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第316話 ビルを登る四人

「うぐ……ここは……?」


「ん。目が覚めたか日向」


「うわお、無表情三銃士の皆さん」



 日向はシャコライカーのパンチにやられ、意識を失っていた。瀕死の状態であったが、いつも通り”再生の炎”で復活できた。

 そして再び目を覚ますと、本堂、コーネリアス、そしてズィークフリドの三人が、自分の顔を覗き込んでいた。

 彼らは皆、信頼のおける仲間であるが、この無表情な三人が一斉に自分の顔を覗き込んでいるのは、やはり少々インパクトが強い。

 

「ええと……そっか、俺、シャコライカーにやられてたんだっけ。シャコライカーはどうなりました?」


「倒したぞ」


「でしょうね。だって俺の視界の端に見るも無惨な姿になったシャコライカーが倒れてますもん」


「傷の具合はどうだ」


「もう完全に回復してます。さっきまで内臓がやられてましたけど。ああくそ、服が血反吐で汚れてしまった」


「よし。日向の調子も良さそうだな。そろそろ移動を再開しよう」


『おっと、その前に自分から少し話があるんだ』


 通信機から狭山の声が発せられた。

 日向たち四人は、通信機の向こうの狭山の声に耳を傾ける。


「どうしたんですか、狭山さん?」


『マードック大尉のグループが、思いのほか苦戦しているみたいだ。かなり強力な星の牙と遭遇してしまったらしい』


 マードック大尉のグループは、アメリカのマモノ討伐チームの隊員であるケルビン・トリシュマンの救援に行っている。


 そんな彼らが、よりにもよって強力な『星の牙』と遭遇してしまった。

 ケルビン隊員の安否も心配だが、日向としてはそれ以上に気になることがあった。


「マードック大尉のグループが……。確か、北園さんもそっちに……。北園さんは大丈夫そうですか?」


『うん。今のところは。けど、ここからどう転ぶか分からない。そこで提案なんだけど、自分はマードック大尉のグループの援護に集中しようと思うんだ。君たち四人は、特に個々の判断力が高いグループだから、自分が放っておいても大丈夫だと思うのだけど……』


「俺はともかく、他の三人は間違いなく大丈夫かと。そして、その三人に連れ添う俺もきっと大丈夫です。だから狭山さんは、マードック大尉のグループについてあげてください。そして北園さんを守ってあげてください」


『はは、了解だよ。任せておいてくれ。そして、君たちもくれぐれも気を付けて』


 その言葉を最後に、狭山との通信が切れた。

 北園の心配をする日向に、コーネリアスが声をかける。


「あっちニハ、ジャックがいル。アイツは強イ。きッとキタゾノも守ってくれテいる」


「そうですね。向こうも良いメンバーが揃ってる。きっと大丈夫ですよね」


「……ところで日向。あっちには北園だけでなくシャオランもいるのだが、アイツの心配はしなくていいのか?」


「…………えっと」


「北園のことばかり考えて、素で忘れていたか?」


「い、いやほら、シャオランってなんだかんだ言って強いし、大丈夫かなって」


「ふむ。シャオランにこのことを言いふらしてみようか……」


「日本に帰ったらさばぬか奢りますんで、それで手を打ちましょう」


「乗った」


「商談成立。それじゃ、改めてサテラレインが待ち構えている屋上まで行きましょう。あっちにエレベーターがあるみたいですし、あれに乗せてもらいましょう」


 そう言って日向がエレベーターに歩み寄る。

 上階行きのボタンを押し、エレベーターの扉が開く。


 ……だが、日向の後ろからズィークフリドが襟首えりくびを掴み、日向を引き戻してしまった。


「っ!」


「ぐぇぇ!? ず、ズィークさん!? なんでいきなりえりを引っ張るんです!? 首が締まりまし――――」


 その時だ。

 エレベーターがグシャリと音を立てて、押し潰されてしまった。

 次いで、エレベーターの上部から大量の水が流れ出てくる。


「こ、これってまさか、サテラレインの空からの水レーザー!?」


「いかん、ここから離れるぞ! レーザーが追いかけてくる!」


「うわわわわ……!?」


 慌ててエレベーターから離れる四人。

 やがて、エレベーターを押し潰す水は止まった。

 後に残されたエレベーターは当然、もはや使い物にならない。


「あっぶねぇぇぇ……!? サテラレインの奴、建物ごと天空の水レーザーでぶち抜いてきたのか……!」


「まさかこんな形で足止めを仕掛けてくるとはな。ズィークフリドさんが気づいてくれなければ一網打尽だった」


「本当にその通りで……。ズィークさん、どうやって今の攻撃に気付いたんですか?」


「…………。」(頭に生えたチーターの耳を指差す)


「ああ、動物化の影響で耳が良くなってるんですね。それで、建物を破壊する水の音に気付いた、と」


「とにかく、急いで他の道を探すぞ。モタモタしていたら、このビルの全ての階段を破壊されかねない」


「そ、それは困る。急ぎましょう!」


 四人は近くの壁の案内板を見て、ビルの階段の位置を把握する。

 そして走って階段まで移動し、また走って階段を上る。


 このビルに巣食うマモノたちは、一階の軍勢でほとんどを出し切ってしまったのか、他のマモノたちの姿は見られない。


 本堂、コーネリアス、ズィークフリドの三人は、動物化の影響もあって優れた身体能力でグングンと階段を上っていく。


 日向が若干遅れているが、それでも歯を食いしばって三人について行く。さすが8月にスタミナのトレーニングを重点的に行っただけのことはある。


「ふぅふぅ、負けるもんか…………ん?」


 日向は、ビルの十階まで上ったところで足を止めた。

 本堂が、階段の途中で座っているのだ。

 日向の倍以上のスタミナを誇り、今はロバの脚力まで持っている彼に限って、日向より早くスタミナが切れたということはないはずだ。


「本堂さん? なんで座って休んでるんですか?」


「階段上るのがめんどい」


「こ、このロバめ……! 早く立ち上がらないと、ワシとチーターをけしかけますよ!?」


「Koke ko(クルックー)kko.」

「…………。」(コアリクイの威嚇のポーズ)


「あのー。ワシとチーターはどこに……?」


ワシ(ワシ)ダ」


「コーネリアスさんは後で焼き鳥にします」


「なぜダ」


「……ふふ。面白いものを見せてもらって、やる気も出てきたな。そろそろ行くか」


「……いや待テ。新手ダ」


「キエアアアアアッ!!」


 四人の前に姿を現したのは、巨大アリのマモノ、ガチュラだ。

 日影たちが地下で戦ったのと同種のマモノである。

 大アゴを目いっぱいに開いて、四人に迫ってくる。


「こいつはガチュラ! まだこんな大物が残ってたのか……! 本堂さんがこんなところでサボるからー!」


「素直に反省している」


「キエアア――――」


 だがその時だ。

 ガチュラの頭上の天井をぶち破って、水の柱が降ってきた。

 水の柱はそのままガチュラを押し潰し、その下の床までぶち抜いてしまった。


 水に潰されたガチュラは下の階に落下し、後には四人が残される。


「……えーと、とりあえず、サテラレインは当てずっぽうで水のレーザーを落としているみたいですね」


「そのようだな」


「あと、さっきのエレベーターを破壊した水のレーザーから、今のレーザーまでの間隔を数えていたんですけど、だいたい三分くらいでした。キリの良い数字ですし、奴のレーザーの使用間隔は三分毎くらいかと」


「なるほど、よく数えていたな」


「俺もたまには活躍しないとですし。さぁ、急ぎましょう!」


 四人は、再び階段を駆け上がる。

 やがて、屋上に続くガラス戸の前まで来た。

 四人は少し足を止め、息を整える。

 そして、意を決して扉を開いた。



 このビルの屋上は、大きな空中庭園となっている。

 木々が綺麗に立ち並び、花が咲き、ベンチが設けられている。

 吹き抜ける風は、少し蒸し暑い。

 空を見上げれば、あいにくの曇り空。

 だがあの渦巻く雲は、日向たちの前に立つマモノが生み出しているのだ。


 そのマモノは、岩のような茶色のゴツゴツとした身体を持つ。

 姿形は、このビルの一階で戦ったソルビテに酷似している。

 右のハサミが肥大化し、トラックさえ挟み潰してしまいそうだ。

 身体を支える左右四本ずつの脚も太く、力強い印象を与える。


「ギギギ……!」


 巨大なカニのマモノは、四人の姿を捕捉すると、その巨大な右爪を大きく振り上げて威嚇する。



 このマモノこそが『サテラレイン』。

 日向たちを何度も狙った、天空から水のレーザーを落とす能力者だ。

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