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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第8章 先を生きる者 その生にならう者
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第259話 追撃と殲滅

 十字市の隣の港町。

 そこに現れた多数のヤドカリ型のマモノ、ヘイタイヤドカリ。

 彼らのほとんどは今、自慢の殻を凍らされて得意の砲撃を封じられている。


 そして、今が好機と見た日向たち五人がヘイタイヤドカリの群れに切り込んだ。


 まずは日向が、先ほど仕留めそこなったヘイタイヤドカリに斬りかかる。殻への攻撃は防がれたので、そこから出ている顔を狙う。


「そらっ!」

「シーッ」


 ヘイタイヤドカリはハサミで迎え撃とうとしたが、日向が持つ『太陽の牙』とは絶望的なリーチ差がある。ヘイタイヤドカリのハサミは日向に届かず、成す術無く斬り捨てられた。


「よし、まず一匹!」


 そこから日向は、着実に一匹ずつ、ヘイタイヤドカリを仕留めていく。確かに身体能力は以前と比べて遥かに向上したが、それでも日影や本堂、シャオランのような前衛特化のメンバーと比較すると、多数を相手取るのはまだ不安だ。


 ”紅炎奔流ヒートウェイブ”で一掃できればいいのだが、ここはまだ町中だ。下手に撃てば周りの建物を巻き込む恐れがあるし、狙いを外した日にはヘイタイヤドカリの襲撃以上の大惨事を引き起こしかねない。


 その時、まだ砲身が凍っていないヘイタイヤドカリ三体が、日向に向けて砲撃を放ってきた。ドン、という射出音と共に、緋色のエネルギー弾が日向に飛来してきた。


「わっとぉ!?」


 日向は素早く身を屈めて、上体を狙ってきた一発目を避ける。

 さらにその場から右へ跳んで、続く二発目、三発目も回避した。


 今までの日向なら、間違いなく今の砲撃を喰らっていた。相手の攻撃を予測する暇も無い不意打ちは、日向が最も苦手とする攻撃だった。

 しかし、日向は見事な動きでそれを回避してみせた。ボール避けのトレーニングの成果が出ていると言っていいだろう。


「北園さん! アイツらを凍らせて!」

「りょーかい!」


 日向の指示を受けた北園が、先ほどのヘイタイヤドカリ三体に吹雪を放つ。冷気に包まれたヘイタイヤドカリたちの殻が、みるみるうちに凍り付いていく。


 北園の役割は、とにかくヘイタイヤドカリに冷気を放ち、砲撃を封じることだ。砲撃さえ封じてしまえば、後は日影をはじめとした前衛三人組が勝手に仕留めてくれる。


 日向がチラリと件の三人組を見てみれば、ヘイタイヤドカリたちの群れに突っ込んで片っ端から殲滅しているところだった。


「いやぁ、ホント凄いなあの三人」


 彼らの超人的な身体能力に羨望の気持ちが湧くのは無理もない。しかし、日向はこの五人の中において、作戦指揮と瞬間的な大火力を担当する。つまりどちらかというと、北園と同じ後方支援が主な仕事なのだ。


 故に、そもそも役割が違うので、彼らの身体能力はあまり羨ましがらないことにした。日向は、日向にしかできない仕事をする。


「あの三人、あれだけガッツリ突っ込んでいたら、きっと周りもよく見えなくなっているんじゃないかな。周囲を警戒するのも俺の仕事だ」


 ヘイタイヤドカリは、背中のキャノンで攻撃する。

 冷静に考えて、これは実に遠距離攻撃に適している。

 つまり、間違いなく狙撃担当のヘイタイヤドカリがいるはずだ。


 日向が周囲を見回せば、建物の陰から前衛三人に狙いを付けるヘイタイヤドカリが数匹いた。やはり狙撃担当の個体がいるのだ。


「三人とも! 建物の陰に狙撃担当のヘイタイヤドカリがいる! 狙われてるぞ!」


『マジか、小賢しいマネしやがるぜ!』


 通信機越しに、離れた前衛三人に声をかける日向。

 その三人の中から、本堂が狙撃担当のヘイタイヤドカリに突撃していった。


 狙撃担当のヘイタイヤドカリたちは、殻にこもって防御態勢を取る。しかし本堂は、殻ごとヘイタイヤドカリに電撃を浴びせ、仕留めてしまった。流れる電撃は、ヘイタイヤドカリが殻にこもろうとお構いなしに身体を焼く。


 この三人に対しては、日向は必要以上に指示を出さない。戦闘慣れしていて、判断力もある彼らは、日向が特別に指示を出さなくとも勝手に最良の行動を選択する。つまり、放っておいても大丈夫なのだ。日向としても、いちいち指示を出す手間が省ける。


「……けれど、一人だけ、そうもいかない人がいる。北園さんだ」


 普段からおっとりしていて、いかにも争いごとに慣れていない北園は、戦闘があまり得意ではない。周囲に対する警戒力も低いし、戦術もあまりよく分かっていない節がある。こと殲滅力に関しては五人の中でも屈指の物があるだけに、北園には効果的に動いてもらわなければ困る。


 そこで日向がカバーに入る。自身もヘイタイヤドカリと戦いながら、北園の動きを逐一チェックする。彼女の最良の行動を考えつつ、彼女の周囲を一緒に警戒する。


 すると、一匹のヘイタイヤドカリが北園に狙いを定めているところを発見した。


「北園さん! 三時の方向から砲撃!」


「りょーかい! バリアーっ!」


 砲撃が放たれるより早く北園に指示を飛ばす日向。

 そのおかげで、余裕を持って砲撃を防ぐことができた。

 緋色の砲弾は、北園が発生させたエネルギーの壁によって阻まれる。


「砲撃を撃てる個体もだいぶ減ってきた。ここからは電撃能力ボルテージに切り替えよう。凍らせる過程を飛ばして一気に仕留めるんだ」


「わかった!」


 日向の指示を受け、北園が両手から電撃を放出する。

 ヘイタイヤドカリが電撃を受け、痙攣しながら倒れた。


 自身を狙ったヘイタイヤドカリを仕留めた北園。

 続いて他の群れにも電撃を放つ。

 一気に十体近い数のヘイタイヤドカリが討伐された。

 やはり北園の火力を効果的に運用したら、戦闘は格段に楽になる。


 日向も自身の戦闘を忘れない。目の前にいたヘイタイヤドカリ一体に、剣を突き刺して息の根を止めた。


 その時、日向の背後から別の個体が襲い掛かってきた。

 日向の顔の高さまでジャンプし、背中の殻をフルスイングしてきた。


「うわっと!?」


 反射的に『太陽の牙』を構え、防御する日向。

 ハンマーで鋼を叩いたかのような金属音が響き渡る。


 ヘイタイヤドカリは、殻の先端が人間の腰ほどの高さまでしかない、比較的小柄なマモノだが、それでもパワーは相当なものだ。攻撃を受け止めた日向は、大きく仰け反ってしまう。


「シシシーッ」


 今こそ攻め時、とヘイタイヤドカリが畳みかけてくる。

 ……が、そのヘイタイヤドカリの横から、シャオランが駆け寄ってきた。


「せやぁッ!」

「シギャーッ」


 シャオランは、ヘイタイヤドカリを大きく蹴っ飛ばした。

 サッカーボールのように飛んでいくヘイタイヤドカリ。

 建物の壁にぶち当たり、歩道に落下した。

 起き上がれずにバタついていたところへ、日向がトドメを刺した。


「ナイス、シャオラン! 助かった!」


「うん! どういたしまして!」


「その調子で、どんどん頼むよ!」


「それはちょっと、もう怖いからイヤだ!」


「えぇー……」


 ともかく、日向たちの猛反撃を受けて、ヘイタイヤドカリはすっかり数が少なくなった。生き残った群れは背中を向けて逃げ出していく。とりあえず、町から追い払うことはできたようだ。


「やった! ヘイタイヤドカリが逃げていくよ! ボクたちの勝利だ!」


「……いや、たった今、狭山さんから通信が入った。どうやらこの先の浜辺に、ヘイタイヤドカリを率いる『星の牙』が出現したらしい。コイツもしっかり仕留めないと」


「なんで上げてから落とすんだよぉ……せっかく帰れると思ったのにぃ……」


「文句なら『星の牙』に言ってくれ。ほら、行こう!」


 日向の声を受け、五人は町の北端にある浜辺に向かう。

 ここから浜辺まではそう離れていないので、軽く走れば二分ほどで到着することができる。


 そして、まだ浜辺から距離があるにもかかわらず、浜辺に異様な物体が鎮座しているのを発見した。この距離から見えるということは、つまりそれだけ巨大なのだ。


 その身体のボリュームは、下手な一軒家よりずっと大きい。日向たちが戦ったマモノで言えば、ブラックマウントと同レベルくらいか。シルエットはヘイタイヤドカリと同じ、ヤドカリ型のマモノだ。


 身体の色は、焼き付いたかのような漆黒。

 人間の身体より数倍大きいハサミを振り上げ威嚇してきている。


 しかし何より、背負う殻があまりに巨大だ。

 軽く見上げるほどの高さがある。

 そして、その殻の至る所からキャノンが突き出ている。

 前後左右に満遍まんべんなく。


 周囲には多数のヘイタイヤドカリを引き連れている。

 その様は、まさしく大隊長の風格である。



 このマモノこそ、ヘイタイヤドカリを率いて町を襲った主犯格。

 今まで確認されていなかった、ヘイタイヤドカリの強化個体。

 識別名称は『グンカンヤドカリ』だ。

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