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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第3章 予知夢に集う者たち
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第48話 病が去って

 日向とシャオランは先の特殊部隊に連れられ、武功寺からふもとの町へと戻るため、あの地獄の石段を下りているところだ。

 ちなみに、日向たちに威嚇射撃を行ったあの特殊部隊は、中国におけるマモノ討伐チームらしい。


 シャオランのキノコ病はすっかり良くなっていた。

 拳のキノコは枯れ落ち、一本たりとも残っていない。


「はひぃ、はひぃ、疲れた……」


「頑張れヒューガ。あと半分くらいだよ」


「ホントに根性無ぇなぁ、こっちのオレは」


 自身を罵倒する声にムッとして、日向は声の主を見やる。


「だいたい、なんでお前が付いて来てるんだよ!?」


 武功寺で戦った日向の影が、日向たちについて来ていた。

 影は、不敵に微笑みながら日向の問いに答える。


「影は身体についてくるもんだろ?」


「そういうことを聞いてるんじゃなーい!」


「あわわわ、二人とも落ち着いて……」


 シャオランの静止も聞かず、睨み合う二人。

 

 さっきは本気で殺し合った間柄にも関わらず、影は何事も無かったかのような顔をしてついて来る。日向はそんな影を見て、「どこかのゲームにはこんな性格のキャラクターがいたような気もする」と感じた。しかし、「現実にいたら頭おかしいとしか思えない」ということが身に染みて分かった。


 そんなことを考える日向に、影が話を続ける。


「実際問題、オレだって中国(こっち)に来たくて来たわけじゃないんだ。お前らについて行けば日本に帰れるかもしれないだろ?」


「日本までついてくる気満々かよ……」


「なんだ、げんなりして。そんなに嬉しいのか?」


「一ミリでも嬉しそうに見えるのなら眼科行け」


 やり取りを交わす二人に、列の前にいた男性がこちらに近づいてくる。

 その男は、狭山誠さやままことだ。


「やぁやぁ。楽しそうな話をしてるね?」


「一ミリでも楽しそうに聞こえるのなら耳鼻科行ってください」


「違うのかい? 双方とも遠慮の無い、仲の良さそうな会話にも聞こえるけど?」


「勘弁してください……」


 微笑みながら冗句を飛ばしてくる狭山に、日向は呆れた表情を見せる。


(この人の名前は狭山 誠(さやま まこと)さん。日本のマモノ対策室の室長で、以前会った倉間さんのボスらしい。なんでも、俺たちを追って中国まで飛んできたとか。行動力の塊かよこの人)


 狭山を横目で見ながら、情報を整理する日向。

 そんな日向に、当人の狭山が話しかけてきた。


「それで、君が日下部日向(くさかべひゅうが)くんで間違いないよね?」


 柔らかい微笑みを浮かべながら質問する狭山。政府の特務機関のトップという重苦しい肩書とは裏腹に、彼の物腰は実に柔らかで、フレンドリーだ。


「はい。合ってます。日下部日向です」


「それで、そっちの君は……」


「えっと、ボクは石暁然(シーシャオラン)っていいます……」


「シャオランくん、だね。それで、そこの君が……」


 狭山さんは、日向の影を見る。

 影も、横目で狭山を見やる。


「君は……日向くんの双子の兄弟かな?」


「いや違うぜ。けど、兄弟か。そう言う設定もアリかもな。そんじゃ、日向テメェが弟な」


「なんでやねん! 俺の方が16歳年上だろ! お前、生後何日だよ!」


 再び二人の言い合いが始まる。

 言い合う二人を、シャオランと狭山が呆れた表情で眺める。


「……やっぱり仲が良いのかな、このふたり?」


「喧嘩するほど、って奴かもね?」


 その後、とりあえず日向と影の言い合いは治まる。

 終始、日向が影に飄々(ひょうひょう)と受け流されていたばかりだった。


(ううむ、どうにもコイツ相手だと調子を狂わされる気がする。普段なら多少腹が立っても、こんなに他人に突っかかることはしないはずなのに……)


 言い知れぬ自身の違和感に、怪訝な表情を浮かべる日向。

 そんな日向に、狭山が話しかける。

 

「……あ、そういえば、診療所にいる君のお友達、どうやら快復したみたいだよ」


「え!? キノコ病が治ったんですか!? キノコ病の蔓延が止まっただけじゃなくて!?」


「うん。君が『星の牙』を倒してくれたおかげだ」


「『星の牙』を……? 俺がボスマニッシュを倒したから?」


「そうらしい。病を振り撒く『星の牙』は、そいつを倒せば振り撒かれた病も消える。これは他の『星の牙』が天候を操ったり自然災害を起こすのと同じく、詳細不明の超常的な力が働いている、と自分は考えているけどね」


 言いながら、狭山は日向の肩に手を回す。

 回された手に気を取られる日向を置いて、狭山は話を続ける。


「『星の牙』の特殊な能力に関して、まだ解明はできていない。そもそも、現代科学で解明することはできないかもしれない。君の友達、北園さんや本堂くんの異能力のようにね。……これはあまり他言しないようにお願いするよ。お上には、全力で解明を急いでいるって言っちゃってるんだ。ははは」


「わ、分かりました」


 いたずらっぽく片目を閉じ、口に人差し指を当てて「内緒だよ?」と告げる狭山に対し、日向は戸惑いながらも返事をした。


(マモノ対策室の室長と聞いたから、大層お堅い人かと思ってたけど、その実、気さくなお兄さんって感じの人だなぁ……)



 日向と狭山が会話を交わしている内に、石段が終わりを迎える。

 日向たちは無事に、ふもとの町に戻ってきた。


「さて、君たちとはまだまだ色々と話をしたいけれど、まずは事後処理だ。積もる話は落ち着いてからにしよう。君たちも、元気になった友達に会っておいで」


「分かりました」


 日向は頷き、狭山と別れた。

 そのままシャオランと影を連れて診療所に向かう。


 診療所には、元気になった人たちが入り口前でたむろしていた。

 家族とともに快復を喜び合う人、何やらスマホで電話をかけている人、対マモノ部隊の人も混じっていて、さながら大都会の人集(ひとだか)りである。


 その人ごみの中に、見知った顔を見つけた。


「あ、日向くん! ほら見て! すっかり良くなったよ!」

「日向! 『星の牙』と戦ったと聞いたが、大丈夫だったか?」

「あ、おにいちゃん! ほらみて! びょーきよくなった!」

「ハオラン! 良かった! 元気になったんだね!」

「ちょっとシャオシャオ! 弟くんも良いけど、こっちも心配してよ!」

「シャオシャオって言うな!」

「あれ? そっちの人、日向くんとそっくり……?」

「ん、お前が北園か。へぇ、可愛いな」

「へ!? いきなり何!?」

「日向。そっちの中国人の子供は知り合いか? 俺たちが倒れている間に何が……」


「ええーい!! みんな落ち着けー!! いっぺんに話すなー!!」


 皆がみな、好き放題に会話するので、もうごちゃごちゃである。

 日向は叫び、いったん皆を落ち着かせることにした。




◆     ◆     ◆




 なんとか皆は落ち着き、今は順番に自己紹介をしているところだ。

 現在はシャオランの番で、ちょうど自己紹介が終わった。


「……練気法とはな。世の中には凄い奴がいるものだ」


 シャオランの自己紹介を聞いた本堂が呟く。

 シャオランはいつものように「まぁ、鍛えてるから……」と言って、はにかむように微笑んだ。


「……次は私ね?」


 リンファが口を開いた。


「アタシは江 凛風(ジャン リンファ)! シャオシャオと同じ、武功寺の門下生よ!

 流派は八卦掌(はっけしょう)! よろしくね!」


「だーかーら! シャオシャオって言うな!」


 リンファもまた、流暢(りゅうちょう)な日本語で自己紹介をした。

 なぜこの二人はこんなにも日本語が上手いのか。

 そしてシャオランは、リンファに抗議の声を上げている。

 彼にしては珍しく、その声は力強い。


「そういえば、シャオシャオって何だ? シャオランのあだ名なんだろうけど」


 日向はリンファに尋ねた。


「あぁ、それはね。シャオって中国語で”小さい”って意味なの。それでシャオランの名前とくっつけて”小暁(シャオシャオ)”。こいつにピッタリでしょ?」


「もーリンファは! 叩かれないと分からないのかなぁ!? 裡門頂肘(りもんちょうちゅう)いっとく!?」


 裡門頂肘(りもんちょうちゅう)

 震脚で踏み込み、下から上へ肘を打ち上げる技。

 格闘ゲームでもお馴染みだ。

 一つ言っておくと、女子に喰らわせていい技ではない。

 ましてやシャオランの一撃など。


「あら、()るの? アタシは構わないわよ?」


「本当にいいの? この間の組み手で、ボクの掌底一発で降参したのは誰だっけ?」


「あ、あれはちょっと油断しただけよ! ギリギリで(かわ)して、顔面に一発入れるつもりだったんだから!」


 シャオラン、リンファの中華組が言い合いを始めてしまう。

 とはいえ、その雰囲気は『気心知れた友達との口喧嘩』といった感じだ。


 日向と北園は、呆れた風に互いに目線を合わせる。

 本堂は、ただ無表情でシャオランたちのやり取りを観察。


(仲良いな)

(仲良いね)

(早くいやらしい展開になれ)

(アンタは何を言ってるんだ)


 日向たち日本組は、小声で二人に野次を投げる。



「……おーい。そろそろオレの自己紹介をしてぇんだが? 夫婦喧嘩は後にしてくれねぇか?」


 小声で野次を投げた日向たちとは対照的に、影は思ったことそのまま口にした。これにはシャオランが大いに動揺。


「夫婦!? そ、そんな、ボクとリンファはそんな関係じゃ……」


「ええ。全然そんなことないわよ?」


「…………。」


 分かりやすいくらい慌てふためくシャオランに対し、リンファはあっけらかんと言ってのけた。軽くあしらわれてしまったシャオランは、すごく抗議したそうな目でリンファを見やる。


「……あー、オレの自己紹介は……」


「ああ、ゴメンなさい。こっちの話は終わったから。さ、どうぞ」


 リンファが影に順番を促す。

 シャオランは、まだ納得していない様子だったが。

 

「よっしゃ。やっと出番だぜ」


 日向の影は、一つ深呼吸をすると、口を開いた。



「オレは日向(コイツ)の影。

 名前は……”日影(ヒカゲ)”って呼んでくれ。

 ワケわからない存在だとは思うが、そこは今から説明する。

 まぁなんだ、とりあえず、よろしくな、お前ら」



 日下部日向より分かたれた影、日影ヒカゲ

 彼こそ、この英雄譚におけるもう一人の主人公である。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ついに日影の秘密が! [気になる点] なんで中国にいたんただろう?
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