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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第3章 予知夢に集う者たち
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第49話 日影

 日向の影は、自身のことを”日影(ヒカゲ)”と名乗った。

 日向が空から降ってきた謎の剣を手にしたことで実体化した、日向自身の影。

 それが、日向とはまた違った自意識を獲得して、独立している。


 日影は、なぜか日向と同じ剣を持っているが、その理由は単純。

 あの日実体化したのは「剣を持った」日向の影だった。

 だから彼は、影として映った剣ごと実体化したのだ。


「……日向。コイツが、お前の言っていた『影』なのか?」


「恐らくは。コイツの言うことを信じるなら、ですけど」


 本堂の問いに答え、日向は日影を見る。

 彼には聞きたいことが山ほどある。


「なぁ。えーと、日影」


「あん? 何だ、日向?」


 日影が睨みつけるように日向を見る。

 その顔は日向と全く同じはずなのに、随分と迫力がある。

 

(俺、そんな顔できるのか……)


 内心びくびくしながら、負けじと日向は話を続ける。


「あー、えと、お前に聞きたいことがある」


「いいぜ、答えてやる。答えられることならな」


「ええと、まず、お前は、俺がこの剣を手にしたから現れたんだよな?」


 日向は手に持っている剣を見せる。

 あの日裏山に降ってきた、幅広で刀身に厚みがある謎の剣を。


「そうだな。その通りだ」


「やっぱり。……それで、この剣は一体何なんだ?」


「知らねぇ」


 スッパリと言い放つ日影。

 日向は負けじと食い下がる。


「知らないってことはないだろ? お前はこの剣から生まれたようなモンなんだぞ?」


「じゃあ逆に聞かせてもらうけどよ。オレの生みの親がその剣だとして、お前の生みの親はお前の母親だよな」


「まぁ、そうだな」


「お前、生まれた時から自分の母親のこと、何もかも知ってるのか?」


「それは……知らないけど、そういうことなの?」


「そういうことだ」


 ぶっきらぼうに言い放つ日影。

 やや悔しい思いが沸き上がる日向。


「それに、オレはあくまでお前の影だ。その剣の力でお前から離れたワケであって、別にその剣から生まれたワケじゃねぇぞ」


「そうなのか……何か分かると思ったんだけどなぁ」


 今度こそこの剣について何かわかるかもしれない。

 そう期待していただけに、思わずうなだれてしまう日向。


「まぁまぁ、元気出して」と北園が肩を叩く。

「収穫無しか」と呟く本堂。

 

「………まぁ、少しだけなら、分からなくもない」


 そんな三人の様子を見かねたのか、バツが悪そうに日影が言葉を続けた。


「この剣に関してオレが初めから詳しく分かっていたのは、『剣を手にしたものの影を実体化させる能力』、つまりオレ自身に関わることだけだ。自分のことは本能で分かるんだろうな。それ以外の、怪我を治す炎とか、剣を呼び寄せる能力、剣から炎を出す能力は、全て手探りで発見した」


「そこまでは俺と同じだな。新しい能力もなさそうだ」


「ああ。それでここからが多分、お前の知らない情報だ」


 日影は続けて語る。


「お前は今、鏡とかに映らないだろ?」


「そうだな。映らない」


「それは影であるオレが、お前から離れたからだ」


「え? そうなの?」


「ああ。影っていうのは、身体が光を受け、光を遮ることで生まれるものだ。んで、鏡っていうのは物体から反射した光を受けることで像を映す。両方とも光の産物だ。影であるオレがお前から消えて、お前に影が生まれなくなった以上、鏡にも映らなくなるのは当然なんだよ。お前は今、光から何も影響を受けない存在だと思え」


「うーん……何となく分かったような、やっぱり分からないような」


「……まぁ、普通じゃ有り得ない現象だ。理解するより、慣れろ」

 

 頭を掻きながら、日影が続ける。


「それで、影そのものであるオレは、鏡に映る。オレは光によって生まれる存在だから、光の影響はモロに受ける」


「マジかよずるいな」


「まぁ、影が無いのはお互い様だ。オレはオレ自身が影だから、オレの影が映っちまうとオレが増えちまうってことになるからな」


 そう言って、日影は皮肉っぽい笑みを浮かべてみせる。

 言われてみれば、日影ヒカゲにも影は無いようだ。

 なかなかどうして気づかないものである。


 日向と日影がやり取りを交わす一方で。

 リンファがシャオランに声をかける。


「ねぇシャオシャオ。彼らは一体何を話してるの? 鏡に映らないって……。それに、なんで彼らには影が無いの? 幽霊なの?」


「そこはちょっと長くなるから、後でボクが説明するね。あとシャオシャオはやめてね」


 リンファに至っては、話の全貌が理解できていない。

 話の内容が超常すぎるので、無理もないが。


 日向と日影のやり取りは続く。


「それと、オレの記憶は、お前から分離された時点でのお前の記憶を引き継いでいる。オレは生まれたばかりではあるが、お前が知っている一般常識なら頭に入っている」


「あー、それじゃあ、さっきからお前が『マモノ』のことを『化け物』って言ってるのは……」


「お前がその、マモノ?とかいう知識を、オレが分離した後に知ったからだろうな」


 日向の問いに答える日影。

 日向は、次の質問を投げかける。


「なぁ。なんであの裏山で俺に襲い掛かって来たんだ?」


「あぁ、あれか? テメェを見てたらムカついてきたからだよ」


「…………。」


 たったそれだけの理由で襲い掛かって来たのか、と呆気に取られる日向。目の前の自分ヒカゲが敵なのか味方なのか分からなくなる。


 だがしかし、日向にとっては、日影の言うことが完全に理解できないワケではない。なぜなら、日向もまた、日影には何か心の中で引っかかるモノがあるからだ。

 

(……正直に言って、俺は自分が大嫌いだ。そして、日影コイツは、俺だ)


 振り返って見ると、日影は日向に対してのみ、当たりが強いように見える。他の皆には割とフレンドリーな口調だが、日向には粗暴な口調をぶつけてくる


 そして逆に、日向も日影には強く当たっているように見える。普段は誰に対しても遠慮がちな物腰の彼が、日影に対してはやたらと強気に出る。

 

(そして、俺はそれで構わないと感じている節がある。それは、やっぱり日影(コイツ)が俺だからなのだろうか。 自分のことが嫌いな俺は、日影(コイツ)まで嫌っているのだろうか? 出会ったばかりの日影コイツを。嫌っているから、そういう態度が取れるのか……?)


 自分でもよく分からない負の感情に、日向は表情を曇らせる。

 そんな日向を見てか、日影が話を続ける。


「良い表情してるじゃねぇか。敵意って奴を感じるぜ。そんなテメェに、もっとオレをぶっ倒したくなるとっておきの情報をくれてやるよ」


「と、とっておきの情報?」


 問いかける日向に、日影は言葉を続ける。

 相も変わらず、不敵な笑みを浮かべながら。



「このままいくと、お前は俺に取って代わられて死ぬ」


「………は?」


 突然の死の宣告。



 聞かされた日向は、完全に固まった。

 見れば周りの四人も、同じく目を見開いている。

 流石のリンファも、「死」という単語に反応したようだ。


「お前、それはどういう……」


「言葉通りの意味だ。このままオレとお前が分離したままだと、お前はいずれオレの影になり、オレが新しい『日下部日向』として成り代わる」


「そんな、なんで……?」


「オレも不本意なんだがな、これはその剣の力だ」


「この剣の……?」


 日向は手に持つ剣を見つめる。

 これまで、何だかんだで日向を助けてくれた、マモノ殺しの剣。

 それが今では、日向の命を奪おうとしている魔剣だという。


「なんでそんなふざけた能力がついているのかは、オレにも分からんがね」


 自分の存在を奪う、もう一人の自分。

 まるでドッペルゲンガーだ。


「……対処法は?」


 日向は日影に問う。


「オレを殺すしかない」


「方法は? どうせお前も、殺しても死なないんだろ?」


「この剣の再生能力は、所有者が望めばその機能を停止し、完全な死を迎えさせることもできるらしい。つまり、オレを殺すには、オレに『死にたい』と思わせるしかない。だがオレだってせっかく手に入れた人生をみすみす手放すなんて嫌だね」


「い、生きるのが嫌になるまで殺しまくれってことか……」


 げんなりとした表情で呟く日向。

 二人がやり取りを交わしていると、本堂が日影に話しかけてきた。


「横から失礼する。例えば、その剣を破壊するのはどうだ。その呪いのような力も、その剣の仕業なら、その剣を破壊できれば止められるのでは?」


 本堂の意見を聞いた日影。

 しかし、彼は首を横に振る。


「残念ながら、この剣を破壊しても止まるのは再生能力だけだ。オレは残ったままだし、日向コイツが消滅するのは変わらない。それどころか、奇妙な話だが、日向コイツの存在を保っているのはこの剣のおかげなんだ」


「この剣が俺を消そうとしてるのに、その剣が俺を生かしてるのか?」


「そういうことだ。だから、この剣を破壊するとタイムリミットが一気に縮まって、お前はすぐ消滅することになる」


「あ、絶対ダメなやつだ。この剣を破壊するの絶対ダメなやつだ」


 日影の話を聞き、日向は思い出す。

 このふざけた剣を叩き折ってやろうと何回か思ったことを。


(あれって盛大な自殺行為だったんだなぁ。危なかった……)


 ところで、今、日影は「タイムリミット」と言ったが、日向がどれだけ存在を保てるのか彼は知っているのだろうか。そう思い、日向は尋ねてみることにした。


「俺が消滅するまでの期間は?」


「正確には分からねぇ。なんとなくだが、まぁ一年くらいじゃねぇか?」


「一年……」


 日向の余命は、残りおよそ一年。

 確かに猶予はあるが、言い換えればあとたった一年余りの命だ。

 それまでに日影を倒さないと、日向は消滅する。


 日向と日影。

 彼らの決着は、避けては通れぬ運命なのかもしれない。



「せいぜい、その時に備えておくこったな。オレは容赦しねぇからな?」


 日影が再三、不敵に笑う。

 なるほどな、と日向は思った。


(北園さんの予知夢のとおりだ。

 コイツは確かに、俺にとって逃れられない宿敵だ)

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― 新着の感想 ―
[良い点] いや~。逃れられない運命! ほんとこの先二人はどうなるの~? マモノより気になっちゃいます! 自分は日向君の方が好きですけどね~。
[良い点] わぁぁ!すごくシリアスな展開になってきましたね(>_<) もう一人の自分とデスバトルなんて、胸熱な展開すぎる……! あとリンファちゃんのシャオシャオ呼び、めちゃくちゃ可愛いですねー♡ 私も…
2021/09/05 14:30 退会済み
管理
[良い点] うわあ……日影くん出てきたと思ったら、なにやらヤバい運命なんですね。どうか不幸な結末になりませんように!! [気になる点] ボスきのこしぶとかったですね(汗) [一言] 個人的には、日影く…
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