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第374話 捕虜解放

 ホログラートミサイル基地の兵士たちが閉じ込められている牢屋に、無事に辿り着いた日向。見張りのテロリスト二人も、気絶させてガムテープでぐるぐる巻きにして無力化した。


 日向はさっそく、気絶させた二人の見張りから牢屋のカギを奪取するため、彼らの持ち物を調べる……が。


「全然見つからない……どこに隠してるんだ……」


 見張りの二人は、牢屋のカギを持っていなかった。これは恐らく、この二人ではない他の誰かが管理しているのだろう。オリガあたりが持っていても全く不思議ではない。


 牢屋の中のロシア兵たちも、不安げな表情を浮かべている。


「ど、どうするのだ少年!? このままでは、せっかくお前が来てくれたというのに、俺様たちは脱出できないぞ!?」


「……仕方ありません。イグニッションを使います」


「イグニッション……? なんだそれは……?」


「とりあえず皆さん、檻から離れてください!

 ……来い、『太陽の牙』!」


 日向が右手を伸ばし、己の剣の名前を呼ぶ。

 すると日向の右手の中で火柱が発生し、それが剣の形をとる。


 そして気が付いた頃には、日向の手の中に、一本の大振りの剣が握られていた。牢屋の中のロシア兵たちは、目を丸くして日向の剣に注目している。


「少年……君は手品師なのか!?」


「まぁ、はい、もう手品師ってことでいいです。それより、今から檻を焼き切りますので、下がってください! ……太陽の牙、”点火イグニッション”ッ!」


 日向の掛け声とともに、『太陽の牙』の刀身が、まさしく太陽を思わせる紅蓮の炎を纏う。直視するだけで目が焼けそうだ。


 そして日向は、イグニッション状態の剣を、檻に向かって一振り。

 ロシア兵たちを閉じ込めていた牢の檻は、豆腐か何かのように容易く切断された。


「こ、これはすごいな……! 子供の頃に見た、何かのヒーローのようだ!」


「ひ、ヒーローですか。それはまぁ、素直に嬉しいです」


 やがて日向は、全ての檻を破壊して、捕まっていたロシア兵全員を脱走させた。ざっと数えて三十人くらいはいるだろうか。牢屋の外、部屋の中央に集まり、改めて挨拶を交わす。


「俺は日下部日向って言います。このホログラートミサイル基地をテロリストの手から奪還するために派遣された、マモノ討伐チームの一員です」


「こんな若い少年が……。世の中とは分からないものだな」


「でも、噂で聞いたことはあったよ。日本のエースチームは、五人の若者の男女だって」


 ロシア兵たちからは、代表して二人が日向の前に名乗り出る。

 一人は、見るからに屈強そうな、大柄な男だ。

 しかし、両側から二人の兵士に身体を支えられている。

 怪我でもしているのだろうか。


「俺様の名はシチェク。このホログラート基地で一番の格闘能力を持つ兵士だ」


 そしてもう一人は、気弱そうだが賢そうな印象を受ける、痩せ身の男だ。


「僕の名はイーゴリ。戦車兵だよ。助けてくれてありがとう、日下部日向」


「シチェクさんとイーゴリさんですね。無事でよかったです。……ところでシチェクさんは、怪我でもしているんですか? 二人に身体を支えてもらって……」


「ああ……お前は、ズィークフリドという男のことは知っているか?」


「ズィークさん……! ええ、よく知ってますよ」


「その男に返り討ちに会ったのだ。背骨を粉砕寸前まで持っていかれてな。もう一度あの肘鉄を背中に落とされていたら、もはやこうやって立つこともできなかっただろう……」


「この基地で一番喧嘩が強い人を、そんなあっけなく……」


「いや、アイツは異常だ。悔しいが、ほとんど勝負にさえならなかった」


「こっちなんか、戦車に乗っていたのに負けたんだよ!? アイツ、本当に人間なの!? こうなるなら、戦闘ヘリに乗って挑めばよかった……」


「あ、それも無駄かと。あの人、ウチのヘリを素手で墜としましたよ」


「えぇ……」


 とりあえず、ズィークフリドという共通の話題によって打ち解けることができた日向たちは、さっそくこれからの行動について話を進める。


「皆さんを脱出させるために、下水道から外に出るルートを確保しておきました。そこを使おうと思うのですが、この基地で働いている皆さんとしては、どうでしょう?」


「うん、悪くないと思う。……けど、あそこは侵入する側にとっても絶好のポイントだ。きっと、外から来る敵を見張るための人間が配置されている可能性が高い」


「ならば、蹴散らして進めば良いではないか!」


「無茶言わないでよシチェク。相手は間違いなく銃を持っている。そしてこちらは丸腰だ。日下部くん一人に相手を任せるのも荷が重いだろう?」


「確かに、俺はもともと大して強くはないです。さっきの見張りは上手く不意を突けたから、なんとかなりましたけど……」


「なぁに、気合いだ! 気合いがあればなんとかできる!」


「ええい、脳筋は黙ってて!」


「ここまで仕留めた見張りたちから、いくつかの武装は奪っています。それを、戦えそうな兵士に渡すとかは……」


「……もう一つ、考えがある。この基地の地下、ここと同じ階層には武器庫があるんだ。場所も、ちょうど脱出ルートの途中にある。そこを制圧して、使えそうな武器を根こそぎ持っていくんだ」


「なるほど……それならここにいる兵士たち全員に武装が行きわたるし、テロリストたちに悪用される恐れも無くなる」


「いっそ、全員で武器を持って、テロリストの連中に一発ぶちかます! というのはどうだ!?」


「シチェクさん、その身体で戦えるんですか?」


「あー……いやそれは……」


「僕たちは皆、消耗が激しい。反撃したい気持ちは分かるけど、ここは脱出を優先させるべきだ。また捕まってしまったら元も子もない」


「決まりですね。それじゃあ、下水道を通ってここから脱出、そのついでに武器庫を制圧しちゃいましょう」


 こうして次の目標が決まったが、日向は一つ、兵士たちには黙っていることがある。それは、日向は皆を逃がした後、北園を助けるためにもう一度ここに留まるつもりだということだ。


(日影たちは間違いなく、ここに来る。あっちが派手に暴れて気を引いてくれれば、こっちも基地内でこっそり動きやすくなる。勝算は上がるはずだ……)


 しかしこれを兵士の皆に話せば、心配されて止められるかもしれない。何としても北園を助けに行きたい日向は、これを黙っておくことにした。


 さて、いよいよ牢屋から出ようとする日向たちだが、一つだけ懸念事項がある。監視カメラの存在だ。


「僕が覚えている限り、下水道へたどり着くには、どのルートを通っても監視カメラがある場所を通らなければならない。この大人数で動く以上、見つかるのは確実だ」


 イーゴリの言葉に、他の兵士たちは不安げな表情を浮かべる。

 ……が、ここで日向が手を挙げた。


「それならちょっと、試してみたいことがあるんです。上手くいけば、監視カメラの目を誤魔化せるかも……」


「それは本当!? どんな作戦なんだ!?」


「とりあえずイーゴリさん、俺の手を握ってください」


「え、あ、うん、わかった。こうかな……?」


「はいありがとうございます。それじゃ次に他の人がイーゴリさんの手をつないでください」


「なら俺様が握ろう。ふはは、もやしみたいに貧弱な指だな!」


「ああそう……そっちの指は、まるで岩塊だね……」


「それじゃあ次は、シチェクさんの手を誰か握ってください」


 日向に言われて、次々とロシア兵たちは手をつないでいく。

 やがてとうとう、日向たちはひとつなぎになった。


「全員が手をつなぐことになったけど、ここからどうするの?」


「それじゃあ、このまま出発します」


「……はぁ!? この、みんな仲良く手を繋いでピクニック状態でぇ!?」


 思わず、といった様子でイーゴリが声を上げる。

 この状態で通路を歩くなど、どうぞ見つけてくださいと言わんばかりの愚行である。


「も、もちろん、何の考えも無いワケじゃないんですよ?」


 そう言って、日向は理由を説明する。


 日向は現在、カメラなどに映らない身体となっている。それに際して、日向が手に持ったり、触れたりしている物体もまた、同じくカメラに映らなくなってしまうのは、随分と前に確認したことだ。


 そこで日向は、ロシア兵たちと手をつなぎ、彼らが自分の一部になれば、もしかしたらロシア兵たちもカメラに映らなくなるのでは、と考えたのである。


「こんなこと、試したことはないので、ぶっつけ本番の運試しですけど……」


「……まぁ、どうせ普通に出ていってもすぐに見つかるんだ。やれるだけのことはやってみよう」


 こうして日向とロシア兵たちは、皆で手をつないで牢屋を後にした。それは、傍から見ればかなり異様な光景であった。


 だが日向は、あることを忘れていた。


 かつて日向は、カメラに映されている状態で、他者に触れたことがある。福岡の下水道にてギロチン・ジョーとの戦いの後、テレビ局のカメラが日向たちを撮影していた。

 その時、日向は日影に触れていたのだが、日影の姿はテレビから消えてはいなかった。つまり、今回の日向の作戦は、全くの無意味。


「こんなこと、試したことない」などと日向は言っていたが、それは誤りだ。バッチリ試したことがある。結論として、日向が他者に触れても、その他者はカメラから消失しない。


 そうとも知らず、ロシア兵たちと仲良く手をつないで牢屋を後にする日向。監視に発見されるのは時間の問題だろう。



◆     ◆     ◆



 一方、こちらは基地の管制室。

 中には数人のテロリストが椅子に座っており、基地内の監視カメラの映像をチェックしている。


「……ちょっと待て!? 何だコレ!?」


 一人の男が、モニターを見て声を上げた。

 基地の兵士たちを捕らえている牢屋部屋から、兵士たちが皆、手をつなぎながらどんどん出てくる。見ているぶんには、どこか微笑ましい。


「……何やってるんだ、コイツら?」


「なんか、楽しそうだな」


「と、とにかくけ、警報を鳴らせ! 異常発生だ!」


「……警報ってどのボタンだ?」


「ああもう、これだよこれ! それから、あのオリガって女にも伝えろ! 異常事態発生だってな!」



◆     ◆     ◆



 そしてこちらは、兵士の寄宿舎。

 ここを使っていた兵士たちは、今はほとんどが死んでしまったか、あるいは地下の牢屋に入れられている。


 その一室にて、空いているシングルベッドの上で、オリガが眠っていた。穏やかな表情で、安らかに寝息を立てている。


 ……が、不意に眼を見開き、目覚めてしまった。


「……今、何時かしら。……22時35分。起きる予定の時刻より30分ほど早いわね。はぁ、意外と眠れなかったわね」


 ここまで無理をしてきたため、身体は相当に疲れていたはずだが、それでも自然とオリガは目が覚めてしまった。「ここまで来て、寝ている場合ではない」と身体が訴えているのだろうか。あるいは、身体の調整が受けられなかったことによる弊害か。


「ふぅ……うぅぅん……」


 ベッドの上で、オリガは大きく伸びをしてみる。

 この期に及んで起きてしまったからには、もうこのまま起きることにすると決めた。


 ちなみに北園は、オリガが寝ているベッドの真下にいる。

 相変わらず、銀色のスーツケースに閉じ込めたままで。


 自分は気持ち良いベッドの上でのびのびと寝ている一方で、北園は自分の真下で窮屈な姿勢を強制されながら、身動き一つ取れないでいる。その背徳的な優越感が、オリガに興奮を与えた。


「うふふ……あの子が閉じ込められてから何時間経ったかしら。暗闇の中で、もう時間の感覚も無くなっている頃でしょうね。あぁ、たまらないわ」


 オリガが寝ているベッド、その下のスーツケースに思いをせて、オリガは恍惚とした表情を浮かべた。


「あとはこのまま、ズィークと初夜が楽しめれば良かったんだけど、贅沢は言っていられないわよねぇ」


 ズィークフリドと、甘いひと時を過ごす。

 グスタフから、己の出生について語ってもらう。

 それらの楽しみは、この計画の全てが終わってからと決めた。

 今はただ、計画達成のために全てを費やすのみである。



 ……と、その時だ。

 基地内に、けたたましい警報が鳴り響いたのが聞こえた。


「……いったい、何事かしら」


 怪訝な表情で、オリガはベッドから身を起こす。

 それと同時に、テロリストのメンバーの一人が部屋に入ってきた。


「オリガさん、大変だ! 異常事態が起こったらしい!」


「具体的な内容は?」


「なんか……地下の牢屋に閉じ込めておいた捕虜たちが、皆で仲良く手をつなぎながら脱走してるんだと……」


「………………何それ」


 ともかく、異常事態はこの基地の地下で起こったらしい。

 そこで問題を起こしそうな要素と言えば、ただ一つ。

 日向が脱走し、基地内で細工をしているのだろう。

 こんなふざけたマネをするのは、あの少年以外に有り得ない。


「上等よ。大人しくしなかったことを後悔させてあげるわ。……ねぇあなた、マーシナリーウルフとジェネラルウルフのコンテナの解放準備をしておいて。足が速いあの子たちに、脱走者どもを追わせるわ。それからコールドサイス、ヘルホーネット、ズィークの順で開けてちょうだい。急いで!」


「り、了解!」


 オリガの命令を受けた男は、弾かれたように部屋を出ていった。

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