの弾丸を止め、ミサイルを雷で迎撃し、地面から無数の巨大な火柱を噴出させたあの力。反則もいいところである。人間がどうにかできる相手ではない。オマケに、普段はこの世界とは別の次元にいるという。戦う以前の問題だ。


「……けど」


 北園が口を開く。


「けど、予知夢では、私たちがこの星を守るって言ってた。だから、きっとこれからも頑張っていれば、何とかなるんだと思う。だから、私は諦めないよ。きっとこの星を守ってみせる」


「北園さん……」


 ……その時、日向は一瞬、北園の言葉に何か違和感を覚えた。


 しかし、日向の頭は既に、今日起こった他の出来事でいっぱいいっぱいだった。その違和感にこの場で気づくことは、彼にはできなかった。


「だから、日向くんも一緒に頑張ってもらうからね!」


「そう来ると思ってました。頑張ってみるよ。とことん信じるって決めたからね」


「……うん!」


 北園は、満面の笑顔で頷いた。


「じゃ、私も先に、ヘリで休んでおくね。なんかもう、まぶたが重いよ」


「分かった。……頼むから良い夢を見てくれよ? 『今度はエジプトに行く夢を見ました!』とか、無しだよ?」


「あはは……善処しまーす」


 苦笑いしながら、北園は去っていった。

 また、ポツンと一人、残された。




 すると、こちらに向かって歩いて来る影が一人。


「おう」


「……よう」


 日影ヒカゲだ。

 日影は日向の側を通り過ぎて、木の反対側に腰かけた。

 西日が眩しい。つまり、日影が日陰側だ。

 ややこしい。


「オレはしばらく狭山の世話になるぜ。お前と瓜二つのこの姿で、お前の家に行けば、お前の親がビビっちまうだろうからな」


「そ、そうだな……そうしてもらおうかな……」


 日向の母の前に日影を連れてきて「コイツを一年以内に殺さないと俺が死んじゃうんだ」とか言った日には、それはもう大混乱が起こるに違いない。


 日向の返答に軽く苦笑すると、日影は話を続ける。


「……オレはきっと、あの星の巫女を倒して、この『マモノ災害』とやらを終わらせるために生まれたんだろうな」


「お前は、戦うために生まれたっていうのか?」


「ああ、きっと。この星にマモノが現れたから、この剣が降ってきて、お前が拾って、オレが生まれた、とオレは思ってる。この星に平和を取り戻すのが、オレの使命なんだろうさ。……日向。オレは強くなる。アイツを、星の巫女を倒すために。そんで全てが終わったら、お前との決着だ」


「…………。」


 日向は、他に方法は無いのか、と思ってしまった。


 日影と戦わず、二人そろって生き残る方法。

 星の巫女と戦わず、何とかして和解する方法。

 戦わずに済むなら、それが良い。

 傷つかないなら、それが良い。

 平和に解決できるなら、それが良いに決まってる。


(けど、そう言ったところで日影アイツは聞かないんだろうな。アイツ、一度これだと決めたら弾丸みたいに突っ走るタイプと見た)


「ま、そういうワケだから、お前も精進しろよ? モタモタしてっと、オレがお前の存在を奪っちまうからな」


「……ああ」


「……じゃ、オレは行くぜ」


 そう言い残すと、日影は去っていった。



「……精進したところで、なぁ……」


 日向は一人、夕焼けに染まる空を見上げながら、呟いた。





「やぁ、日向くん。お疲れ様」


「あ、狭山さん。お疲れ様です」


 最後に声をかけてきたのは、狭山だ。

 日向は、座ったままだと失礼か、と思い、立ち上がろうとするが……。


「ああ、いいよいいよ。楽な姿勢でいてくれ。戦いと山道ハイキングで疲れただろう?」


「ま、まぁ。じゃあお言葉に甘えて」


 狭山に促され、再び木陰に座った。

 狭山は日向の目の前に立ちながら、話を続ける。


「今日はありがとう。君たちのおかげで、事態は大きく前進した。自分たちが一年かかって出来なかった『マモノ災害』の原因究明が、ついに今日、達成されたんだよ」


「俺たちのおかげなんて、そんな。きっと他の誰かでも……」


「いいや、君たちのおかげだとも」


 そう言って、狭山は続ける。


「北園さんの予知夢の意味は、きっとこれだったんだ。君たちの力でブラックマウントを討伐できたから、あの子が、星の巫女が姿を現した、と自分は思ってる。だから胸を張りなさい、日向くん。これは間違いなく君の、そして君たちの功績だ」


 何の臆面も迷いもなく、真っ直ぐ日向を見つめ、そう言った。

 彼には、他人をとことん信頼させる何かがある。

 それはただの「優しさ」とも「誠実」とも違う。

 言葉では説明しにくい何かが。


「……ところで、君のその剣、何か名前はあるのかい?」


 唐突に、狭山が日向の剣を指差し、そう言った。


「へ? これ? いや、今のところ特には……」


 日向も何度か、この剣に名前をつけようと考えたこともあった。しかし、この剣に元々の名前があるなら、その名で呼びたいとも思っていた。だから後回しにしていたが、そろそろ何か名前をつけないと不便かもしれない。


「自分ね、モノに名前を付けるのが大好きで、新種のマモノの名前とか、よく自分がつけてるんだよ。今日、討伐チームの皆さんが戦った大蛇のマモノも新種でね。どんな名前をつけようかと考えていたところなんだ」


「へぇー……。じゃあ今日見た、トウテツとかヨツデザルとか、バレットバードも?」


「自分が付けたよ。もう十か月くらい前かな」


「そうだったんですか……。なんか、ネーミングが独特というか……ゲームのモンスターっぽい気もするというか……」


「ああ、よく言われるよ。自分はあまりテレビゲームとかはしなかったんだけどね。たまたまセンスが被ったんだろうね」


 苦笑する狭山。そして話を続ける。


「話を戻すけど、その剣について、自分なりに一つ、名前を考えてみたんだ」


「この剣の名前ですか……。どんなものを考えたんでしょう? 狭山さんのネーミングセンスが今、試される……!」


「ははは、まぁこれはけっこう自信があるんだ。どっしり構えて聞いてほしい」


 そう言って、狭山は話を続ける。



「星の巫女の言うことには、その剣はこの星に穿たれた、もう一本の『星の牙』。太陽の力を宿した剣。地球の『星の牙』を喰らうもの。だから、その剣の名前は『太陽(たいよう)(きば)』。」


「太陽の……牙……」



 不思議と、すごくしっくりときた。

 まるで、それこそがこの剣の、本当の名前であるかのような。



「……良いですね。それでいきましょう」


「お、本当かい! いやぁ嬉しいなぁ。ダサいとか言われたらどうしようかと」


「いや、思ってても口に出すほど薄情にはなれませんって」


「そっかそっか。……あれ? でもそれって、ダサいって部分は否定してなくない?」


「い、いや! ダサいなんて思ってないですから! ホントですよ!?」


 慌てて言い繕う日向。

 そうこうしているうちに出発の時間がやってきて、日向たちは峨眉山を後にした。





 これにて予知夢の登場人物、運命に選ばれた者たちは出揃った。

 歯車はいよいよ動き始める。

 巻き戻しは、もう利かない。

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― 新着の感想 ―
[良い点] みんなとの会話も前より重々しい雰囲気がありますね。 日向くんと同じく平和に解決できるのが一番だと思っているのですが…… そして太陽の牙、すごくカッコイイです!! 厨二心をくすぐられます( …
2022/01/11 22:50 退会済み
管理
[良い点] 太陽の牙……格好良い。 なんか牙って、見た目も音もカッコイイですよね。ふふふ。
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