第64話 マモノの真実と星の力
五人は並び、「星の巫女」と名乗った少女と向き合う。
先ほどブラックマウントを骨にしてみせた能力といい、その「星の巫女」という名前といい、彼女は間違いなく、この「マモノ災害」に何か関係があるはずだ。
しかし星の巫女は、五人のことを気にも留めず話を続ける。
「先ほどの、私がこの子に何をしたかという質問ですが、この子に貸していた『星の力』を回収させていただきました。既に死んでいる子から『星の力』を抜き取ると、大抵の場合、このように骨となってしまいます」
星の力。
また耳慣れないワードが出てきた。
「その、『星の力』っていうのは何なんだ? それをマモノに与えるとどうなるんだ?」
日向が尋ねる。
「『星の力』とは文字通り、この星、地球が内包する力のことです。そして一つ勘違いをしているようですが、『星の力』はマモノに与えるのではなく、それを動植物に与えるとマモノになるのです」
「動物が、マモノに……!?」
それはつまり、マモノを生み出す方法。
恐らくは、この『マモノ災害』における核心とも言える情報。
やはりこの女の子が『マモノ災害』の元凶なのだろうか。
「動物たちは、あなたたち人間に日々、生活圏を追われています。自然は伐採され、開拓され、狩り尽くされていく。種の絶滅まで追い込まれた者も少なくありません。彼らは怒っています。しかし、あなたたち人間は強い。このまま立ち向かったところで、駆逐されるのが関の山。だから、私がこの星から力を借り受け、それを彼らに分け与えているのです。『星の力』を受けた動植物は急激に進化し、『マモノ』となります。マモノとは、この星の自然をあなたたち人間から守るために立ち上がった動物たちなのです」
この星の動物たちが、マモノ。
マモノとは、この星の動物が進化した存在。
それは狭山の推察通りだ。
だが、この星を破壊するためではなく、守るために進化したという。
マモノとは、この星の自然を守る者。守者。
「……『星の力』とは、この星そのものの力。それを授かった動物がマモノになるというワケか」
本堂が口を開いた。
続けて星の巫女に言葉を投げかける。
「では、『星の牙』とは何なんだ? あれはマモノとどう違う?」
「『星の牙』ですか。あれは―――――」
星の巫女が本堂の質問に答えていく。
(一つ、思ったことがある。この子、めっちゃ色々教えてくれるぞ)
と、その傍で思う日向であった。
曰く。
この星に生きる全ての生き物には、星の力に対する適性がある。
それは動物だろうと植物だろうと人間だろうと変わりなく。
そして、この適性が高い者は、星の力を授かると爆発的に身体能力が上がり、強力な『異能』を得ることがある。それこそが『星の牙』。
星の牙とは、この星の災害に由来する特別な『異能』の総称であり、それを発現したマモノに対する称号でもあるのだ。
『星の牙』は、大きく10の能力に分けられる。
『星の牙:吹雪 《ブリザード》』。
吹雪と冷気を司る能力。
発現した者は氷に関する異能を持つ。
その場にいるだけで天候を雪に変えてみせる者も。
日向たちが戦ったマモノでは、アイスベアーがこれにあたる。
『星の牙:溶岩 《ボルケーノ》』。
溶岩と地熱を司る能力。
発現した者は超高温の熱気や炎、溶岩に関する異能を持つ。
先ほど戦ったブラックマウントこそ、星の牙:溶岩だ。
『星の牙:嵐 《テンペスト》』。
嵐を司る能力。
発現した者は豪雨や雷、暴風に関する異能を持つ。
また、その場にいるだけで嵐を巻き起こすことができる者もいる。
日向と北園が戦ったライジュウが、この星の牙だ。
『星の牙:水害 《ウォーターハザード》』。
水を司る能力。
発現した者は、水を思うままに操る異能を手に入れる。
その形は千差万別。水流のように撃ち出したり、意図的に水の流れを止めたり、津波を引き起こすことだってできるのだとか。
日向たちが戦ったマモノでは、スライムがこれに該当する。
あの微生物の集合体は、この能力を使って一匹一匹が水を纏っていたのだ。
『星の牙:濃霧 《ディープミスト》』。
濃霧を司る能力。
発現した者は、辺り一帯を霧に包む。
適正が高い者が生み出す霧は、普通の霧には無い特殊能力を付加させる。
日向たちが戦った中では、言うまでもなくミストリッパーがこれにあたる。
『星の牙:地震 《アースクエイク》』。
地震と、その衝撃エネルギーを司る能力。
発現した者は、大地に関する異能を持つ。
地形の変化、土や地殻の利用、能力名の通り地震を引き起こすこともできる。
さらに、地震を生み出すエネルギーを直接攻撃に転用し、絶大な破壊力を生み出すことも可能だ。
これに該当するマモノで心当たりがあるのは、ロックワームだろう。
あのマモノは岩盤を鎧のように身に纏い、己を守っていた。
『星の牙:生命 《ライフメイカー》』。
生命を司る能力。
発現した者は、『命』に関連付けられる異能力を持つ。
例えば特定の命を生み出したり、育むことが得意となる。あるいは、特定の生物を操ったり、再生能力を得たりなど、その効果は多岐にわたる。
日向たちが戦ったマモノでは、ボスマニッシュがこれにあたる。
ヤツはこの『星の牙』の力で、キノコ病を発症させる胞子を生み出していたのだ。
さらに、この中でも『星の牙:嵐』は、さらに三つに分けることができる。
『星の牙:暴風 《トルネード》』。風を操る異能力。
『星の牙:雷 《サンダーボルト》』。雷を操る異能力。
『星の牙:大雨 《レインストーム》』。雨を操る異能力。
これら三つを全て合わせた『嵐』の星の牙を発現する者もいれば、どれか一つしか発現しない者もいる。全ては適正次第だ。
七種類プラス”嵐”の中の三種類。
以上十種類が、『星の牙』の大まかな種類だ。
さらに、この星には『星の牙』以上に、星の力への適性が特別高い者が存在するらしい。その者が星の力を授かれば、全ての『星の牙』の能力が発現するほか、この星のシステム『重力操作』や『時空移動』、『気配感知』といった能力なども得られるのだという。それはまさに、この星との一体化、あるいはこの星そのものになりきることを意味する。
言うなればその者は、『星の力の完全適合者』。
だが、その適性を持つ者はごくわずか。
この星のあらゆる全ての生物を見ても、数えるほどしか存在しないのだという。
「『星の牙』の力は絶大です。これがあれば、動物たちもあなたたち人間に負けはしない。そう思っていました。……その剣が現れる前までは」
「この剣が?」
星の巫女は、真っ直ぐ日向が持つ剣を指差す。
確かにこの剣には、件の『星の牙』を瞬時に屠る謎の力がある。
彼女は、この剣について何か知っているのだろうか。
「教えてくれ。この剣は、一体何なんだ?」
「はい。その剣は――――」
「おい、そこまでにしとけよ。連中があの剣について知らないのならば、わざわざ教えてやる必要も無い」
日向と星の巫女の会話に割って入ったのは、彼女の肩に停まっている赤い鳥、ヘヴンだ。実に流暢な人語で、二人の会話に横入りしてきた。まさかその肩の鳥が喋るとは思わず、日向は戸惑う。
「と、鳥が喋った!?」
「何だお前? 喋る鳥を見るのは初めてか?」
「い、いや、そりゃオウムとかは喋るけどさ? でもそんなペラペラとは喋らないし、しかも随分と渋い声で……」
「なんだ、喋る鳥知ってんじゃねぇか。じゃあいちいち驚くなよ面倒くせぇ」
「な、なんつー口の悪さだ。日影といい勝負だ」
「お前、なにさり気なくオレに喧嘩売ってるんだ? あん? もっとよく聞いてみろよ。オレの方があっちよりマシだろ?」
「なにをどう聞いてもいい勝負だっつーの」
日向と日影が言い合う傍らで、星の巫女もヘヴンと会話をしている。
「ヘヴン、ここは堪えて。私はあくまで裁定者の立場。ここで彼らに情報を隠すのは、フェアじゃない」
「……ケッ。お前がそう言うなら、もうそれでいいや」
「うん。ありがと」
一人と一羽が会話を終えると、改めてこちらに向き直る。
「話を戻しましょう。その剣は”太陽”の力を持つ剣です。それも、極めて強力なエネルギーが凝縮されている」
太陽の剣。これも狭山の推察通りだ。
「この星は何億、何兆という命を生み出し、育て、ここまで繁栄させてきました。しかし、それはこの星の力だけでは成し遂げられなかったものです。もう一つ、この星の生命を育ててきた星がある。この星に熱と光を伝えてきた、偉大なる天体」
「それが、太陽?」
「その通りです。太陽の力無くして、この星はここまで繁栄しなかった。その事実は、この星と太陽の力関係にも表れています。太陽の力は、”この星の力”をいとも簡単に焼き尽くしてしまうのです。故にこの星は、太陽には逆らえない。星の力を受けたマモノたちがその剣に歯が立たないのは、そういう理由です。一つの星として純粋に力を比べても、太陽はこの星よりずっとずっと強力です。比べ物にならないとさえ言えるでしょう。
言うなればその剣は、太陽が生み出した、もう一つの『星の牙』」
「この剣が、『星の牙』……!?」
日向は、自分の手に持つ例の剣を見つめる。
ある日突然自宅の裏山に落ちてきたこの剣。
どうやらこれは、とんでもない代物だったようだ。
先日、初めてのブックマークを貰ってから、さらにもう一件ブックマークをいただきました。ありがたやーありがたやー。
この場を借りてお礼を。2件目のブックマークを登録してくれた方、ありがとうございます!
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