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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第8章 先を生きる者 その生にならう者
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第232話 虫マンション

 中も、外も、ビッシリと植物に覆われた廃マンションのエントランスにて。


 日影、北園、本堂の三人は、正面から襲い来る虫のマモノたちを迎え撃つ。ダンガンオオカブトやソニックブンブンゼミに加え、懐かしのホワイトリッパーまで混じっている。『星の牙』ミストリッパーの幼体のカマキリだ。


「やぁーっ!!」


 まずは北園が先制攻撃を仕掛ける。

 正面の通路や階段に向かって、爆炎をぶちかました。

 あっという間に通路が炎に包まれ、虫のマモノたちが炭と化す。

 そして、運良く炎から逃れた虫たちが、仲間の屍を乗り越え突撃してきた。


「おるぁぁッ!!」

「ふっ!」


 先陣を切ってきたホワイトリッパー五体の群れを、日影と本堂が迎撃する。日影が燃え盛る『太陽の牙』を一薙ぎし、三体まとめて斬り飛ばした。その剣閃は紅蓮の奔流を伴って、マモノたちを撃滅する。

 

 本堂は”迅雷”を一瞬だけ発揮し、加速する。

 蒼い閃光が、すれ違いざまに二体の首をナイフではねた。


『北園さん! 奥からまだまだ来てる!』

「分かってるよ! もういっぱぁーつ!」


 日向の通信を受けて、北園が再び正面の通路に火を放つ。

 その炎を突っ切るように、一匹のダンガンオオカブトが真っ直ぐ北園に向かって突っ込んできた。北園は他の仲間たちと比べると反射神経が鈍く、回避が遅れてしまう。


 ……だが、ダンガンオオカブトが北園を貫く前に、日影が剣をフルスイングして、ダンガンオオカブトを打ち返してしまった。


「場外ホームランだオラァッ!!」

「ブブブ……」


 日影の剣で殴られたダンガンオオカブトは、天井に叩きつけられ、床に落ちた。


「あ、危なかったぁ……。ありがと、日影くん!」


「おうよ。連中には触覚一本だって触れさせねぇぜ」


「張り切っているな。俺も負けてはいられんか」


 今度は本堂が”指電しでん”を放つ。

 高周波ナイフを仕舞い、両手を使って矢継ぎ早に連射する。

 床や壁、天井に張り付きながら接近してくるホワイトリッパーを、次々に仕留めていった。


『本堂さん、正面の階段からソニックブンブンゼミが来る! 撃ち落とせますか!?』


「任せろ。”指電”はコントロールにも自信がある」


『じゃあお任せします! ……しかしソニックブンブンゼミ……名前がシュールすぎてあまり口にしたくないなぁ……』


 日向の指示を受け、本堂は正面の階段を注視する。

 すると、予告通りソニックブンブンゼミが一匹、飛来してきた。

 こちらを認識するや否や、滞空して攻撃態勢を取る。


「ミ”ィ”ー!!!」


 ソニックブンブンゼミが腹を見せながら滞空したかと思うと、その腹から音の衝撃波を発射してきた。ブレる空気の塊が砲弾のように飛んでくる。


「ぬっ……!」


 本堂はそれを屈んで避けると、お返しに”指電”を一発お見舞いした。空間を走る稲妻は、見事にソニックブンブンゼミに命中し、撃ち落とした。

 それと同時に、先ほどの音の衝撃波が本堂の背後の壁へと直撃する。衝撃波がぶつかった箇所が、ハンマーで殴られたかのようにひび割れた。


「意外と、シャレにならん威力をしているな……」


 やや引き気味に、本堂は呟いた。


 その後、北園がもう一発、通路に発火能力パイロキネシスを撃ち込むと、虫の襲撃は収まった。二十体以上の群れと聞いていたが、最初の北園の炎で大多数は倒してしまったのだろう。


「んじゃ、先に進むか。残った虫どもを駆除するぜ」


 そう言って、日影が先に進もうとする。

 ……が。


『ちょっと待ってくれ日影。なんか嫌な予感がする』


 と、日向が日影を止めた。

 日影も通信機を耳に当て、応答する。


「嫌な予感っつったって、何があるんだ? エントランス付近のマモノの反応はもうゼロだ。死んだフリの可能性さえ無いだろ?」


『さっき皆が戦っている途中、現れたり消えたりしていた反応が一つあったんだよ。その反応は、この付近まで近づいてくるとパタリと消えてしまった。何か奇妙だ。敵が潜んでいるのかも……』


「衛星カメラの不調とかじゃねぇのか? どいつもこいつも間違いなく死んでるぞ」


 そう言いながら、日影は散らばった虫のマモノに注意しつつ、通路へと歩いていく。その時、「カリ……」と、天井で何かの音が聞こえた。


「ッ!?」


 日影は、即座にその場から飛び退いた。

 もはや野性的直感とでも言うべき、恐ろしい反応速度だった。


 そして、日影が今まさに通ろうとした場所で、天井から何かが突き破ってきた。巨大なハサミのようなもので日影を挟もうとしてきたのだ。


「っぶねぇ!? 何だコイツ!?」


「お、大きくて赤いクワガタみたいなマモノだよ……! あのハサミ、人間なんて一回で真っ二つにしちゃいそう……!」


『こいつは確か……『ブラッドシザー』だ! その大アゴは鋼鉄さえ切断すると言われている! 甲殻も非常に硬く、下手な弾丸は弾き飛ばすらしい! 『星の牙』ではないけど、強力なマモノだ! ……けど、衛星カメラに上手く反応しなかったのは、なんでだ……?』


「シーッ!!」


 疑問は残るが、ブラッドシザーと呼ばれた赤い巨大クワガタは、お構いなしに戦闘態勢を取る。その巨大なアゴを目いっぱいに開き、お前らを両断してやると宣言してくる。


「面白ぇ! これでも食らいな!!」


 そう言って、日影はブラッドシザーの真正面から斬りかかり、燃える『太陽の牙』を全力で振り下ろした。バキリ、とブラッドシザーの甲殻が砕ける音が響く。


「シー……ッ!」


「こ、コイツ、耐えやがった……!」


 背中の甲殻は砕かれたが、ブラッドシザーは日影の一撃を耐えきってみせた。


『太陽の牙』の、星の力に対する特効は凄まじいものだ。そのおかげで、日影や日向はこれまで『星の牙』でない雑魚のマモノをほとんど一撃で倒してきた。だからこそ、このブラッドシザーが日影の一撃を耐えたことに驚かされた。


「シシーッ!!」


 ブラッドシザーが大アゴを開き、日影に襲い掛かる。

 日影は真正面から斬りかかっていた。すでに大アゴの射程圏内だ。

 コンクリートをも切り裂くアゴが、包み込むように日影に迫る。


「くっ!?」


 咄嗟に日影は背中から倒れ込み、なんとかアゴの攻撃範囲外へと逃れた。

 日影を逃した大アゴが、ジャキンと金属音を立ててくうむ。


 その攻撃後の隙を狙って、北園がブラッドシザーに火球を発射。


「ええーい!!」


 火球はブラッドシザーの背中に命中すると、爆裂して轟音を上げた。

 並の昆虫型マモノであれば、バラバラになってもおかしくない一撃。

 ……それさえも、ブラッドシザーは耐え切った。


「な、なんて頑丈さ……!」

「ブゥーン!」


 ブラッドシザーは背中の甲殻を開き、羽を羽ばたかせると、北園に向かって飛びかかった。その大きなアゴを開いて。


「あ、やば……!」


 急に日影から自分へとターゲットを変更されて、北園の反応が遅れてしまう。


 ……しかしその隙を、本堂がカバーした。


「ふんっ!」

「ブッ!?」


 本堂は”迅雷”を使用し、北園に飛びかかるブラッドシザーに素早く接近すると、その腹を蹴り飛ばして壁に叩きつけた。


 壁に激突したブラッドシザーが、床へと落ちる。

 背中から床に墜落し、無防備な腹部が露わになる。

 その腹部に、本堂がナイフを突き刺してトドメを刺した。


「……終わったか。通常のマモノで、この強さとはな」


 ブラッドシザーの息の根が止まったのを確認すると、本堂は迅雷状態を解除し、大きく息を吐いた。残りの二人も集まってくる。


「あ、ありがとう、本堂さん! 助かりました!」


「ああ。無事でよかった」


「しかしまぁ、このマモノ、こんなにタフなヤツだったのか。もっと詳しく教えてくれよ、日向?」


『わ、悪い。まさかこれほどまで頑丈だったとは……』


『いや、今のは自分から見ても、少しおかしかった』


 と、ここで今まで静観を決め込んでいた狭山が、通信に参加してきた。続けて、現場の三人に声をかける。


『今までのブラッドシザーであれば、日影くんの一撃をなんとか耐えきったとしても、続く北園さんの火球で絶命していたはずだ。……だが、それさえ耐え切って反撃を仕掛けてくるとは』


「このブラッドシザーが、特殊な個体だったってことか?」


『可能性はある。日向くんが言う、衛星カメラで捉えられなかった理由についても調べる必要があるね。後でそこのブラッドシザーは、サンプルとして回収させてもらおう。星の力が抜け落ちて消滅する前に、データを取らせてもらわなければ』


「それじゃあ、早く他のマモノもやっつけないとね!」


『そういうことだね。今の襲撃で半数以上のマモノは駆除できたようだが、まだまだマンション内には結構な数が潜んでいるようだ。油断せず、探索を続行してほしい』


「りょーかいです!」

「分かりました」

「おう、分かった」


 狭山の指示に、力強い応答をする三人。

 ……と、そこへ日向が口を開いた。


『……今回、妙に話がトントン拍子で進んでいる気がする。いつもなら、もう少し話が長引いている気がするんだけど……』


「そうかぁ? ……そうかも」


「言われてみれば……何でだろ?」


「シャオランがいないからじゃないか?」


『ああ……納得。けっこうな騒音ノイズだからなぁシャオラン。賑やかだから嫌いじゃないけど』


「いつもなら、さっきの返事のところで『ヤダ!』って言ってるもんね」


「さっきのブラッドシザーの不意打ちを見てたら、腰抜かしてたんじゃねぇかな。オレでもかなりビビったからな。……んじゃ、疑問も解決したところで、先に進むぞ」


「おおー!」


 日影の言葉に、北園が握りこぶしを高らかに上げて返事した。




◆     ◆     ◆




「へくちっ!」


「あらシャオラン、くしゃみなんて、夏風邪でも引いた?」


「うーん、どうだろ? 熱っぽい感じはしないし…………はっ、まさか……」


「なに? 何か心当たりがあるの?」


「まさか、今日のマモノ退治に行った三人が、ボクが来なかったからって恨みつらみをぶちまけてるんじゃ……!?」


「いや、あの人たちに限ってそれは無いでしょ。落ち着きなさいよシャオラン」


「あぁぁぁぁぁぁ……顔だけでも出しとけばよかったぁぁぁぁぁ……。あとで絶対袋叩きにされる! む、村八分だぁーっ!!」


「ダメだこりゃ」

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