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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第3章 予知夢に集う者たち
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第57話 中国のマモノたち

 目の前にはトウテツと呼ばれたマモノ。

 対峙するはシャオランと日影。

 二人とトウテツは、互いに牽制するかのように睨み合い……。


「……あぁ、まだるっこしい! そっちから来ねぇのなら、こっちから行くぞぉ!」


「あ、ちょっとぉ!?」


 いきなりトウテツに向かって飛びかかる日影。

 剣から炎を発し、トウテツに斬りかかる。


「ガアアアアアアッ!!」


 トウテツも雄たけびを上げて日影に襲い掛かる。

 不気味なまでに白い牙を剥き出しにし、黒鉄のような爪を地に立てた。


「おるぁぁぁ!!」

「ガアアアアッ!?」


 真正面から激突する一人と一匹。

 日影はトウテツを斬りつけるが、彼も爪のカウンターを顔面に貰ってしまう。


「ちぃっ! まだまだぁ!!」

「グオオオオオッ!!」


 そのまま両者は取っ組み合い、地面を転がりまわる。

 剣で突き刺し、爪で引き裂き、牙で襲い掛かり、拳で殴る。


「ぐ……おぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「ガアアアアッ!? ガアアアアッ!!」


 燃える剣をその身に浴びて、トウテツの毛皮が炎上する。

 傷ついた日影の身体からも炎が噴き出し、両者はさらに燃え上がる。

 一人と一匹が、火だるまになって、それでもなお殺し合う。


 日影は、日向と瓜二つだが、その戦い方は全く違う。

 あれは”再生の炎”の回復能力にものを言わせた戦闘スタイル。

 自身の命を度外視した、捨て身の戦い方。

 それは確かに、物凄く強力な戦法だろう。

 結果としてヒカゲが死なないのであればなおさらだ。

 

 だが一つ心配なのは、日影の忍耐力だ。

 あのような、焼け死ぬのが前提の戦法、並の人間では精神が摩耗する。

 常人には到底、耐えられるものではないはずだ。


「め、メチャクチャだ……。とことん真正面からぶち当たって燃え尽きるような、なんて強引な戦い方……。と、とりあえずボクは様子見しとこ……」


 壮絶な死合に、シャオランは手を出しあぐねていた。


「ガアアアアアッ!!」


 トウテツの身体から、ビリビリと電気が迸る。


「あ、危ないよ! 電撃が来る!」

「そうらしいな! クソッ!」


 日影がトウテツから離れる。

 身体を燃やしながら、転げるように。

 直後、トウテツの身体から大量の電気が発生し、電撃の柱が立ち昇った。

 しかし、既にトウテツの近くから離れている日影には当たらない。


「グ……グゥ……」


 先ほどの日影との戦いでひどく消耗したのだろう。

 トウテツは既に虫の息だ。


「ご、ゴメンね!」


 そのトウテツにシャオランが歩み寄り、震脚を踏み、拳を縦に振り下ろす。

 トウテツの頭蓋が砕ける感触が、握りこぶしに響き渡る。

 そして、トウテツは地に倒れた。


「おっと、良いとこ取りされちまったか」


「い、いやあの、横取りするつもりは無くてさ、その、あんな戦い方、いくらなんでも危ないよ? だから、早く終わらせるべきだったかなって……お、怒ってるよね許してぇぇ!?」


「心配すんな、怒ってなんかいねぇよ。手伝ってくれてサンキューな」


「あ、う、うん、どういたしまして……?」


「それより、早くあっちの三人を手伝いに行こうぜ。えーと……シャオラン、だったな。よしよし、覚えたぜ」


(ヒューガの影……ヒカゲ、だっけ。思ったより怖くない人なのかな……?)


 昨日は日向に問答無用で襲い掛かっていたことといい、日影のことを根っからの苛烈な性格だと思っていたシャオランは、その日影が見せた穏やかさに、呆気に取られていた。



◆     ◆     ◆



 一方、こちらは日向たちとヨツデザルたちの戦闘だ。


「北園さん、発火能力パイロキネシスを使うなら、威力は抑えめで!ここじゃ周りの木に引火しかねないからね!」


「りょーかい!」


「む、来るぞ!」


 本堂の叫びと同時に、ヨツデザルたちが向かってくる。

 そのヨツデザルたちに向かって、北園が火球を、本堂が指電しでんを放つ。


「ギャッ!」

「ヴギャッ」

「ギャーッ!」


 七体のうち、二体が本堂の電撃を喰らい、転倒。

 一体が北園の火球を受け、絶命。

 残り四体が向かってくる。


「ウキャーッ!」


 先頭の一体が、日向に向かって飛びかかる。


「うぉぉぉぉぉ!」


 それに合わせ、日向も剣を横一文字に振り抜く。

 完璧なタイミング。刃はヨツデザルの身体を捉え………


「ウキッ!」

「なっ!?」


 ……られなかった。

 ヨツデザルは、迫る刃に器用に飛び乗り、日向の背後に跳んで行った。

 狙いは、日向の後ろにいる本堂だ。


「ウキャーッ!」


 跳んだヨツデザルが、四本の腕を振りかぶる。


「ふんっ!」

「ギャッ」


 だが、四本の腕が振り下ろされるより早く、本堂は軍用ナイフでヨツデザルの喉を一突き。そのまま地に突き刺すように、ヨツデザルにトドメを刺した。


「キキッ!」

「キーッ!」


 日向の周りには三体のヨツデザル。

 剣を振り回しているものの、ヨツデザルはすばしっこく、なかなか当てられない。

 それに、何度も言うが、日向の剣はかなり重い。何度も振り回していると、疲れて息が上がってくる。


「ウキッ!」

「やべ……!?」


 日向が疲れに気を取られた瞬間、背後からヨツデザルが飛びかかってくる。


「させない!」

「ギャーッ!?」


 その飛びかかってきたヨツデザルを、北園の火球が撃ち落した。


「ナイス北園さん!」

「どういたしまして!」


 さて、残りのヨツデザルは目の前にいる二体と、本堂の”指電”を喰らって転倒した二体で、残り四体。


 日向の目の前の二体は、日向を警戒しているのか、彼の目の前で前かがみになっている。


 チャンスだ。今が攻め時かもしれない。

 そう思って、日向がヨツデザル目掛けて駆け出すと……。


『待って、日向くん! 誘い込まれるな!』


「え!?」


 突然、狭山の通信が入った。

 しかしタイミングが、そして日向の反射神経が悪かった。

 日向が足を止めたのは、よりにもよってヨツデザルの目の前。

 その瞬間。


「ウキーッ!」

「うわっぷ!?」


 ヨツデザルは、地についていた腕を掬い上げるように振り上げ、日向に向かって土をかけてきた。土は見事、日向の顔面に命中する。


「ぐ、目に砂が……!」


 思わず怯む日向。

 その間に、二匹のヨツデザルのうち、一匹が日向の後ろを通り抜け、北園に迫っていく。


「うわ、こっちに来る!?」

「させるものか」


 慌てる北園の間に、本堂が割って入る。


「ウキャーッ!」


 本堂に飛びかかるヨツデザル。

 叫び声を上げ、爪を振り上げる。


「”指電”」

「ギャッ」


 それを本堂は、指パッチンで発射した電撃で冷静に撃ち落す。

 電撃は、見事にヨツデザルに直撃した。


「じゃあな」


 そして、地面に落ちたヨツデザルの心臓を一突き。トドメを刺した。

 ナイフを持ってからというものの、本堂の強さがさらに高まっている。

 一方、日向は……。


「ウキーッ!」

「痛ってぇ!?」


 砂で目が見えない間、やりたい放題やられていた。


 ヨツデザルの爪が日向の脚を切り裂く。

 日向はたまらず膝をついてしまう。


「ぐ、うぅぅ……」


 そして”再生の炎”が傷口を焼く。

 その間にもヨツデザルは日向を狙っている。


『日向くん、剣を突き出して!』

「ウキャーッ!」

「……!」


 まだ目は見えない。

 視界が土と涙で(にじ)んでいる。


 しかし、狭山の通信が聞こえ、ヨツデザルの咆哮が耳に入り、日向は状況を反射的に理解できた。言われるがままに、前方に思いっきり剣を突き出す。


「ギャッ」


 と、あっけない断末魔をあげ、ヨツデザルは絶命した。

 日向が突き出した剣に貫かれたのだ。


 ヨツデザルは、残り二体。


「……む? 残りはどこに行った?」


 本堂が疑問符を浮かべる。

 本堂の電撃を受け、先ほどまで倒れていたはずのヨツデザル二体が、そこにいない。



「ホンドー! 上だ!」


 向こうからシャオランの声が聞こえる。

 瞬間。


「キキーッ!」

「ウキャーッ!」

「くっ!?」


 ヨツデザルたちが、木の上から本堂に飛びかかってきた。

 計八本の腕が、本堂をガッシリと捕まえ拘束する。

 だが……。


「相手が悪かったな。……おぉぉぉぉ!!」


 本堂が雄たけびを上げる。

 すると、身体から電気が迸る。


「ギャーッ!?」

「ヴギーッ!?」


 ヨツデザルたちが、痙攣しながら地に落ちる。

 そこに本堂がナイフを突き立て、トドメを刺した。


「別に指や腕からじゃなく、全身から放電できるんだよ、俺は」


 ナイフについた血を拭き取りながら、絶命したヨツデザルたちに無表情で言い放つ本堂。その風格は、もはや殺し屋のそれであった。



◆     ◆     ◆



 その一方で、峨眉山中腹、通信車内では。


「あ。」


 狭山が小さな悲鳴を上げた。


 本堂の通信が途絶え、生命反応が消失し、彼の視界からの映像が真っ黒になった。本堂が身に着けていた通信機器が、全て壊れたらしい。原因は、本堂の全身放電だ。


「……参ったなぁ。あの装備、高かったんだけどなぁ。……各種装置の絶縁化が必要だなぁ。また仕事が増えたなぁ……」


 狭山は一人、力無く呟いた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 日影くんの捨て身の戦いがすごいっ!!カッコイイ!! そのあとシャオランくんがトウテツ倒すときにごめんねって言ってるのが優しいなぁ、と改めて思いました。゜(゜´ω`゜)゜。いい子や〜。 狭山…
2021/11/13 08:32 退会済み
管理
[良い点] 本堂さんのキャラがどんどんすごいことに…… 日向くん……いいところなかったね。
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