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第358話 懐かしの再会と作戦会議

 日向たちを乗せた戦闘機は、7時間もかからずにロシアの空港へと到着した。この地域と日本の時差はおよそ5時間ほどで、日向たちが現地入りした時の時刻は結果として朝の10時くらいであった。

 ちなみに、これが普通の飛行機での出立なら、乗り継ぎと合わせて到着に41時間ほどかかったというのだから、凄まじい時間短縮である。


 最初は戦闘機の速度に心底驚かされた日向であったが、7時間も飛び続けていたらさすがに慣れた。今までゲームでしか体験できなかった戦闘機への搭乗は、むしろ楽しくさえあった。


 しかし一方で、シャオランは死にかけていた。

 彼は空を飛ぶ乗り物に弱い。


「も……もうダメ……ボク帰るぅ……」


「じゃあ帰りの戦闘機を手配しようか?」


「戦闘機はヤダぁ……」


「現在、この空港はロシア軍が出入りしていて、旅客機の出入りを制限されている。普通の飛行機で帰りたいなら、テロを鎮圧するしかないよ」


「さ、サヤマはまたそうやって、ボクを後戻りできないところまで引きずり込むんだからぁ……」


「ははは、すまないね。君はこうやって扱えば良いと、もうまれてしまった」


 シャオランと狭山の会話を聞きながら、日向たちは空港内を歩く。


 狭山も今しがた言っていたが、現在この空港はロシア軍が利用している。ホログラート基地に一番近い空港ということで、輸送ヘリや戦闘機が出入りしているのだ。


「万が一ミサイルが発射された時は、ここの戦闘機が直接ミサイルを墜とすことも考えているらしい。とはいえ、ホログラート基地に配備されているミサイルは最新のステルス機能が搭載されている。ロックオンはできず、機銃を使って手動で墜とすしかない。難易度は高いだろうね」


「あまり頼りにはできない、ということですか」


「そういうことだね。しかもロシアは無用な混乱を避けるため、今回の一件はまだ世間に知らせていない。各地への軍隊の配備も、緊急の軍事演習ということにしているみたいだ。街にミサイルが着弾した日には、大勢の犠牲者が出てしまう」


「またそうやって都合の悪いことを隠そうとする……」


「政府の気持ちも分からないでもないけどね。例えばモスクワの人々だけでも安全圏に避難させようとしたら、それだけで莫大な費用がかかる。さらに首都であるモスクワの機能を停止させたら、たとえ一日だけであろうと経済的損失は計り知れないものになる。秘密裏に事態を収拾できるならそれが良い」


 そして日向たちは、空港内の会議室らしい場所へと通された。

 テロ鎮圧に向けて、作戦会議をするためである。


「今回の任務に向けて、協力者を手配しておいたよ。きっと助けになってくれるはずだ」


「協力者?」


「うん。君たちも知っている人さ。……ああ、シャオランくんは知らないかな」


 そして日向たちが会議室に入ると、一人の男性が椅子に座っていた。

 やや細身で、ぼさぼさの髪と無精ひげが生えた、日本人の男性だ。

 茶色のコートを羽織って、のんびりとくつろいでいる。

 

 日向は確かに、その男性に見覚えがあった。

 男性も日向たちに気付くと、声をかけてくる。


「……お、来たかお前ら」


「あ、あなたは……! ……えーと、名前何でしたっけ……」


「おいおい……」


「顔は覚えてるんですよ! けど名前がちょっと出てこなくて……もうあとちょっとで出てきそうなんですけど……」


「倉間だよ、倉間。ほら、今年の正月に、一緒にミストリッパーやロックワームと戦ったろ?」


「……ああ、思い出した!」


 男の名は倉間慎吾くらましんご

 今年の一月に、狭山からの命令を受けて十字市へ調査に向かい、そこで日向たちと出会い、狭山に日向たちを紹介した人物。

 日向たちと狭山が今日に至るまで共に活動してこれたのは彼の功績だ。彼が日向たちを結び付けてくれた。


 北園や本堂も、倉間に声をかける。


「倉間さーん! お久しぶりです!」


「よう北園。相変わらず元気そうでなにより」


「久しぶりです。そちらもお変わりないようで」


「よう本堂。相変わらずクールな奴だな」


 二人が挨拶を終えると、今度は狭山と日影が倉間に声をかける。

 日影は、初めて日向たちと中国で出会った後、一度狭山について行って東京のマモノ対策室本部に立ち寄ったことがある。そこで倉間とも顔を合わせたことがあるらしい。


「倉間さん、今日は来てくれてありがとうございます。頼りにしてますよ」


「ったく狭山、お前は相変わらず、涼しい顔して人使いが荒いんだよ」


「ああご安心を。これだけ荒く使うのは倉間さんだけですから」


「安心できるかアホ! もっと有給とボーナスよこせ!」


「はは、考えておきます」


「この野郎め。……それと日影も久しぶりだな。髪、黒くしたのか」


「おう、倉間。アンタがここに来てるとはな」


「今回は対人戦と、敵地への潜入がメインだ。俺はその辺のスキルに心得がある。そこでお前らを助けるべく、狭山に東京から呼び出されたんだよ。日本にロシアテロの知らせが入ってから、わずか一時間後には『ロシアに飛べ』と来た」


「……マジで人使い荒いな」


 そして最後に、倉間はシャオランに向き直る。

 この二人は唯一、直接顔を合わせたことがない。


「そんで君がシャオランくんか。これまでの君たちの戦いの記録から、君の顔と名前は知っていた。会えて嬉しいよ」


「ボクも、あなたのことはヒューガ達からちょくちょく聞いていたよ。今日はよろしくね、クラマ」


「おう、よろしくな。……しかしまぁ、本当に身長小さいな」


「ち、小さいって言うなぁ!」


「おっと、そういえば身長が小さいのを気にしてるんだったか。スマンスマン。けど、お前はこれからが伸び盛りなんだから、そう落ち込むなよ」


「伸び盛りって……ねぇクラマ、ボクのこと何歳くらいだと思ってるの?」


「ん? 10歳くらいだと思ってたけど、違うのか?」


「今年で17歳だよぉ!!」


「あー……そりゃ、悪かったな……」



 一通り挨拶も終わったところで、さっそく作戦会議開始である。


 まずは現在分かっている情報を整理する。

 敵はテロ組織『赤い稲妻』。

 そして、それに協力するオリガとズィークフリド。

 さらに彼らは、何らかの方法でマモノを指揮下に置いている。


 彼らの目的は、ホログラートミサイル基地に配備されているステルス核ミサイルで、ロシアに攻撃を仕掛けることだ。


 テロリストたちは恐らく、こちらが彼らの作戦を察知していることに気付いていない。今ならテロリスト側にほとんど警戒されることなく、基地に侵入できるはずだ。


 そこでまず日向たちは、ロシアが用意したヘリに乗って、ホログラート基地の周辺の山岳地帯まで接近する。その山岳地帯を流れる川が、基地の下水道と繋がっており、その下水道から基地に侵入する作戦だ。


『下水道』と聞いた北園が、満面の笑みで日向をの方を見る。


「下水道の王者、日向くんの活躍どころだね!」


「また懐かしいネタを……」


 ヘリの操縦は、倉間が担当する。さらに彼は空手七段の実力を持っており、並大抵の人間では相手にならないほどに格闘戦は強い。先ほど本人が言っていた通り、敵地潜入への知識も深く、五人の導き手となってくれるはずだ。


「倉間さん、そんなに強かったんですね」


「もういい歳だから、戦わずに済むならそれが良いんだけどな。万が一の時は任せとけ」


「狭山さんは、後方で作戦指揮ですか?」


「うん。本当は自分がついて行ってあげれば良かったんだけれど、的井さんから止められてしまった。今回の任務は危険すぎるから、立場を考えて後ろで大人しくしておけ、とね。だからこそ、倉間さんを呼んだんだ」


「俺なら危険すぎる任務に放り込んで犠牲になっても良いっていうのか、的井のヤツ……」


「きっと無事に帰って来てくれると信頼してるからですよ」


 また、現在のホログラート基地周辺は雪が積もっている。この時期にホログラートで雪が降るのは珍しく、もしかしたら”吹雪ブリザード”の星の牙がいるかもしれない、とのことだ。


 さらに、基地周辺は強力な電波妨害を受けており、一切の通信ができない。電波妨害の霧を生み出す”濃霧ディープミスト”の星の牙がいる可能性も極めて高い。

 この電波妨害のせいで、狭山が日向たちに通信をすることも基本的には不可能になるだろう。狭山はここのロシア軍を動かすのが主な仕事になる。


「外部から基地システムにハッキングすることができれば、この場からミサイル発射を止めることもできたんだけど、この電波妨害のせいでシステムに侵入することができないんだ」


「つまり、”濃霧ディープミスト”の星の牙を倒せば、ミサイル発射を阻止できる?」


「100パーセントとは言えないけど、確率は高い。”濃霧ディープミスト”の星の牙を倒すことが、君たちの第一目標と言ってもいい」


「なるほど……それなら俺が上手く”紅炎奔流ヒートウェイブ”を当てることができれば、一気に任務を完了できる可能性もあるワケですね」


「そういうことだね。付け加えると、電波妨害でマトモな通信手段が使えないのは、テロリストたちだって同じはずだ。これもまた、攻略のカギになるかもしれない」


 そしてもう一つ忘れてはならないのが、拘束されている兵士たちの解放だ。彼らを人質に取られたらと思うと、ロシア軍は迂闊にテロリストたちに手を出せない。兵士たちを解放できれば、ロシア軍はその圧倒的な武力でテロリストたちをあっという間に制圧してくれるだろう。


「君たちは任務の中で、どうしても向こうの指揮下のマモノやテロリストと交戦することがあるだろう。しかし、これはあくまで憶測だけれど、ある程度までの交戦なら、テロリストたちは人質を殺害はしないと思う」


「そうなんですか?」


「一人でも殺してしまったら、残りの人質たちが逆上し、反攻を決起する可能性がある。それを察知したロシア軍もまた一気に攻勢に乗り出して、テロリストたちは押し潰される……というのが、向こうにとって最悪のシナリオだ」


「テロリストたちもまた、迂闊に人質を殺すワケにはいかないってことですか」


「そういうことだね。人質は生かしておいてこそ価値がある、とはよく言ったものだよ」



 以上までの作戦をまとめると。

 日向たちは、倉間が操縦するヘリに乗る。

 ホログラート山岳地帯でヘリを降り、川から基地の下水道へ。

 下水道から基地に侵入したら、速やかに”濃霧ディープミスト”の星の牙の排除と、捕虜の解放を達成させる。


「……こんなところだろうか。基地内部、および下水道のマップはロシア軍から提供してもらっているから、速やかな作戦遂行が可能なはずだ。本来は極秘事項である基地内部の見取り図を貸してくれるあたり、向こうも君たちには期待しているらしい」


 特に破綻も欠点も無い、悪くない作戦だ。

 ……だがそんな中、不満そうな顔をしている人物が一人。

 日影である。


「よぉ狭山、オリガやズィークフリドをぶちのめすのは、任務に入らねぇのか? アイツらとはケリを付けてぇんだけどな?」


「日影くんの気持ちも分かるが……オリガさんやズィークフリドくんと戦うのは、可能な限りナシだ」


「……オレたちじゃ、アイツらには勝てねぇって言うのか」


「そうだね……良い機会だから、次は彼女たちのスペックについて話そうか。このミッションにおいては決して避けられない、二人の強敵のことを」

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