第62話 ブラックマウントの弱点
「溶岩が来るぞ! 避けろーっ!!」
ブラックマウントが噴火した。
煮えたぎる溶岩が日影たちに向かって降ってくる。
「ヤツから離れろ! ヤツの近くほど大量の溶岩が降ってくる! 避けられなくなるぞ!」
溶岩を避けながら、本堂が指示を飛ばす。
だが、溶岩は次々とこちらに向かって降り注ぎ、退路にも容赦なくぶちまけられる。離れなければと分かってはいるが、現状、ブラックマウントに背を向ける余裕さえ無い。
「うおおっ!?」
ひと際大きな溶岩の塊が、日影の顔面に向かって飛んできた。
慌てて身を屈め、それを回避する。
「くっ……!」
「わ、わ、わー!?」
本堂とシャオランも上手く避ける。
避けながら、少しずつ、ブラックマウントから離れている。
しかし……。
「ぐあっ!?」
本堂が声を上げた。
耐え難い苦痛を受けた時の声だ。
本堂の真後ろに落ちて来た溶岩の塊が、着弾と同時に飛び散り、本堂の足にかかってしまったようだ。飛沫程度の一粒でも溶岩なのだ。必殺の火力を持っている。
足を焼かれ、転倒する本堂。
そこに、また別の溶岩弾が降ってくる。
「やばいっ! 本堂、避けろーッ!!」
「ぬ……ぐ……!」
日影の声が届いたのか、すぐさま上体を起こす本堂。しかし足を焼かれ、立つことができなかったのか、腕の力だけで跳ぶように前方へ転がる。その結果、十分な距離が取れず、溶岩弾は本堂の脚をかすった。
「がぁぁ!?」
悲鳴を上げる本堂。脚がひどく焼けただれている。
しかし直撃ではない。かすっただけだ。
直撃していれば脚が溶解していてもおかしくなかった。
あの程度の火傷なら、北園の治癒能力で回復できるはずだ。
しかし悪いことは重なるもので、倒れた本堂に向かってさらにもう一発、大粒の溶岩弾が降ってくる。しかもあれは直撃コースだ。喰らえばまず命はない。そして本堂はまともに動ける状態ではない。
「クソがぁぁぁ!!」
日影は本堂の元に駆け寄り、剣を構える。
本堂に向かって飛んでくる溶岩弾を打ち落とすために。
「おぉぉぉぉぉぉ!!」
溶岩弾目掛けて、剣を叩きつける。
(我ながら、飛んでくる溶岩弾を剣で打ち返すとか、正気の沙汰じゃねぇな! 剣が溶解する可能性もあるが、本堂を助けるには、やるしかねぇ!)
……だが、日影の剣が命中すると、溶岩はまるで割れた風船のようにはじけ飛んだ。傍から見れば、日影が飛来する溶岩を容易く破壊したように見えただろう。
「オイオイ、マジかよ……」
日影は、自分がやってみせたことが、自分で信じられなかった。
そして日影が溶岩弾を打ち払った頃には、溶岩の雨は止んでいた。
「す……すまん、日影。助かった」
ともあれ、本堂を助けることはできた。
あとは北園に怪我を治してもらうだけ。
だが……。
「ゴオオオオオオオオ……」
ブラックマウントが二人に向かって顎を開いている。ブレスだ。
しかも既に発射体勢が整っている。
噴火攻撃をしている間に、ブレスの準備を終えていたのだろう。
「くそ、ダメだ、これじゃ本堂を運ぶ暇が無ぇ……!」
「どいてえええええええええ!!」
そう叫びながら日影と本堂の前に割って入ったのは、北園だ。
念動力のバリアーを張り、二人の盾になる。
「ゴアアアアアアアアアアッ!!」
ブラックマウントがブレスを吐いた。
ブレスは北園のバリアーに直撃し……。
「きゃあ!?」
「ぐえっ!?」
北園は衝撃で吹っ飛ばされ、後ろにいた日影のどてっ腹に激突。そのまま共に倒れ込む。
堅い地面と北園の身体にサンドされ、日影は肺の空気が全部出てしまいそうになる。
「あいたたた………ありがと! 日影くん! 受け止めてくれて!」
「いや、好きで受け止めたワケじゃ……げほっ……」
北園を見ると、随分とボロボロだ。治癒能力が使えるというのに。
恐らく、ブラックマウントの体当たりを受けた辺りから、怪我を回復できていないのだろう。怪我の回復より、日影たちの救援を優先してくれたのだ。
「……おかげで助かったぜ。本当に」
北園の下敷きになりながら、日影は小さい声で礼を言った。
「ん? 何か言った?」
「いや、別に……」
短く言葉を交わす日影と北園。
と、そこへ……。
「み、みんなー! 大丈夫ー!?」
「本堂さん!? 怪我したんですか!?」
シャオランと日向も駆け付けてきた。
そして日向は、北園の下敷きになっている日影を見るなり、声を上げる。
「あ、こら日影! なに北園さんとくっついてるんだ! 今すぐ離れろ!」
「好きでくっついてるワケじゃねぇ! むしろ被害者だこっちは!」
「うるせー! 自分と同じ顔の人間が女子とくっついてるだけで気まずくなるんだよこっちは!」
「どんだけ自分に自信が無ぇんだこのヘタレが!」
再び言い合いになりそうになるが、お互い「今はそんな場合ではない」と判断し、喧嘩を中断する。
「おい日向。何か、アイツに弱点はねぇのか?」
「え? 俺に聞くの?」
「お前しかいねぇだろ。狭山とは連絡がつかねぇし。北園と本堂の回復も必要だ。だが、これ以上時間をかけるのもキツイだろ? ……ブラックマウントもボロボロだ。決着をつけにかかるべきだ。違うか?」
「まぁ、確かにな。……ヤツの弱点だけど、一つ心当たりがある」
「へぇ? 言ってみろよ」
日向は日影に、ブラックマウントの弱点について説明する。
「ヤツの弱点は、”腹”だと思う」
「腹……。あぁ、なるほどな」
考えてみればその通りだ。
亀は柔らかい腹を守るために、頑丈な甲羅を背負っているのだから。
「……けど、オススメはできない」
日向が浮かない顔で日影に告げる。
ヤツの腹は弱点にはならないかもしれない、と。
「は? なんでだよ? 文句なしの弱点じゃねぇか」
「見てのとおり、ブラックマウントの腹下はかなり低く、人間じゃ潜り込めない。このままじゃヤツの腹を攻撃できない。ヤツをひっくり返すのも、あの巨体じゃ無理だ。だから、ヤツが腹を見せる攻撃を誘発する必要がある」
「腹を見せる攻撃……。あぁ、お前と北園を押し潰そうと倒れ込んできたアレか?」
「うん。あの攻撃の下で剣を構えて、腹をぶっ刺してやるのが、一番手っ取り早い方法だと思う」
「……んで、それのどこがオススメできないんだ?」
「ぶっ刺した後だよ。確かに俺たちは死なない。けど、潰された後、ヤツが俺たちの上から退いてくれなかったらどうなる? 下手すると、退いてくれるまでずっと潰されて死に続けることになるぞ。それがヤツへのトドメとなった日には、死んでも退いてもらえないぞ。あの巨体じゃ、重機でも使わなけりゃ退かすことはできないだろう。それまでずっと死に続け、”再生の炎”で身体を焼かれ続けるなんて、俺はゴメンだぞ?」
「なるほど。オレたちは死にはしないが、生き返ったところでどうにもならない『詰み』は存在する、というワケか」
日向の言うことに納得した日影は、言った。
「……それだけでいいのか?」
「『だけ』って、お前、やる気なのか!?」
「それで済むなら早い話だろ。ケガ人もいる以上、これ以上戦いを長引かせたくない。もちろんオレがぶっ刺す役で良いぜ。その後でヤツがまだ生きてたなら、トドメは任せる」
「お前………分かったよ、お前がそう言うなら」
「よっしゃ、なら作戦開始だ。シャオランも聞いてたな? オレと日向とお前でブラックマウントの気を引き、押し潰し攻撃を誘う。その間、北園と本堂は回復に専念しておけ。ヤツがオレの一撃に耐えたなら、後は任せる。んじゃ、行くぞ!」
「や、やだ! 怖い!」
「けど、ブラックマウントの奴、ずっとシャオランを見てるよ? さっき、顔面にガンガン攻撃を仕掛けたから怒ってるんじゃ……?」
「う……うわーん! もう当たって砕けろぉー!」
日影と、日向と、シャオランは、ブラックマウントに向かって駆け出す。
戦いは、いよいよ最終局面へと差し掛かった。
先日、初めて書いたこの作品で、初めてブックマークいただきました。16万字ほど書いて、初の快挙です。ありがたやー。
この場を借りて、初めてブックマーク登録してくれた方に感謝を!ありがとうございます!
……この後書き、読んでくれてるかなぁ?




