第377話 ジェネラルウルフ
ホログラートミサイル基地の地下武器庫に辿り着いた日向たちだったが、直後にマモノたちによって行く手を阻まれてしまった。相手はテロ組織が洗脳して従えている『星の牙』。マーシナリーウルフたちのボスであるジェネラルウルフだ。
ロシア兵の一人のアンドレイが、相手の編成を読み上げる。
「アーマー六体、機関銃二体、バズーカ二体、補給兵二体、ボス一体。計十三体だ!」
「チクショウ、なんて数だ! あの数と正面からやり合うってのかよ!?」
「イーゴリさん、この部屋に別の出入り口は!?」
「無い! 連中が塞いでいる、あの扉だけだ!」
「つまり、あいつらを倒さなければ、ここから出られないってことですか……」
「丁度良いではないか! 散っていった仲間たちの仇、ここで討ち取ってくれるわ!」
「もう腹を括るしかねぇってワケか……。仕方ねぇ、やってやらぁ!」
シチェクやキールが率先してやる気を見せたことで、他の兵士たちも覚悟を決めたようだ。それぞれの武装を手に、ジェネラルウルフたちに向かって構える。
そんな中、日向はふと、『太陽の牙』で”紅炎奔流”を放つことも考えた。あれならばジェネラルウルフたちを一掃できるかもしれない……が。
「……いや待った。ここであのジェネラルウルフたちに”紅炎奔流”を撃ち込んだら、炎で出入り口を塞いでしまうことになる。あの扉以外に脱出路は無い。自分が放った炎で、ここに閉じ込められる羽目になる……」
そこまで考えて、日向は”紅炎奔流”の使用を控えた。
『太陽の牙』を使うならば、イグニッション状態での直接攻撃に留めておくべきだろう。
「お前たち、構えろ。奴らが突っ込んでくるぞぉ!」
シチェクが注意を飛ばす。
それと同時に、アーマーを纏ったマーシナリーウルフたちが一斉に突っ込んできた。
「シールド兵、アーマーウルフを受け止めてっ!」
「任せろぉ! うおりゃあああ!」
六体のアーマーウルフは、左右に分かれて挟撃してきた。
これに対して、七人のシールド兵たちも分散し、アーマーウルフを受け止める。
「バウッ! ガウッ!」
「くおお! なんとか止めたぞ!」
「こ、こっちは厳しい……! さっき、ミサイルを受け止めた腕が痛んで……うわっ!?」
一部のシールド兵たちが、アーマーウルフの攻撃を受け止めきれずに転倒した。体勢を崩したシールド兵を襲おうとするアーマーウルフを、後方の兵士たちが射撃して追い払う。
「オオカミどもめ! あっちに行け!」
「前方、機銃が来るよ!? シールド兵は左右に分かれたから、前がガラ空きだ!」
「下がってろ、コンテナを崩すぞ!」
そう言ってアンドレイが、タワー状に積まれている金属製のコンテナを、右腕一本で引きずり下ろした。このコンテナには弾薬などの物資が入れられており、人ひとりが屈んで遮蔽物にできるくらいの大きさがある。
「他の皆も、コンテナを盾にするんだ!」
「了解!」
ロシア兵たちは、近くのコンテナに身を隠して、マシンガンウルフの射撃を回避した。銃撃が止めば、コンテナの後ろから顔を出して撃ち返す。
「ギャンッ!?」
「良し! 一匹仕留めた!」
「グオオオオッ!!」
「油断するな! ジェネラルウルフが攻撃を仕掛けてくるぞ!」
「み、ミサイルが来る! 撃ち落とせぇ!」
ジェネラルウルフが一声鳴いて、背中に背負っているミサイルランチャーを射撃してきた。正方形の面に、縦三つ、横三つ、計九つの発射口が付いており、そこから一斉にミサイルが放たれた。
ロシア兵たちは、一斉に射撃してミサイルを破壊しようとする。
九発のうち六発は始末できたが、残り三つが爆発の煙を突っ切って、ロシア陣営に着弾した。
「うわぁぁ!?」
「ぐああ!?」
ロシア兵たちはコンテナの後ろに身を隠し、なんとかミサイルの直撃は免れた。しかし、ミサイルの爆発によってコンテナごと吹っ飛ばされてしまった。五人の兵士が床に倒れて、動けなくなる。
「負傷者を後ろに下げて! 戦える人は、マシンガンウルフやバズーカウルフを牽制するんだ!」
「あ、あの重火器背負った犬どもの正面に立てって言うのか!? オレは嫌だぞ!?」
「じゃあお前はそこで援護してろ! 勇気ある馬鹿野郎どもは俺に続けぇ!」
「恐れるな! ここで負けたら、どの道死ぬぞぉ!」
数人のロシア兵たちが飛び出して、マーシナリーウルフたちに射撃しながら怪我人たちを確保する。後方の兵士たちも、前方に飛び出した者たちを援護する。
一方、ミサイル弾を撃ち尽くしたジェネラルウルフは、補給兵を務めるマーシナリーウルフたちによって、次のミサイル弾をランチャーに装填してもらっていた。
補給兵ウルフたちは、身体の側面や背中に予備のミサイル弾を背負っている。それをジェネラルウルフに取り出してもらったあと、自身の前脚や口を器用に使ってミサイルを持ち上げ、ランチャーの銃口にミサイル弾をセットする。
オオカミの身である彼らは、銃のリロードを一匹で行うことができない。だが、複数匹で協力することで、そのリロードさえも可能としてしまっている。犬種は本来、人間のように道具を使うことが苦手な生き物であり、この知能の発達具合は驚異的なものである。
「ほ、補給兵ウルフを始末しないと、ジェネラルウルフの奴はいくらでもミサイル弾を撃ってくるぞ!」
「誰か、補給兵ウルフを仕留めろ! 連中は軽装だから、弾丸を当てれば仕留めきれるはずだ!」
「無理だ! 連中、仕事が無い時はしっかり扉の向こうに隠れて身を守ってやがる! ここからじゃ射角が取れない!」
「アーマーウルフも忘れるな! シールドを持った連中を援護しろ!」
「アーマーはあと何体だ!? あと何体いる!?」
「四だ! まだ結構生き残ってやがる!」
「ヤバい! バズーカを背負ったヤツに狙われてる! 攻撃を阻止できない……うわぁ!?」
「ヨシフが吹っ飛ばされた!? 大丈夫か!?」
「落ち着け! コンテナを盾にしてた! アイツは大丈夫だ!」
「ギャンッ!?」
「よっしゃ! バズーカ一匹仕留めたぜ!」
「さすがだぜキール!」
「グルルルッ! バウッ!」
「ジェネラルウルフの背後から、増援のマーシナリーウルフだ! 機銃が二体! バズーカ二体!」
「くそっ、いい加減にしやがれ犬野郎どもぉ!!」
兵士たちの怒号と、マーシナリーウルフたちの吠え声と、悲鳴と、銃声と、弾丸が弾かれる金属音が鳴り止まない。
ここは今、地球上で最も激しい戦いが行われている鉄火場に違いない。そう思えるほどに、壮絶な撃ち合いが繰り広げられていた。
そんな中、日向が対マモノ用アサルトライフルで、マシンガンウルフを一体仕留めると、別のバズーカウルフがこちらのシールド兵を狙っているのが見えた。彼はアーマーウルフと戦っていて、バズーカウルフに狙われていることに気付いていない。
「くそっ、させるか!」
急いで日向はバズーカウルフに狙いをつけて、引き金を引く。
……だが、アサルトライフルからは、引き金の虚しいカチカチ音が聞こえるのみ。弾切れだ。
「あ!? 嘘だろ!?」
弾丸を再装填している時間は無い。バズーカウルフは、もう完璧にシールド兵に狙いを定めている。間もなくバズーカから砲弾が発射される。
日向とシールド兵の距離は、そう遠くない。
そう判断した日向は、『太陽の牙』を構えて飛び出した。
「くぅぅ……もう、こうするしかない……!」
シールド兵とバズーカウルフの間に割って入る日向。
直後に、バズーカウルフのバズーカが火を吹いた。
それに対して、日向は剣の腹を盾にして構える。
「あぐぁ!?」
日向が構えた剣の腹に砲弾が命中し、日向は爆炎と共に吹っ飛ばされた。




