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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第9章 予知夢の五人の夏休み
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第282話 ラドチャック

 ついに辿り着いた、廃貨物船の最下層、自動車積載エリア。

 そこに潜むは、巨大なイソギンチャクのマモノ『ラドチャック』。

 このマモノは”濃霧ディープミスト”と”生命ライフメイカー”の能力を持つ『星の牙』である。


「コイツが……ラドチャック!」


「ヴォォォォォッ!!」


 ラドチャックは、増加した自身の体重で押し潰されたトラックの荷台の上にいる。そしてそこから、日向たちに向かって赤紫色の触手を伸ばしてきた。日向たちとはまだ距離があるにもかかわらず、触手はグングンと伸びて日向たちに迫ってくる。


「船内のどこにいても届く触手、どれほどの長さかと思ったけど、伸縮自在なワケか!」


 日向たち六人はすぐさま散開し、触手を避ける。

 誰もいなくなった床に触手が叩きつけられ、金属の床が大きくへこんだ。


「北園さん、本堂さん、ラドチャックに電撃を食らわせてください! 電撃を浴びせられた触手の反応を見るに、ラドチャックはきっと電気に弱い!」


「りょーかい!」

「承知した」


 日向の指示を受け、北園が電撃能力ボルテージを、本堂が”指電”を放った。高圧電流がラドチャックのゴツゴツとした胴体に叩きつけられる……が。


「ヴオォォォォ」

「あ、あれ? 効いてない?」


 電撃を受けたラドチャックは、大して堪えた様子が無い。

 二人の電撃を意に介さず、触手を伸ばして反撃してきた。

 触手を真っ直ぐ伸ばし、二人を貫くつもりだ。


「わ、ば、バリアーっ!」

「くっ……!」


 北園は急いでバリアーを展開し、触手の槍を受け止めた。

 本堂はすぐさまその場から跳躍し、触手を回避した。

 本堂は跳躍しつつ、攻撃してきた触手に再び”指電”を放つ。

 電撃を受けた触手は、痙攣しながら引き下がっていった。


「やはり触手に電撃は効くが、本体には効果が薄いのか。あのゴツゴツとした身体が装甲の役割を果たしているのか?」


「部位ごとに耐性が違うの? 今までありそうで無かったタイプだね……!」


「と、とにかく、電撃で弱らせる作戦は中止です! 次はシャオランとズィークさん、ラドチャックに接近してヤツを殴ってください!」


「…………。」(頷くズィークフリド)


「…………!!」(涙目になりながら黙って首を横にブンブンと振るシャオラン)


「…………。」(シャオランを引きずっていくズィークフリド)


「助けてぇぇぇぇ!!」


 シャオランの必死の懇願も虚しく、ズィークフリドによって前線へと引きずり出された。ラドチャックは二人に向かって触手を伸ばす。


「…………!」

「うわぁぁぁもうやけっぱちだぁぁぁ!!」


 ラドチャックに向かって駆け出す二人。

 ズィークフリドは鋭い身のこなしで触手を避けていく。

 シャオランは『地の練気法』で身体を強化し、襲ってくる触手を素手ではたき飛ばしていく。


 やがて二人はラドチャックとの距離を詰め切った。

 ズィークフリドは空中で縦回転しながらかかとを斧のように振り下ろす。

 シャオランは”地の気質”を纏わせた肘をラドチャックに叩きつけた。


「ッ!!」

「せやぁッ!!」

「ヴォォォォォッ!」


 強烈な打撃音が、広い空間に響き渡る。

 岩のようなラドチャックの身体が、少し欠けた。


「ダメ押しだぁぁッ!!」


 そして彼らの後ろから日影が飛びかかってきて、欠けた部分に”陽炎鉄槌ソルスマッシャー”を叩きつけた。大爆炎がラドチャックを包み込む。


「ヴォォォォォッ!?」


 ラドチャックが悲鳴を上げる。

 日影の一撃はかなり効いたようだ。

 さすがは『星の牙』に特効を持つ『太陽の牙』の炎の一撃といったところか。


「ヴオォォォォッ!!」


 しかしラドチャックはまだまだ健在だ。

 すぐさま三人に向かって一斉に触手を伸ばしてきた。


「……っ!」

「うお、危ねぇ!?」

「ぎゃあああああ助けてぇぇぇ!?」


 急いで後退し、触手から逃れる三人。あれほど大量の触手に襲われれば、さすがのズィークフリドといえど避けるのは困難を極めるし、シャオランや日影はガードの上から触手に掴まれてしまうだろう。そうなれば、行き先はラドチャックの口の中だ。


 日向の元まで戻った三人は、結果を日向に報告する。


「全然ダメだよぉ! 素手じゃアイツを倒すのに一生かかるよぉ!!」


「ヤツがくたばるまで陽炎鉄槌ソルスマッシャーを食らわせようと思っても、先にこっちが燃料切れしちまうぞ。もういいじゃねぇか、お前がさっさと紅炎奔流ヒートウェイブ食らわせろよ」


「まぁ、もうそれしかないよなぁ。けど、ラドチャックはまだ大したダメージを受けていない。俺が紅炎奔流ヒートウェイブを撃とうとしたら、間違いなく全力で阻止してくるはずだ。だからみんな、俺が発射態勢を整えるまでしっかり守ってほしい」


「仕方ねぇな、外すなよ!」


「分かってる!」


 そして今度は、日向がラドチャックに向かって『太陽の牙』を構えた。他の仲間たちは、日向を守るように円陣を組む。

 ラドチャックの触手は伸縮自在。その気になれば、触手を伸ばして全方位から日向を攻撃することもできるだろう。それを防ぐための円陣である。


「太陽の牙 ”点火イグニッション”ッ!」


 日向の掛け声と共に、『太陽の牙』に業火が宿る。

 それと同時に、ラドチャックが全ての触手を伸ばして攻撃を仕掛けてきた。


電撃能力ボルテージ!」

「”指電”」

「せいやぁッ!」

「おるぁッ!」

「…………!」


 北園と本堂が電撃を放って触手を迎撃する。

 シャオランは回し蹴りを放って、日向を貫こうとする触手を弾き飛ばした。

 日影は剣を一薙ぎし、迫る触手を斬りつける。

 ズィークフリドは銃を取り出し、的確に触手を撃ち抜いていく。


 紅炎奔流ヒートウェイブのチャージは、五秒もあれば完了する。

 仲間たちの協力によって、日向は無事に紅炎奔流ヒートウェイブを放つ体勢を整えた。


「ぶちかまします! 皆、下がって!」


 日向の指示を受け、仲間たちは日向の射線から退く。

 前方を空けて、引き続き日向の左右と後方を守る。

 日向が紅炎奔流ヒートウェイブを放つその瞬間まで、油断はできない。


 そして今、日向が燃え盛る剣を振り下ろす。


「太陽の牙 ”紅炎ヒート……ッ!?」


 だがその時、日向の足元の床から一本の触手が飛び出してきて、その先の日向までも貫いてしまった。日向の腹にラドチャックの触手が深々と突き刺さっている。


「ぐ……しまった……足元から……!」

「ひ、ヒューガ!?」


 ラドチャックは触手を一本、床の下に忍ばせて、日向に向かって伸ばしていたのだ。それも、今までよりも深く、静かに。ゆえに床が盛り上がることもなく、完全に円陣の死角を突かれてしまった。


 日向の身体が、グラリと倒れる。

 このままでは、紅炎奔流ヒートウェイブが不発に終わる。

 たとえ不発に終わろうと、紅炎奔流ヒートウェイブには冷却時間クールタイムが必要になる。すぐに再使用とはいかないのだ。


「く……駄目でもともと……!」


 そう言って日向は、倒れながら剣を縦に振り抜いた。

 炎が日向の剣から放たれたが、その勢いはいつもより弱い。

 狙いも逸れてしまい、炎はラドチャックの身体をかすめるだけに終わった。


「ヴオァァァァァァッ!?」


 しかし炎がかすめただけでも、ラドチャックは今日一番の悲鳴を上げた。無事に直撃させていれば勝負を決められたかもしれないだけに、惜しい結果である。


 ともかくラドチャックはダメージ耐え兼ね、体勢を崩した。

 その隙に仲間たちは日向を助け起こし、日向も自身を焼く”再生の炎”に耐える。


「ぐ……ゴメンみんな、外してしまった……熱つつ……!」


「日向くん、大丈夫!? 私も治癒能力ヒーリングを使って、怪我の回復を早めるよ!」


「あ、ありがとう、北園さん……」


 北園の治癒能力ヒーリングの効果もあって、すぐに日向は自力で起き上がれるまでに回復した。細かい発見だが、”再生の炎”と北園の治癒能力ヒーリングは効果が重複するようだ。


「けど、いやな予感はしたんだ……。ラドチャックとしては、俺をガッツリ警戒して紅炎奔流ヒートウェイブを阻止できれば、戦局を一気に有利にできる。だから俺もそれを警戒して、皆に守りを固めてもらったのに、本当に面目ない……」


「気にしないで! そういう時もあるよ!」


「しかしどうする? 紅炎奔流ヒートウェイブ冷却時間クールタイムが完了するまで、また逃げ回るか?」


「いえ、どうせこの船のどこにいても、奴は触手を伸ばしてくるんです。ここは攻めを継続しましょう。それに一応、策はまだ用意してます。どれほど効果があるかは、まだ分からないんですけどね……」


「ふ、流石だ。なら、俺としても戦闘続行に異存は無い」


「それと本堂さん。いざとなったら”轟雷砲”を使ってもらうことになるかもしれませんが、大丈夫ですか?」


「……ああ、良いだろう。異存は無いと言った。二言は無い」


「もちろん、紅炎奔流ヒートウェイブでトドメを刺す線も捨てません。再使用できるようになったら、また挑戦しようと思いますので!」



 話がまとまると同時に、ラドチャックも体勢を立て直した。

 ここからは日向たちとラドチャックの、正面からの殴り合いになる。

 激闘を制するのは、果たしてどちらか。

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― 新着の感想 ―
[一言] 物語は新たな地であるノルウェーへ!! そして、そこで出会う星の牙は『確かにコイツは、普通の手段じゃ絶対に倒せんわ……!!』と唸らされるクマムシ型のノーデッド! 苦戦は間違いないかと思われ…
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