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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第8章 先を生きる者 その生にならう者
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第241話 許されざる者

 日向が北園やエヴァ・アンダーソンと共にアイスを食べていた、その一方。先日、シルフィードラゴニカを倒した廃マンションから、さらにもう少し離れた森林地帯に、日影がいた。


「おるぁッ!!」

「シャアアアアアッ!!」


 日影は、巨大な白いカマキリのマモノと対峙している。”濃霧ディープミスト”の星の牙であるミストリッパーだ。振るわれる鎌を避けつつ、『太陽の牙』で斬りかかる。


 前回の虫マンションのマモノたちを掃討した際、そのマモノたちの中に、ミストリッパーの幼体であるホワイトリッパーの姿が多く確認された。それを見た狭山は、あのマンションのどこか、あるいはその周辺に、親であるミストリッパーが出現しているかもしれないと予測した。


 それから数日にわたる調査の末、見事にミストリッパーを捕捉してみせた。狭山の推測通り、やはりミストリッパーが出現していたのだ。


 ミストリッパーが確認されたその次の日、すなわち今日、狭山は日影をミストリッパー討伐に派遣した。その際、日影は「腕試しがしたい」と言って、他の仲間たちを同行させず、こうして一人で討伐にやって来たのだ。


「コイツは以前、日向たちが倒したことがあるらしい。だったら今さら、お前なんぞに手こずっていられるかよ!」


 そう叫びながら、日影はミストリッパーを斬りつける。

 厚みのある、白光を反射する刀身が、ミストリッパーの腹部を切り裂いた。


「ギャアアアアッ!?」


 絶叫を上げながら、ミストリッパーは反撃の鎌を振るう。

 しかし日影は、剣の腹でそれを受け流しつつ、さらに反撃を加える。


 日影は今、オーバードライヴを使っていない。

 にもかかわらず、日影はミストリッパーと真正面から斬り結んでみせている。


(”再生の炎”の回復量は限られている。そしてオーバードライヴは、その限られた回復量を攻撃用の炎として転用する技だ。多用はできねぇ。オーバードライヴ無しでも戦えるだけの地力をつけなくちゃならねぇ)


「シャアアアアアッ!!」


 ミストリッパーが、勢いよく左の鎌を振り下ろしてくる。

 日影はそれに合わせて、『太陽の牙』を思いっきり振り抜く。

 両者の剣と鎌が激突し、ミストリッパーの鎌が真っ二つにされた。


「ギャアアアアッ!?」


 後転し、転げまわるミストリッパー。

 すでに身体は傷だらけで、力尽きる寸前のように見える。


 だが、マモノはその生命力の最後の一滴が尽きる瞬間まで、攻撃の勢いを落とさない。ミストリッパーはもはや隻腕の身だが、それでも完全に仕留めきるまで、油断はできないのだ。その証拠に、ミストリッパーが体中から白い霧を噴出させ、辺りを濃霧で包み込んだ。何かを仕掛けてくる気なのだろう。


「させるかよッ!」


 それを見た日影は、すぐさまミストリッパーにトドメを刺すべく、斬りかかる……が、ミストリッパーも素早く飛び退き、霧の中に姿を消した。


「ちぃっ、どこ行きやがった、面倒くせぇ……!」


『太陽の牙』を構えながら、周囲を警戒する日影。

 と、その時、真後ろに濃厚な殺気を感じ取った。


「そこだッ!!」


 振り向きざまに『太陽の牙』を薙ぎ払う。

 そこには確かにミストリッパーがいた。


 ……いたのだが、そのミストリッパーは、日影の一撃を受けると、文字通り霧散してしまった。


「何だと……!?」


 予想外の出来事に、日影の動きが一瞬、硬直する。

 そしてその隙に、日影の背後から何者かが斬りかかってきた。


「くっ!?」


 慌てて前方に身を投げ出し、背後からの凶刃から身をかわす日影。

 完全には避けきれず、背中に少し切り傷を受けてしまった。

 しかし、あともう少し回避が遅れていれば、切り傷どころか身体を縦に裂かれていたところだ。


 そして日影が振り返れば、そこには先ほど霧散したはずのミストリッパーが佇んでいた。


「シィィィィィ……!」


「こいつ……!」


 ミストリッパーは、短く日影に威嚇すると、再び後退して濃霧の中に姿を消す。


 そして一拍ほど間を置くと、今度は日影の周囲から三体のミストリッパーが姿を現し、日影を取り囲んでしまった。それを見た日影は、ニヤリと笑う。


「ははぁ、読めたぜ。つまり、これは”濃霧”の能力で作った、霧の幻覚だな。以前、キキ戦で松葉班の救出に行った時、鳥羽が言っていた『幻覚を見せる能力』だな。オレの周りにいる三体のうち、二体が霧の偽物。一体が本物ってことだ。ったく、姑息なマネしやがるぜ」


 以前、日向たちがミストリッパーを倒した時は、このような能力は使ってこなかった。やはりシルフィードラゴニカ戦以来、マモノたちの力が更に強くなってきている。


 日影は全身に力を込める動作をとる。オーバードライヴの発動準備だ。


「再生の炎……”力を此処に(オーバードライヴ)”ッ!!」


 そして、日影の身体が一気に燃え上がった。

 熱と共に、身体が力で満たされていくのが感じられる。

 オーバードライヴを発動し、ここで一気に決着を付けようというつもりなのだろう。


「さぁて、この三体のうち、本物はどれか。見分けるにはどうすればいいか……」


「「「シャアアアアアッ!!!」」」


 三体のミストリッパーが、同時に斬りかかってくる。

 残った右腕の鎌が、三つ同時に振るわれる。


 その鎌の軌道は日影を囲うようで、一見すると避けようにも逃げ場がないように見える。実際は迫る鎌のうちの二本が偽物で、一本が本物だ。回避の読みを外せば、身体が真っ二つにされてしまうだろう。


「……ま、避けるつもりなんて、ハナから無ぇんだけどな!!」


 そう言うと、日影は炎を凝縮した左手で、足元の地面を思いっきり殴った。自身の足元に向けて”陽炎鉄槌ソルスマッシャー”をぶちかましたのだ。


 地面に叩きつけられた日影の拳は、日影を中心に大爆炎を巻き起こした。

 ちょうど日影に斬りかかってきた三体のミストリッパーが、爆炎に巻き込まれて吹き飛ばされた。


「ギャアアアアッ!?」


 三体のミストリッパーのうち、二体が霧散し、一体が地面に倒れた。

 日影は、ミストリッパーの攻撃を引きつけ、まとめて反撃する手段を取ったのだ。


「お前、もう終わったぜ!!」


 そして日影は、残った本物のミストリッパーに飛びかかり、その頭部に『太陽の牙』を突き立てた。


 ミストリッパーは断末魔を上げ、二度と起き上がってくることはなかった。



◆     ◆     ◆



「戻ったぜー」


 声と共に、日影がリビングへと入ってきた。

 ここはマモノ対策室十字市支部。テーブルで狭山がタブレットを操作している。


「やぁ日影くん、おかえり。無事に帰って来てくれて嬉しいよ」


「おう。まぁ、なんてことはない相手だったぜ」


「もはや『星の牙』が相手でも、場合によっては一人で容易く倒せるまでになったかぁ。成長したねぇ」


「まだまだだ。もっと強くならねぇと。……ところでアンタ、さっきから忙しなくタブレットを操作してるが、何してるんだ? 心なしか、興奮気味にも見える」


「はは、分かっちゃうかい? 実はね、日向くんと北園さんが星の巫女と遭遇したらしい。それでいくつか新情報が手に入り、その整理をしているところだよ」


「星の巫女と……。日向アイツは、どうしたんだ? 戦ったのか?」


「いや、一緒にアイスを食べたらしいよ。エヴァちゃんはアイスをたいそう気に入ったらしい」


「……けっ、なに日和ひよってんだか」


 狭山の話を聞いた日影は、どうも楽しくなさそうだ。

 表情があからさまに不満げである。


「日向くんがエヴァちゃんと戦わなかったのが、不満なのかい?」


「ああ、そうだ。オレは巫女アイツを許さねぇ。アイツがマモノ災害なんぞ起こしたせいで、大勢の人が死んだんだ。松葉たちはもちろんだし、この間の中心街襲撃でも死んだ。フォゴールと戦った森の中で死体になってた奴らのことだって、忘れたことはねぇ。オレは記憶力だけは良いらしいからな」


「……つまり君は、エヴァ・アンダーソンを『裁くべき罪人』として見ているのか」


「そういうことだ。この先、アイツがどれだけ良い子ちゃんになろうと、オレはアイツを殺すぞ。アイツはもう引き返せねぇ。血を流し過ぎたんだ」


 そう言い残すと、日影はリビングから出ていった。



「……死人に口なし。死人はもう、相手に恨みつらみをぶちまけることさえできない。そんな彼らの無念を背負って、君はあの子を断罪するというのか。たとえ万人があの子を許そうと、君だけは犠牲者の痛みを忘れず、その思いを伝え続けるというのか。それもまた、君なりの優しさなのかな」


 静かに目を閉じ、しかし穏やかな表情で、狭山は独り、呟いた。

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