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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第8章 先を生きる者 その生にならう者
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第260話 グンカンヤドカリ

 十字市の隣の港町、その浜辺にて。


 見上げるほどの巨大な殻を背負う『星の牙』、グンカンヤドカリ。その周りには、配下であるヘイタイヤドカリが多数。


 日向たち五人は、海からやって来た砲術師の軍勢と真正面から向き合う。


 グンカンヤドカリは、まだマモノ対策室も未確認のマモノだ。

 日向たちは、手探りでこのマモノの攻略法を見出さなければならない。


「んで、どうするんだコイツら。さっきみたいにチマチマ倒していたら、あのデカいヤツに狙い撃ちされるだろ」


「あの殻についてる突起、全部キャノン砲なの!? 絶対ヤバいって! アイツ絶対ヤバいって! 殺意の塊みたいなヤツじゃん!!」


「どうするの? 私の”氷炎発破フュージョンバスター”で吹き飛ばす?」


「いや、せっかくだから、ここは俺がやるよ。アイツらが防御を固めたら、北園さんの水蒸気爆発にも耐え切りそうだ」


 そう言って、日向が前に出た。


 しかし、日向の”紅炎奔流ヒートウェイブ”は、北園の”氷炎発破フュージョンバスター”と比べると、威力が一点に集中しており、攻撃範囲が劣っている。そのぶん火力も高いのだが、あのヤドカリの群れを一撃で一掃できるとは思えない。


 オマケに、日向が”紅炎奔流ヒートウェイブ”を放つと、およそ五分ほどの間『太陽の牙』から星の力に対する特効が失われ、攻撃力が格段に落ちてしまう。

 周囲への被害、使用後の戦闘への影響、これらの二つの観点から、”紅炎奔流ヒートウェイブ”はおいそれと放てる技ではないのだ。


「……というワケだが、何か考えがあるのか、日向?」


「まぁ、考えというよりは、『新技』です」


「何?」


「ではさっそく、『太陽の牙 ”点火イグニッション”』!!」


 日向の掛け声と共に、剣の刀身に紅蓮の炎が宿る。

 刀身ごと焼き尽くさんとするその勢いは、さながら地獄の業火である。


 そう。日向には今、新しい技がある。


 今からしばらく前、九重老人とスイゲツが暮らす家に行ったあの日、その二日目、日向は狭山と共に、”紅炎奔流ヒートウェイブ”を何度も試し撃ちした。その際に、撃ち方のバリエーションを増やしておいたのだ。


 最も、特別なことはしておらず、ただ単に『縦斬りではなく、()()()でも放てるかどうか』を試しただけなのだが。


「太陽の牙……”紅炎一薙ヒートスラッシュ”ッ!!」


 声と共に、日向は剣を横一文字に一閃。


 すると、纏っていた炎が、日向を始点に扇状に広がっていった。グンカンヤドカリが、ヘイタイヤドカリが、炎に飲まれて焼かれていく。


 これが日向の新しい技。『太陽の牙 ”紅炎一薙ヒートスラッシュ”』。

 ただ単に、”紅炎奔流ヒートウェイブ”の横斬りバージョン。

 ぶっちゃけ、新技というほど大したものではない。


 しかし炎を横に広く飛ばすぶん、攻撃範囲は”紅炎奔流ヒートウェイブ”の比ではない。

 ”紅炎奔流ヒートウェイブ”が一点集中型なら、こちらは範囲攻撃型である。


 グンカンヤドカリの周囲にいたヘイタイヤドカリは、一気に全滅した。しかし、その中央のグンカンヤドカリは依然として健在だ。殻にこもり、ハサミを盾にして、日向の炎を防ぎ切ったのだ。”紅炎一薙ヒートスラッシュ”は範囲に優れるぶん、敵一体あたりへの攻撃力は落ちている。


「だが、よくやった。これで邪魔な取り巻きは一掃できた」


「ここから俺の攻撃力は五分間ほどガタ落ちです。”紅炎奔流ヒートウェイブ”が再度使えるようになるまで撤退するにしても、その間にグンカンヤドカリは町に砲撃を行うでしょう。というワケで皆さん、後は頑張ってください」


「そこはちょいとしゃくだが仕方ねぇか。せいぜい鍛えた思考力とやらで援護しやがれ」


 未だ日向の炎が消えない中、日影、本堂、シャオランの前衛三人が一気呵成に畳みかける。日影はオーバードライヴを、本堂は”迅雷”を発揮し、シャオランは『地の練気法』で身体能力を底上げしている。


 一方、グンカンヤドカリも黙って三人を接近させはしない。背中に背負った殻の砲塔から、砲弾を撃ち出してきた。複数のキャノン砲から同時に緋色のエネルギーが射出される。しかもヘイタイヤドカリのものより数段大きく、強力だ。


「うおっ!? 危ねぇ!」


「ひいっ!? け、消し飛ばされるぅぅ!?」


「固まっていたら、まとめて爆破されるな。散開しろ二人とも」


 本堂の言葉を受け、日影はグンカンヤドカリの向かって右側に、シャオランは左側に回り込む。本堂は正面から突撃する。


 しかし、グンカンヤドカリの背中の殻は、前だけでなく左右にも後ろにも砲筒がついている。回り込もうとお構いなしに砲撃を浴びせてくる。砲撃に晒された砂浜から、砂煙が巻き起こる。


「ったく! 無茶苦茶な野郎だ! なんでヤドカリが爆裂する砲弾なんか撃てるんだ!」


「恐らくは”溶岩ボルケーノ”の熱エネルギーなんじゃないか? グンカンヤドカリは”溶岩”の星の牙なのだろう」


 日影の愚痴に返事をしながら、本堂はグンカンヤドカリの砲撃を掻い潜り、真正面から高周波ナイフで斬りかかった。ナイフの刃にも電撃を流し、攻撃力をさらに底上げする。


 振るったナイフの刃は、グンカンヤドカリの甲殻を切り裂いた。

 しかし、まだまだ傷は浅い。グンカンヤドカリの巨躯に対して傷が小さすぎる。


「シュゴゴーッ」

「むっ!」


 グンカンヤドカリは、巨大なハサミを叩きつけて本堂を攻撃する。丸みを帯びたハサミは、さながら巨大なハンマーのようでもある。


 本堂は素早く後退して、ハサミの叩きつけを回避した。

 誰もいなくなった砂浜にハサミが激突し、砂埃すなぼこりが舞い上がる。


「おるぁッ!!」

「せやぁッ!!」


 そして、その攻撃の隙を突いて、日影とシャオランが両側面から攻撃を仕掛ける。日影の剣が甲殻に食い込み、シャオランの拳が甲殻を打ち砕いた。


「シギャーッ」


 グンカンヤドカリは悲鳴を上げて、両のハサミを振り回す。

 砂浜に叩きつけ、薙ぎ払い、前衛三人組を追い払う。


「クソ、あの野郎としては牽制のジャブのつもりなんだろうが、なにせあの巨大なハサミだ。こっちからしたらジャブでも必殺の威力だぜ。マトモに殴られたら交通事故みてぇなダメージを受けるぞ」


「しかし距離を取れば砲撃だ。こちらとしては、つかず離れず戦うしかない」


 近距離にいても、遠距離にいても、強烈な攻撃が飛んでくる。

 三人からしたら、やりにくいことこの上ない。

 グンカンヤドカリは今も、ハサミを叩きつけて暴れ回っている。


「よーし、今だー!」


 そこへ、北園がやって来た。

 ハサミを叩きつけまくっている今なら、砲撃が疎かになっている。

 だから、北園に砲撃が飛んでくる心配が無い。

 そう判断した日向の指示を受け、攻撃を仕掛けるつもりだ。


凍結能力フリージング、いっけぇー!」


 北園は、グンカンヤドカリに向かって猛烈な吹雪を発射する。

 グンカンヤドカリの背中の殻が、みるみるうちに凍っていく。

 複数のキャノン砲が氷によって塞がれ、砲撃が封じられた。


「でかしたぜ北園!」


「えへへー! ありがと!」


「よし、この隙に攻め込むぞ」


「こ、怖いけど、砲撃が封じられた今なら……!」


 グンカンヤドカリの攻撃手段を一つ潰した四人は、一気に攻勢に移る。


 北園と本堂が、遠距離から電撃で援護する。

 日影とシャオランはグンカンヤドカリに接近し、直接攻撃を仕掛ける。

 振るわれるハサミをガードし、掻い潜り、巨大な身体を斬りつけ、殴る。


「シシーッ」

「くぅっ!?」


 グンカンヤドカリがフックのように振るったハサミが、シャオランを殴りつけたが、シャオランも咄嗟に両腕でハサミをガードする。『地の練気法』によって身体を頑強にした彼は、素手でもグンカンヤドカリのハサミを受け止めることができる。


 オマケに、それだけではない。

 受け止めたグンカンヤドカリのハサミを、逆に掴んで放さない。

 グンカンヤドカリのハサミが一つ封じられた。


「今だ、ヒカゲ!」

「おうっ! 喰らいやがれぇ!!」


 シャオランによってハサミを一つ封じられ、ガードが緩んだ。その隙に日影がグンカンヤドカリの懐に潜り込み、”陽炎鉄槌ソルスマッシャー”を叩き込んだ。甲殻に叩きつけられた日影の左拳から、大爆炎が炸裂する。


「シギャーッ」


 悲鳴を上げて、砂浜に倒れるグンカンヤドカリ。

 だが、まだ討伐には至っていない。

 大ダメージに耐え兼ね、体勢を崩しただけだ。


「だが、この調子ならいけそうだな!」


「……あ、みんな、ちょっと待って!?」


 その時、北園が声を上げた。グンカンヤドカリに何か異変が起こったようだ。見れば、グンカンヤドカリの背中から白い煙が吹き上がっている。そして同時に、背中の殻の氷が凄い勢いで溶け始めている。


 北園が声を上げてから五秒もしないうちに、背中の氷は完全に溶けてしまった。


「い、今のは!?」


「まさか、”溶岩”の能力か!? 自身の体温を上昇させて、氷を溶かしやがったのか!」


「ま、マズいよみんな! 砲撃が来るよぉぉ!!」


 氷を溶かしたグンカンヤドカリは、再び猛砲撃を開始した。

 グンカンヤドカリの周囲360度、全方位に砲弾が撃ち込まれる。

 砂浜は、すっかり穴だらけだ。


 砲弾をばら撒きつつも、グンカンヤドカリは自由に動ける。

 そして、砲撃から逃げ回っているシャオランに狙いを定めた。

 両腕のハサミの中心に、水の塊を生み出している。


「シュゴーッ」

「えっ!?」


 狙われていると気づいた時には、もう遅い。

 グンカンヤドカリは、両のハサミから水流を撃ち出してきた。

 極太の水のビームが二本同時にシャオランを襲う。


「ひやあああああああ!?」


 慌てて両腕で水流をガードするシャオラン。

 水の勢いに押され、身体が後ろに下がっていく。

 それでもなんとか踏ん張り、水のビームに耐え切ってみせた。


 シャオランの近くにいた日影が、びしょ濡れになった彼の元へと駆け寄る。


「大丈夫か、シャオラン!?」


「うう……」


「シャオラン、どうした?」


「う……うわあああああ熱かったぁぁぁぁぁぁああ!!」


「熱い? さっきの水、熱かったのか?」


「キタゾノぉぉぉぉ! 治癒能力ヒーリングかけてぇぇぇぇ!!」


 悲鳴を上げるシャオラン。


 日影が見てみれば、確かにシャオランの両腕から、そして先ほどの水流で濡れた砂浜から、白い湯気が立ち上っている。先ほどグンカンヤドカリが撃ち出した水は、熱湯だったのだ。



 今の超能力じみた水の放射は、間違いなく『星の牙』としての異能だった。つまるところ、グンカンヤドカリは”溶岩ボルケーノ”と”水害ウォーターハザード”の二重牙ダブルタスクだ。

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