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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第3章 予知夢に集う者たち
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第44話 ボスマニッシュ

 その色合いや雰囲気は、今までに見たマニッシュに似ている。

 スタンダードなキノコを思わせる造形に、赤い傘。


 しかしその体躯は、マニッシュの比では無い大きさだ。

 下手な家より大きいかもしれない。


 マニッシュには目や腕が無く、生えているのは足だけだったが、目の前のマモノは違う。左右にキノコの両腕を持っている。その腕の先端は、頭部と同じく赤いキノコの傘だ。


 足は無い。広場の石畳を突き破って、そこから生えているようだ。また、顔と思われる部分には鋭い眼光を放つ目を持っている。


 日向は、遠巻きにそのマモノを観察する。


「これが武功寺に現れた『星の牙』か。マニッシュの要素が見て取れるから、『ボスマニッシュ』と名付けよう……いや、やっぱりどうしよう? たしかにキノコ型のマモノだけど、マニッシュとは造形が随分と違うぞ。顔も怖いし、かわいくない」


「じゃあ頑張ってねヒューガ! ボクは応援してるから!」


 一方のシャオランは、すでにどうしようもないほど逃げ腰である。ご丁寧に『地の練気法』まで使い、防御も固めているようだ。シャオランの身体から、かろうじてだが、砂色のオーラが漂っているように見える。これが彼の身体に満ちた『気』というものなのだろうか。


「そこまで準備してくれたら、ちょっとくらい殴ってくれればいいのに」


「やだ! 近づきたくない! 怖い!」


「わかったわかった。じゃ、行ってくる!」


 そして日向は、ボスマニッシュに向かって走り出した。

 ボスマニッシュは右腕を振り上げ、日向めがけて叩きつけてきた。


「おっと!」


 日向は横っ飛びでボスマニッシュの右拳を避ける。

 そのままボスマニッシュの右に回り込み、斬りかかろうとする。

 しかし……。


「フシュウウウウウウ!!」

「うおお!?」


 ボスマニッシュは日向に向き直り、右腕、左腕と、交互に叩きつけてくる。これではとても近づけそうにない。



「隙ありっ! 石ころ喰らえっ!」


 ボスマニッシュを挟んで反対側から、シャオランが落ちている石を拾って、ボスマニッシュに投げつける。シャオランの尋常ならざる膂力から放たれた石ころは、プロ野球選手も真っ青な剛速球と化す。


 しかしボスマニッシュはシャオランに見向きもせず、日向に攻撃を続ける。石ころはあまり効いていないらしい。


 一方、日向は、拳を叩きつけ続けるボスマニッシュに近づけないでいる。


「これは、ちょっと下がるしかないな……!」


 広場の石畳から生えているボスマニッシュは、身体が固定されていてその場から動けない。だから日向が少し距離を取れば、ボスマニッシュの拳が当たることは無い。


「シュウウウウウウウウ……」


 と、その時だ。

 ボスマニッシュが右拳を日向に向ける。

 その右拳の傘が、ムクムクと膨らんでいく。

 

「な、何か仕掛けてくる気か!?」


「フシュウウウウウウ!!」


 ボスマニッシュの雄たけびと共に、右拳から粉状の何かが勢いよく噴き出てきた。


「うわっぷ!?」


 避けきれず、日向はそれをモロに受けてしまう。

 すると……。


「うわ、うわわわわ!? き、キノコが!?」


 日向の身体からキノコが生えてきた。キノコ病だ。

 先ほどボスマニッシュが飛ばしてきたのは、キノコ病を発症させる胞子だ。



 そして、体中から生えてきたキノコが、次々と燃え始める。

 ”再生の炎”が、日向の身体に生えたキノコを除去しにかかっている。


「う、ぐあああああああああああ!?」


 キノコは日向と痛覚が繋がっている。

 身体が火だるまになる激痛に、日向は耐え兼ねのたうち回る。


「フシュウウウウウウ……」


 ボスマニッシュが、再び日向に向かって右拳を向ける。胞子攻撃だ。

 

(マズい……。確かに俺にキノコ病は効かないけど、発症するたびに身体を焼かれてたら頭がおかしくなりそうだ……!)


 日向は何とかその場から離れようとするが、”再生の炎”は未だに彼の身体を焼いており、まともに動くことができない。このままでは、もう一度あの胞子を喰らってしまう。


 ……と、そこへ……。


「うわああああああしょうがないなぁもおおおおおお!!」


 その叫び声と共に、シャオランがボスマニッシュに駆け寄る。

 日向に気を取られているボスマニッシュは、シャオランの接近を意に介していない。


「……ふッ!」


 シャオランが震脚を踏む。

 ズン、という音が響く。

 シャオランとはだいぶ距離が離れているのに、地面を踏みつけた振動が日向にも伝わる。


 震脚を踏んだシャオランは身体を屈め、そのまま逆を向くように体勢を変え……。


「……はぁッ!!」


 その背中をボスマニッシュに叩きつける。

 自動車でもぶつかったかのような衝撃音が鳴り響いた。


「で、出た! 鉄山靠(てつざんこう)!」


 日向が、興奮した様子で叫ぶ。


 鉄山靠(てつざんこう)

 八極拳の代表的とも言える技で、震脚と共に肩や背中を相手にぶつける技だ。


 ちなみに、肩や背中でぶつかりに行けば大体は鉄山靠(てつざんこう)と見なされる。そのため、同じ鉄山靠でありながら動きが大きく違うものも珍しくない。今、シャオランが放ったものも、一般的なそれとはやや(タイプ)が違うものだ。


 恐らくあれがシャオランの最も得意とする技なのだろう。

 今までの技の中で段違いの威力を持っていることが分かる。

 その証拠に、あのボスマニッシュの巨体が、シャオランの攻撃を受けてくの字に曲がる。


「シュウウウウウウウ!?」


 ボスマニッシュが、驚愕と苦悶の声を上げる。


「……はぁぁぁッ!!」


 シャオランの攻撃は止まらない。

 素早くボスマニッシュに向き直ると、左の掌底、右の肘をぶつけ、左右の飛び蹴り、震脚、両腕を、扇を開くように振り下ろし掌底を叩き付け、下からすくい上げるように右の拳を叩き込む。


 その一撃一撃が、まるでハンマーで殴りつけたかのような殴打音を響かせる。

 その一撃一撃が、家ほどもあるボスマニッシュを大きく怯ませる。

 控えめに言って、生身の人間の攻撃力ではない。


「グウウウウウウウウ……」


 シャオランの猛打を受け、地面に腕をつき、うなだれるボスマニッシュ。


「これは、効いてるぞ! やっちまえシャオラン!」


 日向がシャオランに声をかける。

 しかしシャオランは、そこでボスマニッシュから距離を取った。


「え? なんで?」


 思わず目を丸くしてしまう日向。

 しかしその理由はすぐに分かった。



「しゃ、シャオラン、その拳は……!?」


「ああ……もう駄目だぁ……死んだぁ……」


 涙目になり、絶望しながら呟くシャオラン。

 彼の拳から、びっしりと小さなキノコが生えているのだ。

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― 新着の感想 ―
アークマニッシュでもいいかも? 悪と首位のアークをかけて、な感じで。 そしてシャオラァン(;゜Д゜) おみゃーの前世はカメなのか!?(;゜Д゜) でもって状況が悪くなったら……もしやキレちゃった?…
[良い点] シャオラン~! さっきまで、怒涛の攻撃を見せてたのに、ここでまさかの弱気! おねいさん方は、そこがいいの~!? [一言] 全体を通してですが、誤字脱字報告、直してるのは、あくまで参考程度に…
[良い点] で、出たー!鉄山靠!! あの小柄なシャオランくんが繰り出す様子を想像すると、すごくカッコイイですね(*´Д`*) その後の攻撃も華麗でまさに神回……!(みんな神回ですが)でもついにシャオラ…
2021/08/06 18:45 退会済み
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