第378話 兵士たちの底力
日向は、バズーカウルフに狙われていたシールド兵を守り、砲弾の爆発に巻き込まれて負傷した。自身が守り抜いたシールド兵のすぐ後ろに転がる。
「えっ!? だ、大丈夫かい、キミ!?」
「う……ぐぁ……」
日向の胴体が、血と焦げ跡で汚れている。やはりバズーカの直撃を完全に防御することはできなかったようだ。意識も朦朧としている。だが、その身体からは火が噴き出して、すでに再生を始めている。
「と、とにかくこの子を後ろに下げないと……!」
「ガウッ!」
「くっ!? さっきのバズーカウルフ……!」
日向を後方に運ぼうとしたシールド兵に、先ほど日向を吹っ飛ばしたバズーカウルフが襲い掛かってきた。バズーカウルフのバズーカ砲は単発式で、一発撃つとバズーカウルフは肉弾戦に切り替えてくる。
「駄目だ、逃げきれない! 迎え撃たないと!」
「ぬおりゃあっ!!」
「ギャンッ!?」
「え……あ、シチェク!」
シールド兵に飛びかかってきたバズーカウルフを、大柄なロシア兵のシチェクが、構えた盾でタックルを仕掛けて吹っ飛ばした。バズーカウルフは床に転がされる。
「シチェク! 右からアーマーウルフも来てる!」
「分かっとるわい! どっせい!」
「ギャンッ!?」
シチェクは、右から飛びかかってきたアーマーウルフにも素早く反応。右腕で構えていた盾でアッパーを繰り出して、アーマーウルフをぶっ飛ばした。先ほどのバズーカウルフの上に、アーマーウルフが落下する。
「そして、これでトドメだ犬コロどもぉ!」
シチェクが、背負っていたロケットランチャーを取り出す。
躊躇いなく、床に倒れていた二体のマーシナリーウルフたちに撃ちこんだ。
「グギャアッ!?」
「ギャアンッ!?」
ランチャーの直撃を受けて、マーシナリーウルフたちは絶命した。
シールド兵は、シチェクに向かって礼を言う。
「た、助かったシチェク! 流石だよお前は!」
「そうだろうそうだろう! だがそんなことより、日下部を後ろに下げるのだ! そやつは俺様たちの恩人! 死なせるワケにはいかん! たとえ後で復活するとしてもだ!」」
「了解だ! 援護を頼む、シチェク!」
「任せろぃ! 俺様は無敵だ! ズィークフリドのヤツ以外にはなぁ!」
「……前から思ってたけど、お前って本能的に嘘がつけない奴だよな……」
「そ、そんなことはないぞぉ! 俺様の嘘は天下一品だ!」
「それはそれで自慢するのはどうなんだ、人として……」
シチェクに守られながら、シールド兵は日向を後方へと下げていった。
戦闘はますます激しさを増す。
こちらではロシア兵の一人、抜群の射撃能力を持つキールが戦っているが、その途中で、近くに負傷している味方を見つけた。
「ドミトリー、大丈夫か!?」
「く……悪い、機銃の奴に足を撃たれた……」
「ちっ、なんとか俺が後ろに下げるしかないか……。お前ら、援護を……」
そう言って周りを見たキールは、気付いてしまった。
自分は、思った以上に前に出過ぎてしまっていたことを。
周囲には、援護を頼めそうな味方が一人もいない。
「グルルルル……!」
オマケに前方15メートル先には、マーシナリーウルフたちのボスを務めるジェネラルウルフがいた。キールと負傷兵の二人に、九連装ミサイルランチャーの銃口を向けている。補給兵ウルフの手によって、次弾装填を終えたらしい。
「ちょ、待て!? それぶっ放すつもりじゃないだろうな!? 人間二人に対して、あまりに威力過剰だとは思わねぇのか!?」
「き、キール! 全弾撃ち落とせ! お前ならできる!」
「はぁ!? 無茶言うな! いくら俺でも……」
「ここには、使えそうな遮蔽物が無い! あったとしても、九発ものミサイルが撃ち込まれたら、遮蔽物ごとお陀仏だ! 撃ち落とさないと、俺たちは死ぬぞ!」
「グオオオオッ!!」
「ほら、撃ってきたぞぉ!」
「くおおおおお!? 主よ、俺が何をしたぁぁぁ!?」
顔面蒼白になりながらも、キールは迫ってくるミサイルに対マモノ用ショットガンを乱射。一見無計画に撃ちまくっているように見えるが、その実、しっかりとミサイルの軌道を予測して弾丸を撃ち込んでいる。
三発のミサイルが、着弾前に破壊された。
ミサイルが誘爆した黒煙が、キールの視界を塞ぐ。
これでは、次に来るミサイルが見えない。
「うおおおおおおおおっ!!」
だがキールは、己のミサイルの軌道予測を信じて、射撃を続行。
黒煙の向こうから聞こえた爆発音は、六回。
残り六発のミサイルが、全て撃ち落とされた証拠だ。
「よっしゃあああああああああ!?」
歓声と悲鳴が入り混じった声を上げながら、キールは負傷兵を引きずって後方へと下がる。彼の人生においても一、二を争うほど全力でだ。
「く、クソが! 寿命が縮んだぞ! ミサイル一発につき一年で、合計九年だ!」
「はは! す、すげぇぜキール! お前ならやれると信じてた!」
「てめ、この野郎! 無事に脱出できたら飯おごれ!」
「任せろ! 好きなだけ食わせてやるから!」
やり取りを交わしながら、二人は後方へと下がっていった。
そしてこちらはイーゴリ。対マモノ用アサルトライフルを構えながらも、不安そうに周囲を見回している。
もともと戦車兵である彼は、直接戦闘は得意としていない。ここまで味方に指示を飛ばすことで援護をしてきたが、これほどの混戦となると、誰にどう指示を飛ばせばいいか分からなくなり、かと言って戦闘に参加することもできず、オドオドしていた。
「い、いったい、僕はどうしたら……」
「グルルルッ!」
「ひっ!?」
そんな中、一体のアーマーウルフが、イーゴリに接近してきた。牙を剥き出しにして、物凄い勢いで迫ってくる。
「く、来るなぁ!?」
イーゴリは無我夢中でアサルトライフルを連射する。
だが、アーマーウルフは、顔を覆う合金アーマーを盾にする。
銃弾を弾きながら、イーゴリへと接近。
牙を剥き出しにして、飛びかかる。
「ガァァッ!!」
「うわぁぁぁ!?」
もはや成す術無し。
イーゴリは、恐怖で顔を覆いながら、目を瞑った。
……だが、覚悟していた痛みは、やってこなかった。
イーゴリが恐る恐る目を開いてみると……。
「ぐ……ッ!」
「グウウウ……!」
「あ……アンドレイ……!?」
アンドレイが、イーゴリを守っていた。
既に一度マーシナリーウルフに噛み潰されている左腕を、もう一度噛ませて。
「ぐ……くぁぁぁッ!!」
「ギャンッ!?」
アンドレイは、左腕をアーマーウルフに噛ませながら、右手でハンドガンを取り出し、アーマーウルフの左目に押し当てる。そして二回引き金を引いて、アーマーウルフを仕留めた。
アーマーウルフを倒すと、アンドレイは床に倒れてしまった。
イーゴリが急いで駆け付けて、アンドレイを助け起こす。
「アンドレイ!? しっかり! 僕なんかのために死なないで!?」
「く……安心しろ。これくらいじゃ死なんさ……。もっとも、左腕の感覚は、もう完全に無くなってしまったが……」
「ガルルルッ!」
「くっ……!? イーゴリ、後ろから別のアーマーウルフが来てる……!」
「く、くそぉ!!」
するとイーゴリは、力強く立ち上がり、持っていた対マモノ用アサルトライフルを、向かって来ていたアーマーウルフにぶっ放した。
「うおぉぉぉぉっ!!」
「グギャアッ!?」
アーマーの隙間に弾丸を通され、アーマーウルフは絶命した。
イーゴリは、さらに射撃を続ける。
「うらぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ギャンッ!?」
「キャインッ!?」
「グギャッ!?」
イーゴリの射撃で、次々とマーシナリーウルフたちが倒れていく。アーマーウルフ、マシンガンウルフも、補給兵ウルフまでも。
一見すると無造作に乱射しているようにしか見えないイーゴリの射撃だが、その狙いは驚くほど正確だ。
「くそぉっ! いい気になるなよ、マモノどもぉぉ!!」
「い、イーゴリが、覚醒してしまった……」
豹変したイーゴリの様子を、アンドレイは引き気味に見ていた。
左腕の痛みすら忘れてしまうほどに、ドン引きだった。
ここで、ようやく日向が復帰した。
少しきつそうに身体を起こしながら、近くにいたキールやアンドレイに声をかける。
「ぐ……すみません、回復しました。戦況はどうなってます?」
「い……イーゴリが大活躍して、犬コロどもを全滅させる寸前だ……」
「……はい? イーゴリさんが? キールさんやシチェクさんじゃなくて?」
「ああ、イーゴリで間違いないぞ。アイツには、驚くべき才能があったのだ。……目覚めてはいけない類の」
日向がイーゴリを見てみると、彼は最前線にて、ジェネラルウルフに正面からアサルトライフルの弾丸を浴びせているところだった。周囲には、マーシナリーウルフたちの死体が積み重なっている。
「うらぁぁぁっ!! 喰らいやがれぇぇぇ!!」
「グオオオオッ!!」
「ミサイルかっ! 読めてるんだよぉぉぉ!!」
イーゴリは、ミサイル弾が発射されようとしているランチャーの銃口に、アサルトライフルの弾丸を撃ち込む。
「グガアアアッ!?」
弾丸は吸い込まれるようにランチャーの銃口へと入っていき、中のミサイル弾を誘爆させた。それに伴い、ジェネラルウルフの背中のランチャーも破壊された。
「よっしゃあああっ!! くたばれこの野郎ぉぉぉぉっ!!」
イーゴリが、丸腰になったジェネラルウルフに弾丸の雨をお見舞いする。
他の兵士たちも、イーゴリに続いて攻撃を仕掛けようとする。
だが、ジェネラルウルフは全く狼狽えていない。
未だに闘心が宿った瞳で、イーゴリを見据えている。
「あれは……異能を使ってくるつもりじゃ……!」
日向が呟く。
ジェネラルウルフは『星の牙』なのだ。
その身には、獣の理を超えた異能を宿している。
そして日向の推測通り、ジェネラルウルフが異能を発揮してきた。
ジェネラルウルフの身体の周りに、黒色の稲妻が奔り始める。
「ウォンッ!!」
「……え? あれ?」
ジェネラルウルフが一声鳴くと、イーゴリが今まさに引き金を引いていた対マモノ用アサルトライフルが、宙に浮いた。ジェネラルウルフに引き寄せられるように、イーゴリの手を離れていく。
「グォンッ!」
「あうっ!?」
そして再びジェネラルウルフが一声鳴くと、ジェネラルウルフに引き寄せられたアサルトライフルが、イーゴリめがけて飛んできて、彼の額に命中した。イーゴリはたまらず、床に転倒する。
「ウォォォンッ!!」
「うわっ!? 俺の銃が!?」
「お、俺のシールドがぁ!?」
「ま、周りのものが引き寄せられていくぞ!?」
ジェネラルウルフが遠吠えを発すると、ロシア兵たちの装備が次々とジェネラルウルフに引き寄せられていった。それだけでなく、周囲に散乱していた銃器や弾薬、果てには合金アーマーや機銃を装備したマーシナリーウルフたちまで。
それを見た日向は、とあることに気付く。
引き寄せられているのは、全てが金属で作られた物であると。
「これは……磁力を操作してるんだ!
ジェネラルウルフは”地震”と”雷”の二重牙だ!」




