第60話 黒い火山、噴火
「……ああ、くそ! また死んだ!」
ブラックマウントに踏み潰された日向は、いつも通り身体を燃やしながら復活すると、すぐさま状況を確認する。
ブラックマウントと北園が正面から向かい合っている。
北園は両手に冷気を集中させているようだ。
ブラックマウントは顎を開き、それを北園に向けている。
(……あの構えは、ブレスじゃないか? ゲームで何となく見覚えがある。だとしたら、これはマズイ。ブラックマウントがどんなブレスを吐くかは、まだ分からない。けど吹雪でマモノのブレスを止めようというのは、無理があると思う!)
そう判断した日向は、咄嗟に北園に向かって叫んだ。
「北園さん! バリアーっ!!」
「え、あ、はい!」
日向の声に反応し、すぐさま北園は吹雪を解除。
両手で念動力のバリアーを張る。
「ゴアアアアアアアアッ!!」
それと同時に、ブラックマウントがブレスを吐き出した。
まるで溶岩の塊を吐き出したかのようなブレスだ。
バリアーとブレスは正面から激突し、大爆発が起こった。
「わ、きゃああああああ!?」
「き、北園さーん!?」
北園の悲鳴が聞こえ、日向は心配になり、思わず北園の名前を呼ぶ。
北園は爆発に吹き飛ばされ、元居た場所から後ろの方に転がっていた。多少、火傷や打撲が見られるものの、傷は浅い。バリアーは上手く機能したようだ。
「日影! 俺は北園さんを見てくる! 足止め頼んだ!」
「ちっ! さっさと戻って来いよ!」
日影に声をかけてから、日向は北園に駆け寄る。
北園も日向に向かって手を振っている。怪我は平気そうだ。
「北園さん、大丈夫!?」
「うん! ありがと! 助かったよ! 確かにあれは、私の吹雪じゃ勝てなかったかも!」
既に北園は、自身に治癒能力をかけており、怪我はすっかり治っていた。
北園を助け起こしてやると、背後から声が聞こえた。
「日向! ブラックマウントがお前の方を見てるぞ! 気を付けろ!」
本堂の声だ。
見れば、ブラックマウントがこちらを見据えている。
本堂やシャオラン、日影の攻撃を意にも介さず。
「グオオオ……!」
ブラックマウントが足を踏ん張り、身を引く。
「この動作も見覚えがある……けど、これはまさか……北園さん、逃げるぞ!」
「へ? へ!?」
日向は北園の手を取って、その場から離れようとする。
だが、もう遅かった。
「ゴアアアアアアアアアッ!!」
ブラックマウントの身体が宙に浮き、二人に向かって跳んでくる。
二人目掛けて跳躍してきたのだ。
その巨体で二人を押し潰すために。
「ぐあぁ!?」
「うっ!?」
すぐさまその場から離れた日向と北園は、なんとかブラックマウントの下敷きにならずに済んだ。しかし跳躍の勢いからは逃れられず、その堅い甲殻に跳ね飛ばされた。強烈な威力だ。大岩をぶつけられたようなものだ。
「う……ぐ……!」
身体がバラバラになりそうな衝撃を受けた日向。
それを打ち消すべく、”再生の炎”が彼を焼く。
熱さに悶え、その場でのたうち回る。
北園も、痛みのあまり動けないでいるようだ。
「ゴオオオオオオオオ……!」
ブラックマウントがその上体を持ち上げる。
今度こそ二人を押し潰すつもりだ。
日向はともかく、このままでは北園が危ない。
「く、おぉぉぉぉぉぉ!!」
腹から声を出し、力を振り絞る日向。
まだ”再生の炎”も消えぬ間に、日向は倒れている北園の襟首を掴み、ブラックマウントの攻撃範囲から離れようとする。
逃げる二人に黒い影がかかる。
ブラックマウントの身体が、二人に迫ってくる。
「ゴオオオオオオッ!!」
直後、巨岩が落ちて来たような轟音と激震が走った。
圧倒的重量で以て、二人を押し潰そうとしてきたブラックマウント。
その身体の外側に、二人はいた。
「あ……危なかった……」
安堵に包まれ、息を吐く日向。
目の前には、ブラックマウントの横顔がある。間一髪だった。
「……隙アリぃ!!」
目の前に横顔とか、攻撃しないワケないじゃん。
というワケで、日向は先ほどの仕返しを込めて思いっきり剣を振り下ろす。
「ガアアアアアアアッ!?」
ブラックマウントが悲鳴を上げる。効いているようだ。
「はぁぁぁぁぁ!!」
さらに二撃、三撃、四撃と、続けて顔面に叩き込む。
ブラックマウントはたまらず後退する。
「おっと、ケツがガラ空きだぜ!」
「ガアアアアアッ!?」
ブラックマウントが後退するその先から、追いかけてきた日影が斬りかかった。日影の剣を受け、再び悲鳴を上げるブラックマウント。
「ゴアアアアアアッ!」
「ぐっ!?」
しかしブラックマウントもすぐに体勢を立て直し、後ろ足で日影を蹴りつけ反撃する。足は日影の肩に引っかかっただけだったが、それでも日影はたまらず吹っ飛ばされる。
それにしてもこのブラックマウント、凄まじいタフネスである。日向と日影が持っている剣は『星の牙』によく効くというが、既に数えきれないくらいブラックマウントの身体を斬りつけている。その二人以外にも、他の皆も全力で攻撃しているというのに。
(くそ、何か弱点は無いのか? ブラックマウントは亀のマモノだ。亀の弱点と言えば…………そういえば、先ほどの動きは……)
日向がそんなことを考えていると、
「グウウウウウウウ……!」
突然、ブラックマウントが今までにない動きを見せる。
足を踏ん張り、身体が小刻みに震えている。
その動きは、何やら力んでいるようにも見える。
背中の、黒煙を噴き出している孔から、グツグツと音が聞こえてくる。
(……待て待て待て! 背中がグツグツってお前、まさか!?)
「ガアアアアアアアアアアアアッ!!!」
日向が声を上げるより早く、ブラックマウントがひと際大きな雄たけびを上げる。 瞬間、背中の孔から大量のマグマが噴き出した。
「な!? 噴火だと!?」
「あわわわわわわ!? こっちに降って来るよー!?」
本堂とシャオランが叫ぶ。
天高く昇ったマグマは、周囲にいる5人全員に向かって降り注いできた。
「き、北園さん! バリアーっ!!」
「は、はいっ!」
北園に指示を出す日向。
注文通り、北園は自身の上に向けてバリアーを張った。
そのバリアーにマグマが降り注ぎ、しかし弾かれる。
日向の予想通り、北園のバリアーはマグマから身を守る傘になり得るようだ。
日向自身もその傘に入れてもらうべく、北園に向かって走り寄る。
その途中、大量の溶岩が日向に向かって降り注いできた。
「ひえっ!? ひええ! ひえええええ!!」
悲鳴を上げながら一目散に逃げる日向。
(死なないくせにと思われるかもしれないが、だって溶岩だよ? ゲームや漫画じゃあるまいし、ちょっと腕や足にかかるだけでも間違いなく致命傷だよ? こちとらRPGの主人公じゃなくて、現実世界の高校生だよ? ゆえに、降り注ぐ溶岩弾とか、普通にめっちゃ怖いのよ。それに、あのマグマを受けて火傷したら、”再生の炎”はその火傷をさらに焼いて俺の傷を治療するだろうから。マグマの火傷を焼いて治すとか狂気の沙汰だと思うのよ俺は)
誰かに言い聞かせるように心の中でそう呟きながら、雨あられのように降ってくるマグマの中を駆ける日向。そして奇跡的にマグマを無傷で掻い潜り、日向は北園のバリアーに潜り込んだ。ここまで来たらもう安全だ。
「日向くん! 他の三人は!?」
「多分、俺たちの反対側だ! このままバリアーを張りながら移動しよう! みんなをこの中に避難させないと!」
「りょーかい!」
そして二人はバリアーを傘にして、移動を開始した。
残りの三人を助けるために。




